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ちらばる世界に何をみるか 〜私と俺のパラレルトリップ〜  作者: 有智 心
第6章 ∞ その一瞬のため ∞
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自由って……

 アイはアイなりの答えを導きだした。

 本人は気づいているのか分からないが、この世界は大きな…とても広大な無限の流れ中でまわっている。

 日々起こる出来事など無限の流れから見ればほんの一瞬の事で、其れは次から次と新しい波にのまれ消えていく。

 おそらくその事を意識しないところで少し理解できたのだと思う。

 其れによってアイがこの先如何するのか楽しみは尽きない。


 しかし気になる事があるようで、リアルワールドに戻る際明日も同じパラレルワールドに連れて行ってくれるかと聞いてきた。

 それを約束するとホッとしたみたいに笑顔を見せ戻って行った。


 ……そろそろ来る頃だな。


 白い空間の扉を見つめフッと侘しさを感じた。

 ……なにか自分だけが置いてきぼりにされたみたいな孤独感…なんなんだこれは……

 今までとは違うこの感覚。

 疲れているのかもしれない……


 微かに痺れるみたいな頭の痛みでこめかみを押さえた。

 脳の中ではっきりしない画像がシャッターを切るように次から次へと飛び込んでくる。

 ……まただ。


 なにかに急き立てられるみたいな苦痛と苛立ちで頭を強く押さえた。


「クソッ!」


 脳の中で散らばる画像を払う為に首を振りおもいっきり上体を起こした。


 ……やはり疲れているんだ。


 ゆっくりと扉が開く……


 来たか……


 自分が弱っている様を見られるのが嫌で静かに呼吸を整えると薄笑いを浮かべて迎え入れた。


「ようこそパラレルワールドの入り口へ」


 アイは何を今さらといった表情で笑う。




 ◆◆◆◆◆




「バーゲンに間に合ってよかった」


 バスを降りた愛は幾つもの紙袋を掲げて満足そうに戦利品を見上げた。

 亮介はその隣でスポーツ用品店の大きな袋ひとつ肩にかけ楽しそうな愛の顔をやや渋い表情で見つめている。


 察するにさんざん買い物に振り回されたんだろう。


 よく似た家が左右に建ち並ぶ歩道を2人はゆっくり歩き出した。

 バスからは他に降りる者はなく2人が降りてしまった車中には誰も居なくなり運転手は次の停留所に向かってバスを発車させた。


 2人の自宅までは緩やかな長い坂を登って行かなくてはならない。

 先を行く愛は両手に提げた袋を重そうに歩いている。亮介が横に並びなにも言わずぶっきらぼうに半分手にして愛を追い越して行くと、愛は可笑しそうに表情を崩し黙って後ろをついて行った。


