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ちらばる世界に何をみるか 〜私と俺のパラレルトリップ〜  作者: 有智 心
第8章 ∞ そこで咲く ∞
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戦う意義と生きる意味

 少年たちは走る……それぞれ鈍く黒く光る武器を持って戦場へ。

 それに続こうと小さな戦士たちも…しかし鋭くつり上がった目をしたタケル少年に怒鳴られ小さな戦士たちは渋々建物の中に残った。

 悔しさに唇を噛み戦いに行く少年たちの後ろ姿を不安そうに見つめながら見送る。


 俺とアイは姿を消しながらその後をついて行った。


 次第に爆撃の音が近くなる。

 散らばっていた戦士たちが集まり外に出ると俺たちが出くわした辺りで戦闘が始まっていた。


 タケル少年が目を細め見つめる先に戦車が砲撃をしながら進んで来ている。

 地鳴りで足元が震えていた。


「行くぞ!」


 頷く戦士たち。


「…俺たちはこの場所で生きて行く。

 そして必ず自由を勝ち取る!」


 少年たちは自ら鼓舞するように声をあげた。

 そして爆音と土埃のあがる生死を賭けた戦場へ突き進んで行った。


 俺とアイは急患入り口で立ち止まる……そこから先は超えられない見えないラインが引かれているみたいに動けず見送った。


「…ケイ、戻るの?」

「……」

「ケイ?」

「もう少し……彼らの世界に付き合ってみよう」


 俺はアイの手を取り指を鳴らした。




 ◆◆◆◆◆




「こんな戦いを続けていて意味があるの?……死んでしまったら何にもならないじゃない」


 アイは眼下で繰り広げられる戦いを哀れむように表情を歪め呟いた。


「この戦いが何故起こったのか俺にはわからないが、未来に生きる為なんじゃないか?」

「未来…でも命を失ったらそんなものないじゃない」

「……そうだな。しかし今此処にいる自分たちの未来じゃなく、これから生まれてくる者の為に切り開こうとしている。…と思う」

「……それは…そんな理由聞こえはいいけど……悲しいよ」

「そう…悲しい……この戦闘も一体何年…なん十年続いているのか。終わりの見えない争いの中生まれ当たり前に巻き込まれ戦場へ向かって行く。そして次の世代には【自由】を…と思いは継承されまた次へ……」

