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シャングリラ

足音はしなかった。

サアサアと雨音が落ちて、全てがベールにくるまれあらゆるものが隔たって感じられていたから。



なんだおまえ、死ぬのか



気配を唐突に感じても、心を動かすほどのエネルギーもなく、ただ己にまだ命が残っていたことがうっすらと意識の隅に登った。


雨音は、ずっとしていた。何だかこの世の全てを知っているような奇妙な感覚に陥った。


雨が誰に踏みしめられた地面に落ちたのかも、道端に生えた花から滴り落ちる様も、たまに響く正体の分からない音がどこからくるのかさえ全て知っている気がした。



(ああ、でもこの声の主は一体)



もう、




.


....................................。




もったいねぇな、もらっちまうぜ。



濡れそぼった体を抱えた、少し冷めたあたたかい温度。





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄




「どーだい皆様方、似合ってんだろ?」


ニヤニヤ、としか形容出来ない笑みでわらい、新品の型崩れをしていないかっちりとしたヒダスカートをくるくるとをたびかせる。


町の中央区域どころか、郊外からもわりかし離れた平均よりもコジンマリした規模のギルド。

外観に反していつも人で賑わっていたが、今この瞬間、魔法弾が暴発して吹っ飛んだような異常な熱気でふぃーばーしていた。


「有り!有りだけどそんなに別に似合ってねーーぞおまえ!!」


「やだもー可愛い!!!大好き!!!」


「クッ、悦んでくれて光栄だぜ。お嬢様方」


様々な感想と笑いが飛び交う喧騒の中。


回るのを止め、可愛いと言ってくれたお嬢様に几帳面に礼を言う。


それに伴い、4割方丸見えになっていたパンツも隠れるかと思われたが、大胆にスカートの裾からはみでていた。


服装のため、パッと見女の子のようにに見えるが、染色体はXY、立派な少年だ。

オプションとして、手入れを全くしていない、比較的長めのボサボサ髪をムリヤリ三つ編みに結えていて、オークの尻尾並みの長さしかないが、ピンピンに跳ねて何だか妙ちきりんに可愛らしい。


ちなみに、大好き!!!とまで声を上げてくれたのは、陰のギルド長と噂のお館様(現ギルド長の母 76歳)とそのご友人達である。


「エン、とは言え、アータ本っ当に大丈夫なノ?」


「心配してくれるのかい?クッ相変わらず素敵な御婦人でいらっしゃる。俺の大丈夫じゃない所なんざ視力ぐらいさ。だが、それも慣れて...」


「アータ自分の顔のこと忘れてないかい」


少し空白が空き、ああ。と素で漏らされた声にお館様はやれやれ、と言った。


「まったく、相変わらず抜け作だね。いーとこの坊っちゃん、嬢ちゃんにはアータのツラは厳しいものがあるだろうからね」



アーシは男前だと思うけどね。今度婿にとってやるよ。



「....うっかりしてたぜ。言い訳になっちまうけど、これでも少し前までは覚えていたんだぜ?あと、それは嬉しいな」


己をナンパしつつ豪気に笑い飛ばす彼女に笑いながら、自分で自分の顔は見えねぇから、などと言うその顔には、一筋の傷が走っている。

ピーっと一直線に、こめかみの少し下からから真横に引かれた傷は鋭い刃で深く入り込み、一目で盲目だと分かった。



...思わず目を背けたくなる、残酷な傷痕



まぁ、本人含め周りがまったく気にしてないんだがね‼!!


微笑む顔は頬がやや痩けているものの少年特有の透明感があり、お館様と呼ばれる老女は目を細めた。



「すまない、お館様。今大丈夫だろうか」


何気に二人きりの世界の様になっていたが、ギルドは騒がしく、ドアベルの音もかき消えていたらしい。

スッと新しく入ってきた少年は彼女に折り目正しく声をかけると、ついで、横に視線を走らせた。


「...そして、貴様はなぜ女装をしているんだ。パンツがはみ出ていて見苦しいぞ」


「くくっ届いた一式のなかになぜかはいってたんだぜこれが!」


「それは、不備があって悪いな。...楽しそうなのはいいことだが、それで?正式な男物の制服の方はちゃんと確認したのか?...というか入ってたか?」


まさか女性用しかなかったら大変だ...と若干不安げな彼に、横から口を割って入ってきた古参のギルドメンバーがソッチは大丈夫だった旨を伝え、だから遊んでたんだと笑い合う。


