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CERVATOS  作者: 春戸 稲郎
五月
29/66

調査


「南都先生の職業がばれたわ。情報の流れを特定する」

 職員室に入ると、マリベルは矢継ぎ早に監視班に指示を飛ばした。

「ルナ、今日来てる大学生風の二十代のカップルを顧客リストと照合してちょうだい」

「はいよー」

「アイナは三ヶ月前の入店客リストから、南都先生が初めてうちに来た日を特定して」

「はーい」

「それがわかったら、その日の南都先生周辺の映像のチェックを……パンチョ、お願いできる? 彼女に話しかけた、日本人、四十代以上、痩せ型の男を特定して」

「わかった。そのナンパ男が秘密を振り撒いたんだな?」

「そういうこと。染谷先生は、わたしにお茶」

「……いやいやいやいや」

 手際のいいマリベルの指示に、危うく染谷はポットのそばに動こうとした。

「ノリで先生に命令しちゃダメ」

「ケチね。いいじゃないお茶くらい」

「そういう問題じゃ……」

「ひめー、カップルを見つけたよー」

 モニターを見つめたままの瑠奈が手を上げた。

「ルーレットルームにいる。女のほうはこっちのリストに載ってない。新客だね」

「若い女の客は少ないから、そうだろうとは思ってた。男のほうは?」

 マリベルは瑠奈のいる席に近付き、自分の目でモニターを確認する。瑠奈は分厚いファイルをぱらぱらとめくる。

「えーと、日本人、男性、二十代だと……この人かな? 奥野晴彦。現在二十一歳の大学生」

「晴彦さん? 間違いない?」

「久しぶりだから見た目がだいぶ変わっちゃったねー。顧客リストの写真を更新しなくちゃ」

「不覚だわ。お客様の顔を忘れるなんて。もっと目を鍛えないと」

 ふたりの少女の会話を遠くに聞きながら、染谷は奥野という名前に引っ掛かりを覚えた。

「姫は頑張ってるよ。……うん。間違いない。この人はあのエロ坊主の息子だ」

 瑠奈の言葉でようやく染谷は、奥野という、先週に無間斎とひと悶着(もんちゃく)を起こした生臭坊主を思い出した。そして続けて親のほうはどんな顔だったっけ、と思い出そうとする。

「姫様、こっちもわかったよ。南都先生が初めてうちに来たのは二月の第一週の土曜日」

「了解。パンチョ」

「ほいきた」

 書類棚の前に立つ愛奈からの報告は、マリベルを仲介して指示となり、パンチョと呼ばれた男子児童を動かした。ちなみに、パンチョというのはもちろんあだ名である。本人が若葉館の男子棟でいつも〈パンツ一丁〉で行動していることから〈パンチョ〉というあだ名を(たまわ)っていた。なぜか本人もそれを気に入っていて、マリベルにもそう呼ばせている。

 さてさて、とマリベルは顎に手を当てて考える。

「南都先生の秘密を知ったのは、晴彦さんか、彼の恋人(チカ)か。……アイナ、ふたりに事情を聞いてきてちょうだい。ついでに晴彦さんの恋人の名前も受付の名簿から拾ってきて」

「わかった。行ってきます」

「えー? そしたら俺がチェックする必要ないんじゃね?」

「南都先生に接触した〈ナンパ男X〉から直接カップルだけに情報が漏れたとは限らないでしょ? 南都先生の秘密を知ってる人には全員黙っててもらわないといけないんだから」

「へいへい」

 しぶしぶといった様子で、問題の日の監視カメラの映像を収めているだろうDVDのケースを一抱え持って、パンチョはテレビモニターのある机に座った。

 マリベルからの指示を受けた愛奈が職員室を出た直後だった。

「姫様、よろしいですか?」

 立川そらなが扉の前の廊下に立っていた。

「どうしたの、ソラナ」

「〈アイス〉が面会を求めています。『折り入って相談がある』と」

「ふぅん……頼み方はどうだった? 偉そうだった?」

「非常に謙虚でした。『直接そっちに押しかけるのは迷惑でしょ』と、わたしに仲介を」

「そう。それなら聞くだけ聞いてやろうかしら」

呼んできて、とマリベルが言うと、そらなは頷いてその場を去った。つくづく彼女はこのカジノの〈女王〉だなと思いつつ、染谷はパンチョのそばに近付く。

坂東(ばんどう)くん。映像のチェック、僕も手伝うよ。ひとりじゃ大変だろう」

「え? いいの? 先生は俺たちに反対なんだろ?」

「賭博行為についてはね。女性の秘密を守るのは別だよ。……マリベル、いいよね?」

 一応の確認を取ると、マリベルは「勝手にすれば?」と笑って答えた


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