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CERVATOS  作者: 春戸 稲郎
五月
21/66

麻雀ルーム


 さらに隣の教室、二年二組、麻雀ルームに入る。

 四つある全自動麻雀卓はふたつ稼動していて、今まさにゲームの始まった卓に、マリベルは声をかける。

「お待たせしてしまい申し訳ありません。今回のゲーム代は当カジノが負担いたします。存分にお楽しみください。……叶先生、ご協力ありがとうございました」

 マリベルが改めて礼を言うと、バカラルームから移ってきた叶は「どうということはない」とでも言いたげに黙って片手を挙げた。

 卓を挟んで叶の正面に座っていた六十手前の男の背後に回り込み、そっと肩に手を置く。

「お楽しみのようですね、理事長先生」

「やぁやぁ。さっきはお客さんをパンクさせて悪かったね。今日はついてるよ」

「なんだい、あんたこの学校の理事長だったの?」

 同じ卓に座る中年女が呆れたような顔をすると、麻雀牌をつまみながら理事長は笑う。

「夜ともなればひとりの人間ですよ」

「ここも裏ではあんたが仕切ってるんだね。悪い人だよ」

「今後ともご利用を頼みますよ?」

 理事長がにやにやと笑いながらそう言うと、彼の肩に置くマリベルの手に力がこもった。

「理事長先生、誤解を招く危険な発言は控えてください。ここの責任者はほかの誰でもなくわたしです。……万が一のことが起こったとき、そのお歳で冷たいホテルはお嫌でしょう?」

 マリベルの冗談めかした注意は、少しだけ理事長の表情を強張らせた。

「怖いことを言わないでくれ、マリベルさん。わたしは遊んでいるだけだよ」

「もちろんです。……それでは失礼いたします」

 マリベルは頭を下げて、麻雀ルームを出た。


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