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世界を壊せ

……真っ暗な世界。だけど何故か心地いい。

真っ暗だけど何処か暖かい居心地のいい場所。

何も考えず、ずっとこうしていたいと思える程の安心感


ここは…何処だろう?…良く分からない場所だ。

……母親の胎内とはまた違う気がする。

それにその場所で幸せを噛み締めているうちにあることに気づいた。


……ここ…少しずつ…狭く…なってる…?

真っ暗だからよく分からないが…俺の体…成長しているのか?

そう考えて行き着くものの答えは簡単。

『卵』だ。

母親の体内でないのなら卵しかありえない。

そうなるといずれは、ここから出ないといけないのかもしれない。

でも…めっちゃ出たくない。

…ここから出るくらいなら、俺もっかい死んでもいいや…。

俺の静かな呼吸音だけが聞こえる暖かな世界。

今の俺にある俺だけの世界。

俺は見えない世界で瞼を閉じた。




『……大………ぁ?』


なんか聞こえる。

外の世界から厚い殻越しに。


『…も……きても………の…ぁ』


野太い声だな。

親父かな。

その顔を見てみたい気もするけど…ここを出る勇気は無いな。

うん……何かされそうになったら転がって逃げよう。

親父殿、悪いな。

俺は…この中で…死ぬわ。

そして再び瞼を閉じる。





「いやいやいやいや…いやいや!!駄目ですよ!!」

頭に直接響くような声が聞こえた。

「ちょっと傍観してましたけど、なんで産まれないって方向に思考が行っちゃうんですかぁ!生き返る為の転生でしたよね!?ね!?」


『…うるせぇ、黙れ。…誰だよお前。俺の世界に入って来んな』

心地よい気分を害されて言葉遣いが荒くなる。



「わ…私は創造主です!貴方を創りたもうた者です!その暗い世界を壊して新しい世界へと旅立ちなさい!…貴方はそう在る運命です!」


……暗い世界を…?

『壊す?』

この今の俺の世界を?


「そうです!その世界を壊してこそ新しい世界へと向かうことが出来ます。さぁ…今がその時です!自分の力で自分の意思で!その世界を壊しなさい!」


…何なんだこいつ。

そんな面倒な事するくらいならこのまま、命尽きてまた転生した方がいいだろ。

…母親の体内ならまだしも…卵なら無精卵とかあるし、死んでても問題ないだろ。


『嫌だ。絶対出ない。俺はここで、この中でお亡くなりになりたい。』


「えぇっ!?それじゃ困ります!」


『それこそ俺の知ったことじゃないな』


「そうですか…じゃあ…仕方ありませんね!……その世界を壊す為にこちらから手を下させてもらいます!」


『……何する気だ…?』

なんだか嫌な予感がする。


「ふふフフフ…私は神様ですよ?…外の世界の者に壊してもらいます!」


『やめろ!まじで!俺ここで一生終えるんだから!おい!聞けって!』


殻の中で叫んでいると、眩い光が上から差すと共に…

頭に何か落ちてきた……。


(…何コレ…卵の殻……みたい……………な…。)


上から差し込む光が眩しすぎて目が開けられない!

そうこうしている間に上の穴が広がる。


『止めろって言ってんだろうがぁ!!』

「ガルゥワァ!!」


目を閉じて叫ぶと俺の口から獣の声が出てくる。

何とか抗おうと必死に手を伸ばして穴を埋めようとするが、穴を開けた人物は、俺とは逆に穴を必死に広げようとしていた。


「…頼むよぉ…!…生きててくれ…!」

厚い殻越しに聞いたいつかの野太い声が切羽詰まった様に、独り言を漏らす。


俺の必死な努力も虚しく眩しい光が広がり、俺を包む。


「キュルアァァ!」

(イヤアァァァ!)

眩しすぎる光を遮るように背中にある俺の体の一部が顔を覆う。

殻の外の外気に当てられ硬直する。

心無しか体が細かに震えている。…寒い訳では無い。


「大丈夫か…?生きてるか…?」

野太い声が数分たった頃くぐもって聞こえた。


瞼越しに慣れた光を目を開いて見てみた。

…目を開けると目の前には……天使の羽毛があった……

優しく触れてみたその時…

俺の手が視界に入る。


「…キュ…。」

(白い……四足歩行用の手…だ。)

と思ったが、目の前の羽毛の欲求には逆らえずその手で優しく触れる。

フワッフワ……フワッフワ!!


「キュッキュワウ!」

(ナニコレメッャ気持ちい!)


あまりのふわふわ感に我を忘れてモフっていた。

いかんいかん…まずは状況把握だ。

羽を退かして辺りを見回す。


まず目に飛び込んだのは窓の下のベッド…?

眠るはずの場所に何故、服の山がオブジェの様に積み上げられているのか……。

更にベッドの下には大量の埃を被った木箱。

これでもか!!

という程にぎゅうぎゅうに入れ込んである。

色んな形の木箱を押し込んでいるせいでほんの少しの隙間が所々にある。


「…キ、…キュゥ?」

(い、一応…ベッ…ド…だよな?)