「負のスパイラルよ…死ぬ為に生まれるようなものじゃん」

「変なことを言うな」

「えっ?何が変なの?」

「人は生まれた瞬間から死に向かって歩き出しているんだ」


 アイは目を見張りそして伏せた。


「それは…確かにそうだけど…じゃあ何のために生まれてくるのよ」

「死ぬ為……」

「は?…それじゃあ生まれてくる意味ないよ」


 苛立った声をあげ目を細めた。


「意味があったかどうかは死ぬ迄の生き方で決まるんじゃないか」


 ……それとも生を受けた時点で意味があるのかもしれない。


 アイは繰り広げられる争いを指差し、これが少年たちの意味ある生き方なのかと怒ったように言った。


「彼らは信じているんだよ…必ず自由と平和を勝ち取ると…その為の意味ある戦いをしている」

「……私にはよく分からない。必ず勝利出来るか何の保証もないのに命を懸けて戦うなんて理解できない」

「……どんな人間にも人生にも保証なんて無いだろう…そうアイは思わないか?」

「そうだけど…そうなんだけど」


 アイは納得のいかない表情で土埃とむせ返るような火薬の匂い、そしてそれらに混ざって漂う血の匂いに鼻を押さえ黙り込んだ。


 ……そうなんだ。

 人生に保証なんて何も無い…明日どうなるか、其れどころか数秒先も……それでも強い思いを持ち生きる事が出来れば意味ある、意義ある人生だった言える。


 ひときわ大きな爆音が響いた。

 人形みたいに吹き飛ばされ動かなく反乱兵……ジリジリと後退していく。

 政府軍が優勢の様だ。

 其れでも戦い続ける少年たち…彼らは彼らの信念のために戦う。例え命が尽きたとしてもそこには後悔はないのだろう。

 覚悟を持って戦い、死を恐れない…いや、死は怖い…でも受け入れる準備は出来てるから恐れはしないのかもしれない。

 少年たちは逃げない。

 例え追い詰められても決して心はこの世界から背を向けたりしない…前を向いて挑んで行く。


 空を見上げた。

 何処までも続く青が霞んで澱んだ地上と混ざり合い混沌とした色に変わっていた。


 バリバリと音を立てて比較的高い崩れたビルの後ろから突如2機のヘリコプターが姿を現し俺たちの頭上を通り過ぎて行く……アイの髪の毛が巻き上げられるように大きく乱れた。

 そしてヘリコプターは政府軍に向けて攻撃を開始し、それを期に押されていた反乱軍は息を吹き返す。

 空中からの攻撃に右往左往する政府軍…


 フッと思った……政府軍として戦っている彼らは何の為に命を懸けているのだろうか?

 知りたいと心が動いたがそこまでこの世界に干渉するのはパラレルワールドのバランスを大きく崩す事になりる。諦めるしかないか……今こうしているのもリスクを伴っているのだから……


 …………戦況が逆転する。


 土埃にまみれ傷つきながら先頭に立ち拳を上げ味方を鼓舞しながらタケル少年が突き進んで行くのが見える。その姿は雄々しくこの世界のこの時代の象徴のような存在に見えた。


「ケイ…政府軍が後退して行く…」


 残った戦車からの一斉砲撃で反乱兵を足止めし政府軍は撤退する。少年たちは歓喜の声をあげた。




 ◆◆◆◆◆




 少年たちが戦闘に向かい、私とケイだけが部屋に残された。

 これ幸いとロックの掛かったドアを通り抜け少年たちを見送った…そして戻るのかと思えば、戦場がよく見えるビルの屋上に移動し戦況を見守った。

 ケイとの意見の違いは今に始まった事じゃないけど、やっぱり人と人の殺し合いは嫌いだ。どんな理由があっても其れは正当化できる事じゃないから………………………って!なんで仲良く?…火を囲んで少年たちと一緒にいるのぉ

 んんん〜仲良くでもないか。

 タケル少年がこっち睨んでるし……


「血……血が出てる」


 ケイがタケル少年の左腕を指差してボソッと言った。


「……こんなの大した事ない。

 其れよりあんた達どうやってあの部屋から出たんだ」


 ケイは問いには答えず、合流した味方の青年が飲んでいたウイスキーの小瓶を取り上げ傷口にかけると、ポケットからハンカチを出して包帯の代わりに巻いた。


「…応急手当て…大した事なくても処置をしておいた方がいい。ここは衛生的とは言えないからな」

「余計なことを」


 ぶっきらぼうな言い方と戸惑う表情にケイはニッコリとして頷くと立ち上がりウイスキーの小瓶を返した。


「さて、さっきの質問だけど……ロック解除して抜け出した」

「まさか!ロックナンバーをどうやって知ったんだ」

「其れは…君達が開ける時に覗いたに決まっているだろ」


 嘘ばっかり…なのに得意げな表情。

 でもそう言うしかないのよね。


「……油断も隙もないな」


 タケル少年は怖い顔をしているが瞳の奥は笑っているみたいに見えた。


「おいタケル、そいつら誰なんだ」


 ウイスキーを飲み干しその小瓶を後ろに放り投げた青年が胡散臭そうな表情で私たちに

 向かって顎をしゃくり聞いてきた。


 タケル少年は軽く息を吐くと呆れたような表情を見せて、民間人が戦場をウロウロしていたから保護をしたと言った。

 経緯を知っている亮介や他の少年たちは一瞬驚いた表情を見せたが誰も意を唱える者はいなかった。もちろん私も意外で驚いたがケイだけはそんな様子も見せないで不敵な笑みを浮かべていた。


 ……まるでそうなる事知っていてたみたい。


 それにしてもこんなにこの世界の人間と関わって良いのだろうか?

