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友から見た世界

⚫復習

薬草大国に着いたばかりのエンとラディ



僕たちは似た者同士だ


この世界で安らげる居所がないよ

君は僕の鏡だから、きっと

僕の思い全て分かるはず


二人きり話がしたい




.......................

............。




既に試みたことだが、バッと後ろを振り向き、周りを見回す。そして、空っぽになった肺に再び少しの酸素を吸い込むと、同じ動作をもう一度ゆっくり行った。


「.....いない。」


当たりまえだ。落ち着こう、先程から何度もそのことは確認したし、状況が何も変わっていないだけではないか。


いや、逆に...それは物凄く不味い。


ザァッとラディは自身から血の気の引いていく音を聞いた。


最初は歌声が聞こえないと思ったのだ。


その時点で気付くべきだったと青白い眉間にギュゥとしわをよせる。


あまり日程に余裕がないながら、膨大な市場を何とか見て回ろうとセカセカ歩むのに、ヅカとかナントカ云う“前世ネタ”をまた思い出したと、不思議な歌詞を己のペースで口ずさんでいる親友を煩わしく感じ、構っていなかったのは事実で、歌が聞こえなくなったのも大した事はないと無意識の底に置いてしまっていた。



その結果おろかにもはぐれてしまったらしい。



エンの姿を探すためだけではなく、周囲に意識を向ける。


大勢の人間がひしめき、響き渡る独特の喧騒、地面はこの国の特産だという、ハーブの染料を混ぜこんだ慣れない感触の石畳。

そして、空気には薬草が名産なだけあり、多種多様な草花の匂いが溶けている。


全く見知らぬ街の外観。


脳裏で盲目の親友の顔がチカチカする。


視覚以外の感覚器を最大限に普段は生かし、健常者と全く変わらないように振る舞えるほど器用な人間だが、これは....


むしろよくさっきまでラディの歩みに手探りもせず着いてこれたものだと今更ながら思う。


「歌って、余裕しゃくしゃくな顔をする分を全力で着いてくる事に回せばいいものを...!」


色々な感情が一杯に溢れて本心では思ってもいない毒をついてしまうが、よく考えれば歌っていたのもラディの気を引いて歩みを少しでも遅くさせようとしていたのかもしれない。


こんな五月蝿い所では小さく歌うのにも声を張らなければならない、基本的に自由なエンでもやや不自然なのだ。


婉曲な自己表現で、相手がその意味に気付かなければ、それ以上の主張をやめてしまう。


こちらから理解しなければ、とても複雑怪奇な人間。


「くそっ」


手にしていた薬草を乱雑に戻して、来た道を走る。


周囲に注意を払いながらも不安から生じるイヤな予感からか、思考の一部でエンとの記憶が走馬灯のように流れた。


―――そうだどうして私が、あんなにも変わった人間と友人になるに至ったのか。


冒頭の歌は宝塚歌劇団の劇、「エリザベート」の劇中歌から引用させていただきました。

もうエンは前世宝塚ファンでいいと思います。

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