16話 ホームシック
はじめは食器類の片付けを終え、クロムに使用してもいいと言われた部屋に入る。
(俺の住んでたアパートより狭いな……それになんか埃っぽいしさ、ベットも硬いし。)
一文無しで居候しておいてこの言いようである。
(とりあえずこの世界に来ただけでも、びっくりなのに色々あったな……モンスターに襲われ、クロムさんに会って魔法使えて、ミリアって可愛い子に会えて。 俺が居なくなった世界ってどうなってるのかな? 仕事は正直どうでもいいんだけど、アパートの家賃、光熱費の支払いとか……あとは母さんと父さんだよな……折角就職して、いやいやだけど仕事始めた時はなんだかんだ喜んでくれてたんだけどな。 )
はじめは若干のホームシックにかかっていた。
異世界にこれた事は嬉しい事に間違いないのだが、前の世界が嫌だったのは働く事で、はじめの父母は普通には好きだったから。
(交通事故で転移したはずなんだけど、向こうでは居なくなってるのかな? それとも死んでるのかな? 戻りたいとかはわからないけど、母さんと父さんには少し会いたいな……。)
どんなに憎まれ口を叩いても会う事のできない存在になってしまえば、喪失感が襲ってくるものである。
それが親なら尚更である。
(寂しいのはあるけど実際に事故死っぽいしな、まあ二度目の人生だと思って楽しむか! 考えても変わらない事なら考えなくてもいいや。)
切り替えが早いというか、思考の放棄というか……この辺りがはじめの美徳であり愚か者たる部分だ。
(今日はもう疲れたから、とりあえず寝ようエクストラクションの魔法はクロムさん調べるって言ってたし、明日色々試してみよう。 あとリカバリーって回復魔法もあるんだよな? それもなんか特別だったりするのかな? この流れだと俺が賢者にでもなるんじゃね?)
確かにこの流れだと何かあると思うのも仕方ないが、この男が賢者になる事はないのである。