 ケイは傍観者でいなくてはならないと常に言っているのに全く逆の行動をしている。

 大丈夫なのか…何か取り返しのつかない事が起こりそうな気がして落ち着かない。


「民間人…女の方は何処かで見たことあるような気がするが…」

「そうですか?」


 左目に眼帯をした青年が記憶を探るような顔をして顎をさすると、タケル少年は惚けて軽い調子で言葉を返した。


「…俺の気のせいか……」


 そうだと念を押すみたいに言うとタケル少年は立ち上がり、民間人がこんな所ウロつかれたら邪魔だから中立地帯まで送っていくといい、ケイと私の腕を乱暴に掴み引っ張られる形でその場を去った。


 振り返るとパチパチと小さな音を立てるオレンジ色の火がそれを囲む戦士の疲れた顔を妖しく浮かび上がらせている。


 いつの間にか太陽が傾き辺りは薄暗くなっていたのだ。




 ◆◆◆◆◆




「ねえ、なんで助けてくれたの?」


 タケル少年は立ち止まり警戒するみたいに周りを見渡し私たちから手を離すと瓦礫の中を奥へ奥へと進んで行った。そして戸惑っている私たちを振り返り着いて来いと面倒臭そうに手招きしたのだ。


 すぐに反応したのはケイで私は置いていかれないように慌ててその後をついて行った。


 次第に辺りが暗くなる中瓦礫の山を歩って行くのは中々大変で私は何度も躓いたり服を引っ掛けたりと散々だった。


 ケイは夜目が利くのか問題なく歩いてる。


 もっとマトモな道はないのかとひとり心の中でボヤきながらどんどん2人との距離が広がっていった。でもそんな事など気にも留めないでタケル少年もケイもビルの間を入って行ってしまう。


「待って…イタッ」


 もっと女の子を労ってよ!


 私は大きく溜息をつき2人が入って行ったビルの間をまるで初めてアスレチックに挑戦する子供みたいに慎重に進んで行った。

 それだけ狭い通路に瓦礫が道を塞いでるのだ……またマトモな道はないのかと今度は小さく声に出してボヤいた。


 やっと辿り着くと、そこはビルとビルに囲まれた中庭と言って良いのだろうか…元は都会のオアシスとでも呼ばれ天気の良い日はランチをしたり、他愛のない話で盛り上がり笑い声がこだまのように響いて……そんな情景が思い浮かんだ。

 しかし今は…時代に切り捨てられたただの空間でしかなく、そんなものがあった事を考えるのは虚しさを大きくするだけのように思う。


「何をしてる」


 タケル少年はぼけっと眺めモタモタしている私に苛立つのか口調を強くして言ってきたので、転がっているコンクリート片を避けながら私なりに急いで近づいて行った。


「どんくせぇなぁ」


 その言葉にちょっと傷つき口を尖らせた。

 そして改めて辺りを見回す。

 何処もだけど…ここも酷い有様だった。

 さっき仲間に中立地帯まで連れて行くと言ったけど此処がその場所なのだろうか?そうとは思えないほど周りの建物は破壊されている。


 私たちをどうするつもりなのだろう?


 タケル少年は片足をコンクリート片に乗っけるとライフル銃を杖みたいに地面へ押し当て恐ろしく光る目をしてこっちを見た。

 本当に光るなんて事はないのだけれど、辺りの薄暗さと戦士という研ぎ澄まされたオーラがそう見せたのかもしれない。


「…さて、話してもらう。本当の事を…」


 まだ、そこに拘るんだ。


 私はケイがなんて言いくるめようとするのか半分心配で半分は面白くなってきた。


「…その前に俺からも答えて貰いたい事がある」


 え?…何を聞くって言うの?


 ケイは不敵な笑みと挑戦的な瞳を向けていた。





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