0歩目
本編は次からです。読み飛ばす程度でよろしいでしょう。
物心がついた時から檻の中にいた。
なんの不自由も無い。
オレが居た檻の中は何をやっても鼻で笑ってくれたし、欲しいものは何でも拾うことが出来た。
それが急にどうしたのだろう。
物心を掲げるようになってから、何をやっても不自由に感じられるようになった。
オレが一歩を踏み出すだけで、周りの世界が進み、割れ、崩れ落ちる。もう鼻で笑ってくれる者もいない。
拾い上げたものはその瞬間に色と形を変えて、オレに威嚇してくる。怖いとは思わない。けれど欲しいとも思わなくなった。立ち止まったまま微動だにせず檻の中で過ごす。
でも、毛づくろいと歯磨きだけは欠かさなかった。
それから幾度、雨が夜更け過ぎに雪へ変わったか分からない。
その瞬間は突然やってきた。
音楽が聴こえてくる。まるで初めて聴くかのような馴染み深い曲だ。
音が聞こえてくる。耳に穴が開くかのような楽しい音だ。
雨水が顔を伝う。曇りのない曇天の空だ。
景色が見える。ずっと思い描いていた見覚えのない場所だ。
オレは檻の中にいた。だから、檻が壊れたんだ。
痺れた五感を引きずるようにして進んでいく。たどり着いた場所が当面の目的地。
じゃあ、彼方此方行ってみようか。
一歩進む