「なかなかイケてたって言うか、格好よかったす!制服に着られてる感じがしなくも、まぁしなくもなかったけど」


何だか微妙な感想....。


「.....それは、ええと、お手数おかけしまして、ありがとうございます。」


余り会話が得意ではなく、面食らいつつ切り上げ、


「.....おい、エン。そろそろ....エン!!」


目が潰されているので分かりにくいが、親友がボンヤリしていたことに気づき、少し声を荒げると、はっとしたようだった。


「クッすまねぇ、ちょっと前世のことを思い出していたぜ。」


「また、そのネタか」


「..本当なんだけどな」


信じる様子のない親友に微苦笑する。

前世云々に嘘はないが、人を食ったような言い回しが多いのと、飄々とした性格からか、完璧にジョークだと思われていた。


「それで何を思い出した?」


「ああ、さっき久し振りに自分のツラ事情を思い出したんだが.....そういや、前に宝塚歌劇団の劇で、同じような傷持ったキャラいたなと」


「....ふん、それはなんという演目何だ。」


「忘れた」


「ダメではないか。」


「因みに、宝塚歌劇団っていうのは、未婚の女だけで結成された、意外となんでも有りな歌劇団だ」


そこでラディ(正式にはもっと長い格式張った名前)は、付き合い切れないといったため息をついた。


「はぁ、もう貴様のそのネタはウンザリだ。しかも卑しい妄想込など」


「イヤらしい、じゃなくて卑しい、と言うところが潔癖なおまえらしいな。くくっムッツリさんよぉ」


「なっ!!?」

「な、なにを馬鹿な!!、今、貴様、私のことを潔癖だと言っただろう‼潔癖な人間がムッツリな訳が断じてない!!」


本来ならここでも色々と言うのだか、会話のみならず、品が良いためか、余り悪態のボキャブラリーが少ないラディを苛めるのも前世から持ち越した大人の余裕か、可哀想になったらしく、エンは黙り混むと悪かった、と一言いった


「ほら、コレを見て元気だせ」


「やめろ、気色悪い。しかもさっきから丸見えだったのに、今更すぎる。」


スカートをたくしあげるエンに、周りから笑いが起こるが、既に動揺を納め、冷たく切り捨てるあたり、ラディも流石に慣れていた。


あと、ラディの名誉の為に言うが、ムッツリ云々は只の軽口であり、事実無根です。


「ジャ、もう行こうぜ魔窟へ」


「...その前に着替えろ。」


「クッうっかりしてたぜ」


なんだかんだと優しい友人は最後まで魔窟(通称:魔法学校)への編入を反対してくれていたから、然り気無くも、敢えて自分から出発を切り出したエンだが、女装していることがスコンと頭から抜け出ていた。これは酷い。

数秒前に女装をネタにしたばかりだというのに、事、自分の容姿に関しては、目が見えないのにも原因はあるだろうが、直ぐに忘れてしまう癖があった



それからしばらくして、やっとに準備も終わり、


今、此処を去る。


別れの言葉はさっき程の宴的なもので済ませていたが、


「そうだ、お館様、さっきラディが来て言いはぐったことがある」


「ナンだい?」


「貴女は俺の世界で3番目にイイ女だ....だから、全てではねぇが、心を少し残してていかせてくれ。」


「....馬鹿気障な子だねぇ。もっと素直に言ってもいいのに。前みたいにバーバァと呼んでもいいんだよ」


「流石にそこまでガキじゃねーぜ」


「あと、コレあげるワ」


「あ? ありがとう」




馬車に乗り込むと、ラディにすごい目で見られた


「エン、貴様あの方をバーバァンなどと呼んでいたのか。」


「クッいや、正格にはババァとかバーさんだぜ」


だまりこんでしまったラディを横目に、先程受けとった、お守りのような小さな袋を握る。




.................................

................

.........。



色々と汚い事情も含むが、様々な事情で魔窟(通称:魔法学校)に行くことになった。


普通、良いとこの坊っちゃん、嬢ちゃんが行くところで、正直、スラム出身のエンがどんな目に合うか、今のご時世未知数だった。



ラディには、本気な顔で惨殺されるからやめてくれと請われた。懇願された。



――それでも、子羊が必要なんだろうぜ。


そういった時の表情を忘れる気はない。


不器用な親友を思う気持ちに嘘はないと断じても、本気でエンのことを思ってくれている人間がいることを知っていても、


結局、最後まで己に嘘をつきとおすことはできなかった。


俺は、自分の事がどうでもいい。





死ぬということを経験し、ひとつ分かったことがある。


死ぬとは全てを失うことだった。


そして掛け値なく、自己の全てだと、核であるとさえいえる、命よりも、己よりも愛した物を全て“向こう”に置いてきてしまった。


かつてと同じ人格と記憶を持ちながら、全く別の生き物として産声を挙げ、生前と違う名を与えられて生かされ......。


苦痛は永遠に続く


前世の未練を断ち切るには、糸の先があまりにも大切すぎた。

そしてどうしても、今の生に、重きを置くことが出来ない。


「でも、やっぱりイイ女っていうのはどこでもイイもんだ」


誤魔化すような呟きでも、心が引き裂かれる痛みが確かに少し慰められる。


見えぬ眼の変わりに、お守りを指先でなぞるとクッと笑った。

「宝塚歌劇団は割りとなんでも有り」とは

なんとなく、歌劇のイメージからか、華々しくキランキランの格式高い舞台をやっているイメージを持ってる方が多いのではないかとおもうのですか、はっきり言って、いっそ“地味”や“質素”という言葉がしっくり来る庶民派な作品や、ブッ飛んでしまった恐ろしい珍作などが数多くある。ただ宝塚の特徴として、作品に必ず恋愛要素が絡むが、毎回壮大なラブロマンスということはなく(流石に飽きます)、ジャンルは多彩で和洋折衷、コメディー、SF、有名なアニメや漫画を原作にした作品などなんでも有り。

そのため、宝ジェンヌさん(宝塚の劇団員)はバレエや社交ダンス、日本舞踊時には殺陣やタップダンス、手品、ダーツ、曲芸、楽器の演奏なども身に付けています。つまり公演により、様々な舞台が楽しめるのです

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