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いせかい

今日は学校にはいかない事にする。誰にも覚えられていないのなら別れの挨拶をしても戸惑わせてしまうだけだろう。


夕方、あの本があった図書館に来てもらうよう奏太にメールをした。奏太は最初は俺の事を忘れていたようで怪しんでいたが、まだ少し経つと思い出せるようで了承してくれた。


とりあえず、夕方まではこれからの事をアイリスから聞き出す事にした。


アイリスは相変わらず飯を食べる時以外は布団に潜り込んでいる。やはり、吸血鬼というだけあって日の光が苦手なのだろうか。


ちなみに俺は心身ともに吸血鬼になったらしい。まぁ、元の人間の魂が混ざり込んでるからハーフの吸血鬼という事になるらしいが。



一応部屋の扉をノックしておく。


コンコン


「アイリス入るぞ。」


やはり布団に潜り込んでいた。

スー、スーと寝息が聞こえてくる。


まず初めにカーテンを全開にして日の光を室内に差し込ませる。

次にガバッ、と布団を剥がす。


「むぎゃあぁーっ。何するんじゃばか者!眩しいじゃろが!」


ぎゃーぎゃー、と叫びながら顔を覆ってベッドの上を転がり回る真祖(笑)様。


「あれ、てっきり日の光を浴びたら溶けるんじゃないかと思ってたよ。お前、溶けないのな。」


「シロは勘違いしとるが儂が朝弱いだけで日光なんぞ浴びても全く問題ないぞ。儂の周りの吸血鬼の中には朝日を浴びながら健康体操をする奴もおるしの。」


じっとりした目でこちらを睨みながら説明してくれるアイリス。


本当に日光大丈夫なのかな?頭から煙が出てるんだけど大丈夫なのか?