「優しいんだよね…亮介は」


 アイは2人の後ろ姿を羨ましそうに眺めながら呟いた。


「誰かとは大違い……」

「誰かって誰?」


 俺を振り返りニタリとした。


「俺かよ」

「ふふふ…意地悪じゃん」


 その言葉に異論もあるがそう間違ってはいないので抗議はしなかった。


「……でも、またに気持ち悪いくらい優しい時あるよ」

「気持ち悪いは余計だろ……」


 アイは含み笑いを見せると前を向きなおし少し距離が離れたしまった2人に追いつく為に足を速めた。


 夏が終わりに近い空はほんの少しだけ高く感じる……それでも気温は高く時折吹く風はまだまだ湿っぽくて皮膚にまとわりつく感触はそれこそ気持ち悪かった。


 ……夏は嫌いだ。


 我が物顔で見下ろす太陽にウンザリしながらアイとの距離を縮めようと歩幅を大きくして歩き出す……基本、走るのは嫌いだ。


 追いつくと愛の家の前で亮介が荷物を渡している所だった。


「ありがとう……じゃ……あっ、おばさんに夕飯の手伝い後で行くって言っといて」


 スカートをひらりと翻し家の中に入ろうとするのを亮介が引き留めた。


「ん?」

「あ、あのさ……」

「なに?」


 口をモゴモゴと言いにくそうにしている亮介を愛は訝しげに見つめ言葉を待っている。


「いや……その……」

「……」

「……忘れろって言われたけど……お前……」

「うん……なに?」

「大丈夫なのか?」

「えっ?」


 アイが〝ヤバイ″と呟き渋い表情をする。


「大丈夫って……なに言ってんの?」


 愛はますます訝しげに目の前に立つ幼馴染みを見つめる。


「いや…昨日の話し……」

「私、亮介に心配されるようなこと言った?」


 愛は惚けているのだと思い亮介は少し苛立ちも見せるが、忘れてくれと言われているので仕方ないと思ったのかため息をついた。


「何だか分かんないけど、私は大丈夫だよ」

「……そうか」

「変なの……じゃあね」

「あ!愛…もう一つ」

「まだあるのぉ〜」


 愛は両手の荷物を重そうに持ち直すと大きくため息をついた。


「お前……自由か?」

「はあ?」


 2度引き留められた挙句自由かと聞かれ目を大きく開きポカンと口を開けていた。

 しかし、亮介の真剣な眼差しに気づいて低く唸ると荷物を下に置き腰に両手をあてニッと笑う。


「自由だよ。……思うようにいかない事も有るけど…制限させられる事も有るけど、心は自由だよ。私の心は誰も縛れないからね」

「思うようにいかないのに?」

「うん、思うようにいかなくても心で思う事は自由で私だけのものでしょ……だから自由だよ」


 愛はそう言うと得意そうにピースをして家の中に入って行った。


「そっか……自由か」


 亮介は安心したように微笑むと道を隔てた自分の家を見上げた。そして頷くみたいに首を小さく上下させ、持っていた袋を円を描くように振り回すとまた肩に掛け家の玄関に向かって歩き出した。




 ◆◆◆◆◆




 私は驚いていた。

 パラレルワールドの愛がなんの躊躇もなく自由だと言いきれるその姿に……

 なんて眩しいの……私はたくさんの事に縛られ身動きできなくて日々苛つき不満だらけなのに……どうしてこうも違うのか……

 別の世界なのだから当たり前だという事は理解している。でも…何処でどう世界が別れあんな前向きな愛が出来上がるんだろう。


 心で思うのは自由と言うけど私にはよく分からない。

 思った事を言ったり、行動に移せなければ本当の意味で自由とは言えないと思うけど……


 12歳の夏を思い出す。


 ……大好きな叔母に会うことがなくなり、心許せる友が亡くなった。


 私にとって大切な人が2人も去っていったあの夏……

 戻ってやり直せたら……そんな馬鹿げた事を考える。

 でも、そんな事をしたら私は此処にケイと一緒に居ないだろう…会う事も、パラレルトリップも出来ない……それどころか世界が幾つもあるなんて事も知らないで平凡に暮らしているはず。


 ……其れは嫌だ。


 だとしたら…これで良かったの?


 もしかしたらケイとの出会いは気の遠くなるような世界の流れの中に組み込まれた誰かの意思で、私が生まれてから今まで経験した全ての事はこうなる為の出来事だったのだろうか……でもそんな事ってあるの?


