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はじまり

元の床の色がわからないほど濃い赤色が足元に広がる。その赤色に染まった床から少し先に人間の頭部が転がっている。今まさに俺が切り落としたモノだ。彼女は上杉茜。俺の恋人だった。


ーーオエエッ、 ゴホッ ゲェ


まだらに顔についた血以外はいつも通りの彼女の顔は今にも動き出しそうで、でも二度と動かないその現実に胃の中のものが逆流してくる。


あぁ、なんでこんなことになったんだろう。

いや、理由はわかっている。単純なことだ。俺のせいだ。

俺があんなことしなければ。






ーーーーーーー

「おはよ、真白!眠そうだね〜」


教室のドアに手をかけると後ろから声をかけられる。


少し明るめの茶髪。ショートカットに癖っ毛。猫目に薄い唇。人懐っこい笑顔を浮かべる彼女は上杉茜。付き合い始めてから1年になる俺の彼女だ。


「おはよう、茜。朝から元気だな。」


「またゲームでもしてたのかーい?早寝早起き!これ大切!!」


チッチッチと、指を振って近づいてくる。あと一歩の距離まで近寄ってきてニカっと笑う彼女はすごく可愛い。顔が火照ってきたのを感じ距離を取る。


「ゲームじゃないわ!勉強だよ勉強。テスト期間にゲームなんかしねーよ。」


「前回のテストの初日にゲームのしすぎで寝坊してきたの誰だっけ〜?」


にやにや


「そんなやつ知らん!俺は過去は振り返らない主義だ!」


「なにいい感じでごまかそうとしてるの!」


胸ぐらにつかみかかってきた茜とじゃれ合っていると、


「いやー、朝からいちゃいちゃしすぎだろ〜、羨ましいわッ!僕も混ぜて〜」


教室の中から飛び出してきてこちらに走ってくる女の子、いや、見た目は美少女だが、男だ。

彼は三島奏太。160センチに届かない身長に男と言われても信じられないほどの女顔、しかもかなり整った顔立ちをしている。おそらく茜よりも、、、。そんなことは口には出さないが。



「おっはよう!そうちゃん!きょうもかわうぃーね!」


「そっちこそくるくる癖っ毛がキュートだぜ!」


茜がチャラ男みたいなことを言いはじめる。この2人は幼馴染だ。昔から仲が良かったらしい。


きーん、こーん、かーん、こーん

チャイムがなった。



「そろそろ先生くるだろ。教室入ろうぜ!」


「おっ先ー!」


奏太が走って目の前を通り抜け教室へ駆け込む。


「はぁ。子供かよ。」


「そうちゃんは昔からあんな感じなんだよー。そうだ、真白、今日の放課後一緒に勉強しようよ!」


悪魔の提案だ。茜は人にものを教えるのがうまい。だが、友達と一緒に勉強しようと集まっても結局は遊びにふけってしまう意志薄弱代表の俺が彼女と勉強などできるわけがない。今回のテストの結果次第で欲しかったゲームのハードを買ってもらえるのだ。だが、茜とは一緒にいたい。けど、ゲームも捨てがたい。