一応アイリスは命の恩人なのでカーテンは閉めておく事にした。


「向こうはどんな世界なんだ?言葉とか通じるか?」


「大丈夫じゃ、言葉は同じじゃからな。まぁ、儂の言葉が通じた時点で分かる事じゃろうに。」


む、確かにそうだな。でもなんで異世界とこの世界の言葉が同じなんだ?わからんな。



「向こうがどんな世界かは説明し辛い。言ってみればわかる事じゃ。」


「そうなのか、まぁ、向こうでは頼れるのはアイリスだけだ。よろしく頼む。」


「よろしく頼まれてやる代わりに朝は優しく起こせ。」


ムスッとした顔で吐き捨て布団にまた潜り込んだ。


それにしてもこいつ本当よく寝てんな。飯の時しか起きてこないじゃねーか。

ーーーーーーーーーーーー






ーーーーーーーーーーーー

「やぁ、神崎くん。僕に話ってなに?」


図書館で奏太を待っていると前までと違うよそよそしい態度で奏太に話しかけられた。


「いきなり呼び出してごめんな。実は茜の事についてなーーーー」


言い終わる前に奏太の言葉に遮られる。


「茜ちゃんどこにいるか知ってるのッ?」


すごい剣幕で近寄ってくる。俺の知っている限り奏太がこんな顔をした事は1度もない。


「あぁ、今から話す。だけどその前に言っておくが、かなり突拍子もない話だ。それでも全部本当の話なんだ。出来れば信じて欲しい。」


「もちろん信じるよ!茜ちゃんを早く探してあげないと!」


幼馴染とはいえここまで心配してくれる友達がいた事を茜は嬉しく思うだろう。


「実は、僕は茜ちゃんが好きなんだ。茜ちゃんの為ならなんでもするし、なんでも信じるよ!」


衝撃を受けた。そうだったのか、知らなかった。それなら今まですごく嫌な思いをさせていたかもしれない。それに、今から話す内容も伝えづらくなってしまった。


まあ、話さないとダメだよな。

ーーーーーーーーーーーーーーーー






ーーーーーーーーーーーーーーーー

「、、、、って事なんだ。」


俺はアイリスから聞いた事を話した。

話の中であの本を見つけたのは俺で、奏太は何も関わっていないという事にしておいた。そうでもしなければ奏太は自分を責め続けると思う。


周囲を沈黙が包む。


「信じられない。いや、信じたくないよぉ、、、」


奏太が顔を上げるとまさに今目にたまっていた涙が大粒となって流れ落ちた。


「じゃあ、原因は神崎君なんだね。神崎君がそんな本なんか持って来なければ、茜ちゃんは、、、、」


憎しみのこもった目でこちらを睨み受けてくる奏太は、もう俺の知っている奏太ではなかった。


「あぁ、そうだ。本当にすまない。」


席から立って頭を下げる。


ゴツンッ、と頭に衝撃を感じた。

頭を上げると、奏太が持っていたカバンを振り下ろした姿でこちらを睨んでいた。たいした痛みも感じないのは吸血鬼化の影響だろう。


「謝ってもすまないよ!茜ちゃんは帰ってこないんだよ!まだ、僕は自分の気持ちも伝えられてないんだ、、、」


奏太はその場にへたり込む。


「俺は今日の夜には向こうの世界に行く。もう会う事はないと思う。茜の仇は絶対とるから。」


「最後がこんな分かれ方になってすまない。」


そう言って奏太を残して図書館を出た。


奏太に約束する事で改めて茜の仇を取るという目的を再認識する事ができた。

最後の別れが喧嘩別れというのは嫌だが、何も言わずに分かれるよりかは幾分かマシだろう。

ーーーーーーーーーーーー





ーーーーーーーーーーーー

「さぁ、行くかの。こっちでやり残した事はないかの?まぁ、あっても待ってる時間はないがな」


ケラケラと笑いながらアイリスは言う。


「あぁ、大丈夫だ。俺にはもうこっちでやる事はない。」


「そうか、それじゃあ、風呂釜に湯を張れ!」


思わず、ずっこけそうになった。


「おい、向こうの世界に行くんじゃないのか?」


「向こうに行く為に水がいるんじゃ。そんな事もわからんのか、馬鹿め。」


「分かるわけねーだろ!異世界なんて行ったことねーんだよ!」


その後10分ほどギャーギャーと言い争う声が響いた。


結局のところ、水を張りそこに真祖の血を垂らすことでその水が異世界への転送装置になるということらしい。


「じゃあ、行くぞ。」


針で指をさし血を一滴水へ垂らすと、一瞬で真っ赤に染まった。改めてこの世の事象を覆すような出来事が目の前で起こると、少したじろいでしまう。


アイリスはさした指を痛そうに口に入れている。


「ひゃあ、あとふぁここにふぁいればーーーー」


ピーンポーン


家のインターホンが鳴る。


「最後の来客だ。ちょっと待っててくれ。」


「急ぐんじゃぞ。」


扉を開けると大きな荷物を持って奏太が立っていた。


「奏太、、、。どうしたんだ?」


「僕も君と一緒に行く。連れて行ってくれ。」


「いや、でも向こうは危ないんだ。それに家族にはなんて言ったんだ?もし奏太になにかあったりしたr『うるさいッ!』


話の途中で、奏太が叫ぶ。


「茜ちゃんの仇は僕が取る!、、、君も仇の一人だ。」


「奏太、、、。」


奏太の叫び声を聞きつけてアイリスが玄関に来た。

奏太は誰だこいつ、という顔でアイリスを見ている。


「話は聞いておった。良いじゃろう、連れて行ってやる。」


アイリスには奏太にはラキアを呼び出したのは俺だという事にした、と話してはいないが察してくれたらしい。気の利くやつだ。

その気がきくついでに奏太の同行を断って欲しかったが俺は何も言えなかった。


アイリスは俺と奏太の手を引き、浴槽の前まで連れて行く。


「はよ飛び込め、もうそろそろ時間切れじゃ。」


「カウントダウンするからの。はい、さーん、、、にーぃ、、」


「はい、不意打ちドーンッ」


こいつ向こう着いたら覚えてろよ。。。


いきなり背中をどつかれ水面に激突し、体が水浸しに、、、なることはなかった。


目を開けると、かしずいた黒服の姿が円状に俺たちを取り囲んでおり、足元には赤々と幾何学的な模様が輝いていた。よくみると、図書館で見た本に書いてあった本と同じ模様だ。


周りの異様な景色に驚き、キョロキョロと周りを見渡していると、黒服たちは一斉に話し始める。


「「「「おかえりなさいませ、アイリス・シャーロット様。並びに、お客人ようこそおいでくださいました。」」」」



「うむ、出迎えご苦労じゃ。戻って良いぞ。」


アイリス本当に偉いやつだったのか。


いつの間にか俺と奏太の間に立っていたアイリスは偉そうに、言葉をかけた。


「ダリル。ダリルはおらんか?」


アイリスが口にした瞬間、目の前に男が現れる。金髪、金眼。男にしては長い髪の毛を後ろでくくっている。


こいつモテそうだな。というのが第一印象だった。

年は自分たちと同じ年くらいに見える。


「はい、アイリス様、お呼びですか?」


「あぁ、この2人を客室に。シロ、あと、そこの女、話は明日する。儂はもう眠い。」


「かしこまりました。お客様、ご案内いたします。」


ニコリと笑うダリル。


「僕は男だ。」


ダリルが部屋から俺たちを連れ出ようとした時、奏太はアイリスに言う。


「そうか、どっちでも良いことじゃ。名前はなんという?」


「三島奏太。」


奏太はアイリスを睨みつけている。アイリスは気にもしていないようだ。


「そうか、三島奏太。今はゆっくり休むといい。シロも明日の。」


そう言うとアイリスは反対のドアを通って部屋から出て行った。


「それではご案内します。」


ダリルはアイリスがいた時とは態度が変わり、素っ気なくなった。余り歓迎されてはいないようだ。


俺と奏太は隣り合った部屋に案内された。6畳ほどの部屋でベッドと机と椅子が置いてある簡素な造りだ。


俺はベットに横になって、目を瞑る。


あぁ、本当にここは異世界なのか。実際に起こっても信じがたいものだなぁ。いろいろ考えが頭を回って眠れねーよ。


しばらく横になっていると隣の部屋からすすり泣く声が聞こえてきた。


奏太、、、


結局その日は一睡もできなかった。

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