 ……考え過ぎ、ただの妄想にすぎない。


「アイは、これが心配だったのか?」

「えっ?」

「何も知らない愛に亮介が昨日の事を聞き返すんじゃないかって」

「あ…うん……そう」

「危なかったが何とか成ったな」

「うん……」

「……どうした?他の事考えてるみたいだな」

「え?……別に……」

「そう?」


 疑問符が付く言葉だったけどケイの表情は私の心など見透かしているみたいだった。


「そうだよ」

「じゃあ戻ってもいいな」

「……うん」


 まばゆい光の中で生きる私に別れを告げよう……

 その姿は眩しすぎて私の影が大きくなるだけだ。……バイバイ私…もう会う事はない。


 ……バイバイ亮介。

 優しくて強い亮介に会えて良かった。

 別の世界では生きているとわかって嬉しかったよ。


「アイ……」


 ケイが私に手を差し伸べた。

 澄んだ…一見冷たくも見える大きな瞳に私が映っている。それを見て安心する……何故かそう思う。

 今の私にとってケイは拠り所になっているのかも知れない。


 差し伸べられた手をとり扉の向こう側へ……




 ◆◆◆◆◆




「とても有意義な旅だったようですね」


 戻った私たちをヴォイスの穏やかな声が迎えてくれた。


「わかるの?」

「スッキリとした表情をしています」

「本当?……実は何処かで見てたんじゃない?」

「フフフ…さあどうでしょう」


 いつものヴォイスね……ハッキリとした事は言わないわ。


 私は椅子に座るケイを見た。

 何だか怒っているみたいだ…と言うより子供みたいに拗ねていると言った方が当たっているかも……


「ケイ……どうしたのですか?」

「何が」

「顔が怖いですよ」

「ふん……そんな事はどうでもいい。それより久しぶりヴォイス」

「そう…でしたか?……どうも私には全てが一瞬で、そんな感じはしないのですが……」

「だろうな」

「何か私に話しでもあったのですかケイ」

「いや……」


 もしかしたら私の前では話したくない事なのかも知れないとケイの様子を見て思った。

 拗ねた表情そのままで目を伏せ口元に手を添えて黙ってしまった。


「……いいでしょう。ケイの好きなように…」


 私はもう退散した方がいいと思いケイに扉を出してもらった。

 ……気を利かせたつもりだが、ヴォイスが帰ろうとする私に声を掛けてきた。


「アイ、今回も含めてたくさんのパラレルワールドを見てきましたが如何ですか?

 ……なにか心境の変化はありますか?」

「……その度ごと考えさせられたり思う事は有ったけど…基本的には変わってないように感じる。……ただ私はケイと一緒にトリップするのが楽しい……誰にも経験出来ない事してるのが気持ちいいよ。凄く自分を感じる。

 私にとって此処は最高の場所なんだって思う」

「そうですか……引きとめてすみません。ご自分の世界へ戻ってもいいですよ」

「うん、じゃあねヴォイス……ケイ……」


 ケイはチラリと私に視線を向け軽く手をあげただけで表情は変わらず不機嫌そのものだった。




 ◆◆◆◆◆




「……嬉しいのではないですか?此処は最高の場所だそうですよ」

「それはヴォイスの方じゃないのか?俺は……別に……興味を持っていてくれればいい」


 嘘だ……実は嬉しい。

 アイが初めて此処へ飛び込んできた時、魅入られたように目を輝かせ興奮していた。

 俺の人選は間違っていなかったと確信した瞬間だ。

 そしてパラレルトリップ……これは少々不安があった…人は誰もがリアルワールドの自分に多少なり不満を持っている。決して不幸ではないのに、欲深い生き物なのだろう……クソみたいな人生を送っている者も勿論いるが……だから、パラレルワールドで違う人生を生きる自分に期待してしまう。

 しかし必ずしも満足する世界に生きているとは限らない……むしろ失望してしまうことの方が多いのだ。過度の期待がそう思わせてしまうのかもしれない。

 そして幾つものパラレルワールドを体験して自分勝手な期待が裏切られ失望し興味が薄れてしまう。

 そんな奴等を何人も見てきた……だからアイもそうなる可能性があり不安だった。

 しかし其れは無用な危惧でこの不可思議に存在する世界にアイはにのめり込んでいった。


 思い出すよ……アイを見つけた時全身の細胞という細胞が喜んだのを、アドレナリンが上昇し興奮で身体が熱くなり、信じてもいない神に感謝したくらいだ。


 そして2人で幾つものパラレルワールドをまわる……貪欲までに楽しむ姿は俺を満足させた。

 後どれくらいだろうか?……そんなには待てない。しかし焦っては計画が頓挫する可能性がある。

 あくまでもアイ自身が決めなくては成らない……


「……何だか良からぬ事を考えている様に見えますね」

「……別に」


 その瞬間を待っている……


 アイの決断で俺は解放される。その為に彼女を此処へ招いた。


 ニヤけそうになる表情を堪え神妙な顔つきで手をスライドさせパラレルワールドの映像を浮かび上がらせる。

 さっきまでトリップしていた世界……


 愛が受話器を手にしてどうやら旅行中の母親と話しているようだ。


「……うん、良くしてもらってる」


 受話器から漏れる母親の声に集中してみる。


「……貴方の事だから心配はしてないわ。子供の頃からほっといていても1人で何でも出来たものね」

「うん……話し…それだけ?」

「え…ええ、帰りは予定通りだから」

「わかった」

「じゃあね……」

「うん」


 ゆっくりと受話器を置くと愛は溜め息をつく……亮介に見せる明るく力強い瞳の輝きは影をひそめ、淀んだ沼みたいな得体の知れない色に変化していた。

 そして愛は受話器に向かって呟いた。……〝あんた達がそうさせたんじゃん″と……暗く恨めしそうな声がひとりぼっちの家に消えていく。

 