ベッド?から目を逸らし、自分から見て右側をなんとなしに見る。


「…良かったぁ…生きてたなぁ…よく頑張ったなぁ……良がっだァァァ!…ヴアァァァァァ!!」


卵の殻を割ったのであろう猫耳のついたオッサンが居た。

……思わず二度見した。

…うん…。

二度見した。


そのおっさんを今、一言で表すなら。

「ギュ…ィ…」

(きっ…たねぇ…)


…俺の事を心配してくれていた事が痛い程良くわかるんだ……

いや…うん。分かるんだけども!!

汚いから!顔中の穴という穴から水分が出ている感じと言えばわかりやすいか…。

断じて分かりたくないがな!!

「キ…キュゥゥ?」

(オッサン…大丈夫か?)


猫耳オッサンから距離を取りつつ問いかけてみる。


「お、俺のごどまで…しっしんばいじでぐれるのが…」


と、まぁ…そう返事が帰ってきた訳だが…

「キュフゥ…」

(頼むから顔面、拭いてくれよな)


そう口にした時だった。

オッサンの手が(何かの水分付き)、俺の頭に向けて伸ばされたのは。


「ギュ!?」

(はぁ!?)


咄嗟に後ろに後ずさりするものの、今俺のいる場所が小さな丸テーブルの上だった事をすっかり忘れていた。


「キ、キャウ!」

(あ、落ちる!は、羽うごけ!)


一瞬の事で頭が回らない。

生まれてすぐ落ちて死ぬとか…どんだけ。

諦めかけた…その時。

自身の背に湿った感触と、ゾワゾワと汚物に素手で触ってしまった時のような悪寒が背筋を駆け上がる。

「あ…危なかったァ!!ギリギリセーフ!だな!」


そうオッサンの声が聞こえた瞬間、理解した。

「ギュルアアァァァ!!!」

(いやあああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!)


あまりの衝撃に叫び声をあげた。

「え?何だ?…どうしたんだ…?……にしても無事で良かったぁ…とりあえずここに居てくだせぇ」


そう言ったオッサンは俺をベッド上の服のオブジェの頂上へと俺を下ろした。

どうしよう…もう泣きたい泣いていい?


服のオブジェの頂上で俺は湿った自分の背中の毛を必死に服に擦り付けた。


「あはは、可愛いことするんだなぁ…」


お前のせいだがな!!

キッとオッサンを睨みつける。



「…んん?なんだろ?…あ!そっか!腹ァ減ってんでさぁね!」

そう言ってオッサンは丸テーブルを挟んでベッドの反対側の壁際に取り付けられているシンクへと……シ、シン…ク?

まぁ…とりあえず歩いてった。

「赤ちゃんと言えばミルクだよな!ちょっと待っててくだせぇ!すぐ出来ますんで!」


やたらと大きな声でそう言うと…

おびただしいゴミの山の様な物の中から鍋を取り出し、

緑の混じった白っぽい粉を入れ変な臭いのする水を入れ、

混ぜてから火をつける。


ここまで見ても俺の知ってる粉ミルクの作り方と違うと言うか…なんというか…。

でもこの先がヤバかった。

……ハエの量がパネェ…。

俺がそう思った時だった。

衝撃的な事が起きたのは。

鍋の周りを飛び回っていたハエが沸騰する熱気に当てられ鍋の中に落ちたのだ。

しばらく唖然とそれを見たいた…。

…あッ!?ハエがもう1匹鍋に落ちた!!

「キュォウ」(うん。逃げよう。)


部屋の構造はっと……

……改めて見るとヤバいの一言だな。

部屋の中央部分に卵だった俺が置いてあった丸テーブル。

丸テーブルの右側に窓とその下の…ベッド。…とオブジェ。

丸テーブルの左側に壁際に備え付けられたシンクと…冷蔵庫?

冷蔵庫…扉開けっ放しなんだけど…

というか、中にゴミとカビが蔓延っているんだけど!!

あの白くてフワフワした奴胞子放ってない!?

大丈夫なの!?この部屋は!!


丸テーブルの上側に衣装ダンス。

こちらも扉は開けっ放しな上に、脱ぎ捨てた服の山とそれに埋もれた大きな鍋が見える。

シンクの少し離れた左側の壁にどこかへ続く扉が1つ。


床を見るとゴミと埃と虫が敷き詰められている。

……なんっっっっっちゅう!汚部屋だよ!!!

どうしたらここまで汚く出来るんだよ!!

アホか!アホなのか!!アホなんだな!?


はぁ…取り敢えず逃げれそうなのはシンク横の扉と、今俺の後ろにある窓だけか…。




…さて、部屋の構造確認も済んだし次は俺の容姿を確認しようか!!うん!!


まず手!…うん!四足歩行用の可愛い手だね!

あ、でもでも物は掴めるし二足歩行も出来るっぽい。

頭の部分は確認出来ないな…。鏡がないし…。


次にお尻!

猫の長い尻尾に狐のようなふわふわの毛が尾の先まで覆っている。ナニコレ可愛い!!

あとは背中に羽あり…と。


見事に可愛い部分しかない。

強そうな要素が1つもない。

牙や爪はあるがまだ小さくて武器にはならない。

自身の体を一通り見てみたけど……

可笑しい事に人間の部位が無い。

もし仮に億万歩譲ったとしてこの猫耳のオッサンが俺の父親だったとして人間の部位が無いのは可笑しくないか?

…そもそも母親は何処だ?

母親が居たなら粉ミルクなんて作らないよな…?


……俺…これからどうなるんだろう…

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