うずく気持ちと日和見
パラレルワールドから戻って来てまる3日普通の女子高生の生活を退屈にこなしていた。
……そう、家族や学校に苛つき、絶望し諦める日々。そんな心の中を隠すのに口を閉じ、ただ平然と現実の世界をあてもなく漂流していた。
今立っている場所から見える景色には目を奪われるほどの強い色など無くモノクロでつまらない。そして其れ等が私の周りをグルグルと回転して迷い道に誘い込み心を重くしていく。
……あの世界を知る前の私に逆戻りだ。
目の前に見える自分の家がなんだが知らない家に見えてくる……玄関も私が開けるべき扉じゃないと感じてしまう。
でも、ここにいる限りあそこを開けなければ成らない。
なんて窮屈なの……
私は腑抜けのように歩き家にのみ込まれる。
「ただいま……」
キッチンの方からお気楽な母の声が返ってくるが、顔も見せずそのまま階段を上がり自分の部屋に入った。
カバンを机に置きベットに寝っ転がる。
リモコンでオーディオのスイッチを入れ大音量で音楽を流すと、私は枕に顔を押し付けおもいっきり大声を上げる。
少しすると母がドアの前で音を下げろと喚いたのでオーディオを切った。
「はぁ〜何してんだろ私……」
また枕に顔をうずめる。
ケイの偉そうで皮肉たっぷりな笑みが頭に浮かんだ……
ムカつく時があるけど……今は……
伏せてた顔を上げクローゼットの横にある姿鏡に視線を向けたが、溜息をついてまた顔を伏せた。
「ううぅ…………ああ、もう!」
勢いよく起き上がり正座すると枕に向かってパンチした。
「…………よし!」
そして姿鏡の前に立ち手を押し付ける……なんの抵抗の無く吸い込まれていく。
「良かったぁ……まだ通じている」
ホッとしてそのまま鏡の中に入っていった。
◆◆◆◆◆
「……もう3日になりますね…ケイ」
「知ってる」
俺は椅子の上で伸びをした。
「うぅ…っと……はあ…肩凝った。
長い時間映像を見て身体がガチガチだ」
「ケイ……」
その声の調子だときっと呆れているんだろうな……
「……ヴォイス大丈夫だよ」
「随分自信があるのですね……」
「そうじゃない……決まっている事だから断言するんだ。……クックク」
「成る程……」
「実体験に基づいて出した答えだ。分かるかいヴォイス」
「実体験」
「そう……必ず来る。ウズウズしてる頃だ」
「待てば回路の日和あり……と言うことわざありましたね」
「へぇ〜…さすがヴォイス。その通りさ。
……他にもあるな…〝果報は寝て待て″、〝急いては事を仕損じる″……とかね」
「フフ…」
「さて…っと」
立ち上がり手をスライドさせると無数の扉が出現する。その中から一つを選んで他は消えた。
「そろそろ用意しておかないとな」
「入口があっても出口が無いのでは困りますからね」
俺は再び椅子に座ると大袈裟に足を組みリラックスした体勢で待った。
アイが思った通りの人間なら必ず来る。
周りのものに失望し鬱々とした生活を送ることに嫌気がさし、もっと他に自分に相応しい居場所があるはず……しかし其れは単なる妄想だと…行き場の無い心に肩を落とし冷めた目で世の中を馬鹿にし、時に苛立ち自分に絡むものを敵視し関わる事を拒絶する。
そんな負のループに陥っていた少女がパラレルワールドを知り、その目で確かめ体験したのだ。これは、はかり知れない感動と高揚感を与えたてくれたはず。
それを味わってしまったからには、この場所に来ずにはいられない。
アイ……カタチのない感情の渦を見に行こう……無限の世界が待っている。
「ケイ…」
ヴォイスの静かな声が俺の目を扉に向けさせた。
扉が躊躇う様な隙間を見せた。
口が勝手に笑みを浮かべる。