迷った結果、取れるかわからない点数よりも確実に手に入る楽しみを優先することにした。


「それいいな!頼らせてもらうよ茜様。」


「まかせてよ♪」


放課後が楽しみだ。






ーーーーーーー


「ここにしようよ!」


茜は市立図書館の三階の一番奥の机を指差している。

なかなかいい場所だ。三階は民話などの書かれた本しか置いていないから人は少ない。しかもこんな奥まった所なら人は来ないだろう。ここなら思う存分いちゃこらできーー


「僕もここでいいよー!異議ナーシ!」


あぁ、こいつのことを知らないやつから見たら俺はハーレムなんだろうなぁ。ガックリと肩を落とす俺を尻目に二人は楽しそうに話している。


「なんか、ガックリしてる!隼人どうしたのかな?」


「僕が考えるに、民話しかない三階。しかもこんな奥まった所なら人は来ないだろう。思う存分いちゃこら出来る!とか考えてたんじゃないかなー」


「おまえ、心を読むのはやめろ!」


「大当たりー」


ヘラヘラと笑う奏太に男だとわかっていても可愛い、と思ってしまう。


「ちょっとトイレ行ってくるねー」


奏太が離れると茜が近寄ってくる。


「ごめんね、勉強ならそうちゃんもいた方が教える教科が分担できていいと思ったの、、、」


「わかってるよ。こちとら勉強しても平均点がやっとなのにあいつ授業中爆睡してて学年一位なんだよな、、、。

神様って不公平だよな。」


「まぁまぁ。真白もやればできるよ、がんばろ!それで、テスト終わったら二人で遊びに行こうよ!最近、近所にできた水族館に行きたいの!」


ニコニコ笑いながら話す茜を見ているとそれだけで幸せな気持ちになれる。


「そうだな。テストが終わったら一緒に出かけよう。」


「さぁ、そうと決まれば勉強だ!せっかく出かけるならいい点数とって気分良く出かけたいもん!」


俺と茜は隣り合って座り、勉強を始めた。

しばらくすると奏太も帰ってきて俺の向かいの机に座って勉強道具を出したが、開始早々飽きて本棚に面白い本がないか探し始めた。







ーーーーーーーーー

「ふぃー、疲れたわー。」


グッと背伸びをする俺に茜が声をかける。


「珍しく集中してたねー。」


「『珍しく』は余計だから!集中するときは俺もするから!」


勉強を始めたのは17時頃で現在が20時半をまわったところだ。


「はい、ドーンッ」


ドガァッ


「おわぁっ」

「きゃっ」


いきなり奏太が百科事典ほどもある古びた本を机に叩きつけた。


「びっくりさせんなよ!変な声出たわ!」


「そうだよそうちゃん!人いないって言っても図書館なんだから静かにしないと!」


「ごめんちゃい!てゆーか、これ見てよ!面白いんだよ!」


全く反省したそぶりのない奏太は楽しそうに本の説明をし始める。


「これ何語なんだ?見たことない文字なんだけど?」


「これねー、ゲール語って言うんだ!少数言語の一つなんだけどね、たまたま知り合いに教わったことがあって読めたんだー!


「やっぱ天才はちがうな。」


「それでなんて書いてあるの?」


茜はその本に書かれている内容に興味が出てきたようだ。


「んーっとね、吸血鬼の呼び出し方!」


「え、なにそれ!吸血鬼?かっけえ!」


昔からファンタジーものが好きだった俺からすると非常に興味深い。


「あんまり信憑性はなさそうな本だね〜。」


それとは対照的に茜の方は急速に冷めていく。茜は現実主義のようだ。


「なんか面白そうじゃん。どうやったら吸血鬼呼べんの?」


「なんか、すごい簡単なんだけどこのページのこの模様を指で指しながらこの言葉をつぶやくだけって書いてある。」


奏太は何か幾何学的な模様が描かれたページを開いてこちらを見て説明してくれる。


「すごい簡単だな、すぐできるじゃん!俺やってみるわ!」


「真白もそうちゃんのこと子供っぽいとか言えないよー!」


呆れた顔で茜が頬杖をついてこちらを見ている。

茜に呆れられるのは嫌だがこれは男のロマンだ。やらないという選択肢は早々に排除された。


「それで、なんて呟けばいいんだ?」


「『---------------』だよ!」


「なんか、発音が難しいけどとりあえずやってみるか。」


開かれた本の中心に描かれている模様に押し付ける。サラサラとした紙の手触りを感じつつ教えてもらった言葉をつぶやく。


「---------------」




「なにも起きないな。」


周囲に変わったところはない。


まぁ、そりゃそうだわな

こんなことで吸血鬼なんか呼べたら今この世の中はモンスターだらけだ。


「やっぱりなにもないじゃない!男の子ってこーゆうの何歳になっても好きなのねー。なんて言うんだっけ、中二病?」


「あーちゃん、そんなこと言ったらダメだよー。本当のことだからって真白が傷ついちゃうよ!」


「中二病じゃねーよ!ただ、吸血鬼とかドラゴンとか、そーゆうのが好きなだけだ!」


「じゃあ、そーゆうことにしとこうね!そろそろ暗くなってきたし帰ろうよ。」


茜の言葉で外を見るとすっかり暗くなっていた。

時間は21時半を回っていた。


あれ?さっき20時半をくらいだったよな。時間たつの早すぎないか?


「ほーら、隼人ー!いくよ!」


いつの間にか帰る準備を終わらせていた二人が階段の前で待っている。


気のせいだな、勉強のしすぎで疲れたんだ。早く帰って今日はゲームをしよう。レベリングの途中のソフトがあったんだ。





ーーーーーーーーーー

帰り道、奏太は一足先に走って帰った。

家族で外食の予定があるそうだ。


街灯がチカチカと点滅している。


「結局なにもなかったな。」


「そりゃそうだよー!隼人だって本気で信じてたわけじゃないんでしょう?」


「まぁ、そうだな。でも、吸血鬼もいればいいなと思ってる。」


「まぁ、そうだね、そんなのがいても良いッ....の、、、あ、えっ?」


「どうしたー?忘れ物した?」


少し後ろを歩いていた茜を見るとそこにはいつも通りの茜の姿。ではなかった。


左脇腹あたり、人の手のようなものが突き出ている。

茜のすぐ後ろ、街灯の光で伸びる茜の影から、黒く長い髪が顔にベッタリと張り付いたガリガリの男が現れていた。

その男のひょろ長い腕が茜の薄い体を貫いている。

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