表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

X話 過去の断片

XX27年 12月24日


 雪が降る、美しいホワイトクリスマス。

 彼は彼女を待っていた。遠く離れた、いつもの高台で。


 プレゼントなど用意していない。

 なぜなら彼と彼女は恋人ではなかったから。


郁也いくや……落ち着いて聞いて』


 彼女のことを愛していたのかと聞かれたら彼は「たぶんそうだったのかもしれない」と答える。

 おそらく彼女のほうもそうだろう。

 それくらい曖昧な感情を抱えて、彼と彼女はずっと一緒にいた。


 けれど、彼女のことをすべて知っているようで、彼は何も知らない。


あお……今、なんて」


 最後の瞬間、彼女は何を見ていたのだろう。

 何を、思っていたのだろう。

 そんなこともすべて、彼は知らなかった。


 手から滑り落ちた携帯電話。

 親友の声が、遠く彼方に聞こえる。


『……美和子みわこが死んだ』


 その日、神崎かんざき美和子みわこは誰も知らない時間の中で死んだ。







◇◆◇






XX34年 12月24日


 爆音が響き渡る。

 それは爆破音であったり、銃声であったり、さまざまな音色を奏でていた。


 教会で鳴り響く崩壊の音。

 その音楽に包まれて、黒髪の男が真白な服を着た少年と少女を殺そうとしていた。


「助けて、ください……お願いします」


 命乞いをする少年は右目から止めどなく血を垂れ流す。その少年が抱く少女は青ざめた顔で気を失っていた。


「へぇ、君はまともに話せるんだね」


 少年の齢はおよそ15、6と見える。青年というにはまだ幼く、少年というには大人びた雰囲気を醸す、そんな男の子。

 その少年が抱く少女は彼と同じ歳頃か、あるいは歳下であろう。


「ここにいる子どもは全員頭ぶっ飛んでると思ってたけど。ちょうどいいから教えてくれる? この爆発……何?」


 本来、その男たちが爆発させるはずの教会。

 しかし彼らが訪れた時にはすでに教会の崩壊は始まっていた。

 神殺しの大罪、その惨状だけが残されて。


「……助けてくれたら、全部……教えます」

「へぇ、駆け引きのつもり? バケモノでも頭は使えるみたいだね」


 男の発した『バケモノ』に少年の体は敏感に反応した。自らを『神の子』であると自称する彼らにとって、その言葉は何よりの侮辱に聞こえただろう。

 けれども少年は逆上することもなく、より深く男の前に頭を垂れるだけ。


「お願い、です。この子を……この子だけは助けて」


 少年は少女を腕に強く抱き、まるで神に祈るかのごとくして男に少女の命を乞う。


「っははは。……その子を? 君は助からなくてもいいんだ?」

「……彼女を助けて、くれるなら」

「それが本当なら、君はこれを避けないよね。……その覚悟、確かめてあげるよ」


 少年の額には男の銃口が突きつけられていた。

 少年の、右目から流れる血は止まることを知らない。

 

「……バケモノが綺麗事を言うなんてね」


 男は薄く笑ってトリガーを引く。


「へぇ……これは面白い」


 偶然か、それとも必然か。

 男の持っていたハンドガンには弾が入っていなかった。


「この子を……助けて」


 少年は、男の銃口から額を離していなかった。

 命の賭け引き。勝ったのは少年。

 最後にそう言い残して、少年はその場に倒れこむ。

 青ざめた少女と血だらけの少年。

 意識を失っても彼らは離れないように手を繋いでいた。


「郁也さん! こっちもそろそろ爆発して……」

「ああ、九条君。……いいところに。この子達運ぶの手伝って」


 少年と少女を無理やりに引き剥がす。

 そうして『郁也』と呼ばれたその男は、少年が大事に抱いていた少女を抱きかかえた。


「クリスマスプレゼントは……クイーンとナイトってところか」


 血濡れたすべてを消し去るように、燃える教会。

 彼らが起こした惨劇を朽ちた神像だけが見下ろしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