 愛には愛の苦悩があるのだ……

 亮介には亮介の……

 本の間に挟まっていたメモには別の言葉がが裏面に綴られていた。


 〝砕けた心を拾い集めてくれた家族……ここが居場所。新しい自分″


 自分を知り受け入れ解放する事が自由に繋がるのかも知れない。


 再び手をスライドさせると浮かび上がっていた映像が消える。


「アイに教えないのですか?」

「必要ないだろ……全てに首を突っ込んでいたらきりがない」

「そうですね…」


 アイが見た姿はほんの一面……角度を変えて眺めたら様々なものが見えてくる。しかしパラレルワールドの自分を深く追求しても仕方ない……何故か…自分であって自分ではないからさ……何も出来ないんだ。


「……亮介が別の世界で元気にしていると知れたことで満足しているさ」

「アイは彼の死にひとつの区切りをつけた様でしたからね」

「……相変わらずお見通しだな」


 ヴォイスの含む様な笑い声が響く。


「ところでヴォイスに聞きたい事があったんだ」

「何ですか?」

「……夢だ」

「夢?」

「見るんだ……そして意味のわからない画像が頭の中に飛び込んでくる。……これはどういう事なんだ教えてくれ」

「……」


 ヴォイスに聞けば何かしらの答えが返ってくると期待して言葉を待った。


「ケイ……それは……」




 ◆◆◆◆◆




 パラレルワールドから戻った私は疲れていたのか倒れ込むようにベットへダイブし深い眠りに就いた。

 静寂な空間に浮遊するみたいでとても気持ちがいい……このまま朝までこうしていたい。

 しかし心地よい眠りは突然耳障りな声で終わりを迎えた。


 目をこすり下から聞こえる騒がしい声に顔を顰めた。

 眠りから醒めていない脳と身体を引きずるみたいにベットから這い出し部屋を出た……するとカンに触るような声が更に頭に響いて苛つきながら下へ降りる。


 どうやら姉の友人が遊びに来たみたいだ…其れも1人や2人ではない。

 4、5人居るのではないだろうか。

 その中に母も加わりキャーキャーと騒音極まりない。


 苛つく私は自然とドアを開ける手に力が入り仏頂面で中へ踏み込んだ。


 勢いよく音を立てて開いたドアに驚き会話を止めるが、私を見ると姉はいかにも不愉快そうに表情を崩した。


「乱暴ね……静かに開けられないの?」

「それはこっちのセリフ…もう少し声のトーンを落として話してよ」

「ちょっと、失礼よ」


 友人たちは私の言葉に目を伏せ気まずそうにお互い目線を絡ませあっている。

 そんな姿を見て姉は気にすることはないと笑いかけたが、重くなったその場の空気は変わることはなかった。

 そんな中ひとりが口を開く。


「……妹さん?騒がしくてごめんね。でも…幸に妹がいたなんて知らなかった。

 ご両親やお兄さんの話は聞いた事あったけど貴方の事は耳にしたことなかった。高校生かな?」

「別に謝んなくていいよ……失礼なのは妹の方なんだし」


 聞いた事がない…知らなかった……笑える。

 そりゃそうよね…姉にとって馬鹿で愚鈍な恥ずかしい妹だから人には知られたくないのよね。

 いいわよ……そうやって私を見下していればいい。この狭く小さな世界で女王気取りでいるがいいわ……厚顔無恥な私の姉さん。


「愛、それよりお客様にご挨拶でしょ…お姉ちゃんの言うとおり失礼ですよ」


 苦笑いを浮かべる母の顔がとても歪んで見えた。

 なんて醜いの……

 あんまり醜くて吹き出しそうになった。


「愛、ちゃんと謝りなさいよ」

「……」

「本当礼儀知らずで恥ずかしいわ……ごめんね」

「そんな、いいよ」


 気取った女たち特有の何処か粘りけのある〝ごめんね″に鳥肌がたった。


 友人たちは姉のように美人でもない態度の悪い私を見て気の毒そうな表情し、こんな妹がいる事に面白がりながら見下している。


 やっぱり似た者同士が集まるのね。


「愛、なんとか言いなさいよ」

「ほら、皆さんに謝って頂戴」


 姉の顔も母同様歪んで見えてきた……その友人たちまでも……


 なんて醜いの!


