賭博の十戒
マリベルが封筒の中から取り出したのは、便箋に直筆でしたためた〈賭博の十戒〉。
それは〈賭博で勝つための掟書き〉ではない。〈賭博を娯楽にするための戒め〉だった。
―――その一、賭博は自分の金ですること。
「自分の自由にできるお金だけで楽しむの。自分や家族の生活費、誰かと約束して積み立てているお金、会社のお金、そして人から借りたお金を賭博に使ってはいけないわ」
―――その二、現金で勝負をすること。
「賭博でお金を失うのは、とても痛い。でも痛みは大切な危険信号でもある。これが麻痺するとあっという間に破産するわ。だから賭博は絶対に、痛みのわかる現金ですること」
―――その三、賭博に使う金額を事前に決めること。
「これ以上負けたらおしまい、という線引きをするの」
―――その四、賭博に使う時間を事前に決めること。
「丸一日でも構わない。ただし、『絶対にこの時間まで』という時刻を決めておくの」
―――その五、ゲームのルールを把握すること。
「できるだけでいいわ。控除率や戦法を把握しておけば、なおのこといい」
―――その六、賭博の負けを賭博で取り返そうとしないこと。
「賭博のどつぼに嵌るのは、失ったお金を取り返そうとして高い勝負をするときよ。高くなる勝負に慣れていって、いつか決定的に負ける。負けは負けとして受け容れること」
―――その七、賭博を生活の一部にしないこと。
「遊園地には毎日行かないでしょう? カジノも同じ。たまに遊ぶから楽しいの。遊園地に毎日通い詰めている人を想像して。日常生活が破綻していると思わない?」
―――その八、できるだけひとりで賭博をしないこと。
「自分が熱くなっているときに諌めてくれるような人が望ましいわ。遊園地も気の合う友達と一緒のほうが楽しいでしょう?」
―――その九、賭博以外の趣味を必ず持つこと。
「直接は関係ないけど、ほかの趣味があれば、そちらに回すお金について考えることもできる。稼いだお金をすべてつぎ込む価値は賭博にはないわ。ただの娯楽だもの」
―――その十、イカサマの誘いには乗らないこと。
「賭博における一番の罪。イカサマに走るということは、目的がゲームを楽しむことからお金を得ることに変わる。そうなった人は、お金のためならどんなことでもやりかねない」
これらはすべてマリベルが、誰かに教わり、独自に学び、獲得した心得である。
「掟に十一個目があるとすれば、〈これらの掟を、賭博をする誰かに教えること〉だと思う。だからわたしは、南都先生を信じて、これを託すわ」
そう言って、マリベルは南都に、戒めを詰めた封筒を渡した。