 もう笑えなくなった……不気味で恐ろしくなり早く此処から立ち去った方がいいと頭の中で赤信号が点滅する。


「黙ってないで謝ってよ」

「うるさい……醜いあんた達に謝る必要なんてない!」


 醜い顔の女たちはポカンと口を開け私を見ている。


「なっ、ヒドイ」


 誰が言ったのだろう?

 全員が同じ醜い顔で誰が誰なのか分からなくなっていた。

 私は襲われそうに感じ急いで2階の自室に逃げ込み鍵をかけた。

 下から物凄く恐ろしい声で私の名を呼んでいる……ベットへ潜り込み耳を塞いだ。


 何故あんな顔に見えたのだろう?

 私はおかしくなってしまったの?


 ……ケイ……教えて。


「それはな…心の醜さが顔に表れたんだよ」


 ……凄く近くで声がする。

 私は布団から顔を出した。


「ケイ……来てくれたの?」

「……心が穢れ歪むとあんな風になってしまうんだ。憐れむべきは人の弱さ……俺もその中のひとりなんだよアイ……」


 ケイの顔が醜くて崩れてゆく。

 私は悲鳴をあげた。


 そして目を覚ます。

 周りは薄暗くエアコンのタイマーが切れていたのか部屋は蒸し風呂のようだった。

 じっとりとかいた汗が気持ち悪くて起き上がろうとしたが身体が重くて直ぐに動けない。

 …………夢。

 そう実感すると緊張していた身体から力が抜け起き上がる事ができた。


 なんであんな夢見たんだろ……そう思いながら徐々に夢が霧に埋もれていくのを感じた。


 喉がカラカラ……

 口の中も身体もそして頭の中も気持ち悪くて部屋を出た。

 少しフラつく足でキッチンに向かい冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し渇いた喉を潤す。


 母がリビングのソファに座りパソコンをいじっていた。そしてこちらを見もしないで寝ていたのかと聞いてきたので間延びした声で返事をした。


「……お姉ちゃんは?」

「え?…ああ……出掛けてるわよ」

「そう……」


 居ないとわかりホッとした。

 口の中がスッキリしたので今度はベタベタした身体をスッキリさせる為シャワーを浴びに行こうとした。

 その時玄関から複数の声と足音が聞こえ、母が顔をあげ姉が帰って来たと呟きパソコンを片付ける。


「ただいま……友達連れて来たけどいいよね」

「勿論よ……暑かったでしょう…冷たい飲み物を出すから…さ、入ってもらいなさい」


 友人たちはお邪魔しますと言いながらソファに腰をおろし一気に室温が上昇したように感じる。


 母がコップを用意しながら冷蔵庫の側にいた私に麦茶を出してくれと言いうので仕方なく取り出しぶっきらぼうに置いた。


「あら?幸の妹?」


 その声で目も合わせず頭をぺこりと下げ、私はキッチンを逃げるみたいに出て行った。


「……妹なんていたんだ」

「ごめんね愛想ない妹で……高校生になってもまともに挨拶できないんだから恥ずかしいよ」

「……妹さんの話題今まで出たことないよねぇ」

「やぁねぇ…話題にあげるほどの子じゃないから」

「其れにあんまり似てないね」

「やめてよ。似てるなんて言われたら鳥肌立ったちゃう」

「なにそれ、酷〜い」

「だって仕方ないよ全然似たところ無いんだもの…血が繋がってるか疑うわ」

「いやねぇ幸、ちゃんと繋がっているわよ」

「妹は我が家の謎ね」

「ミステリアスぅ〜」


 姉たちの笑い声が廊下にも漏れ私はバスルームのドアをつかむ手に力がはいる。


 妹を笑い者にしてそんなに楽しい?

 ふつふつと怒りが湧き上がってくるのを感じ、この思いをぶつけたい衝動にかられる。 しかし霧に埋もれた夢の一部を思い出し寒気が走った。

 冷静になろう……怒りをぶちまけたってあの人達に理解できっこない。

 何も分かっていない、分かろうとしない…ただ理不尽に思うだけなんだ。

 どれだけ偏差値の高い大学に在籍しているのか知らないけど中身は空っぽ……そんな人たち……


 私には亮介みたいに家族と通じ合うなんて芸当は一生できないと思った。

 ……血は繋がっているのに…それだけの関係。


 いつの間にか姉たちの話題は私から恋話に変わっていた。

 ある意味姉たちのは自由だ…


 短く溜め息をつきドアを開けしっかりと閉めた。










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