帰還
――得体の知れぬ力に翻弄され、逃げることも叶わず。
この隔絶された場所で、虜囚となって朽ち果てていくしかないのか――
もはや、近づいてくる不気味な影に抗う気力も失い、皆はただ、動けなかった。
――オオオォォォォ
その時だった。吹きつける冷気に混じるように、低い、唸り声にも似た音が聞こえてきた。続いて――
たすけて たすけて 死にたくない 死にたくない
出して ここから出してよ はやく家にかえりたい
もういやだ 戻して 元の世界に 戻してよ
ワケがわからない ドウシテこんなことに
この先 どうなる ドウナル
ヤメテ チカヅカナイデ コナイデ
コワい コワい コワい おばけ コワい
すがるようにも、慟哭するようにも聞こえるその声はかすかに、しかし、確かに、静かに近づいてくる生霊もどき達のもとから聞こえてきた。
「……こ、この人達一体何を言っているの? 『帰りたい』だとか『もういやだ』だとか。それはこっちのセリフ――」
スセリは混乱していた。この不可解なものが言葉を、それも、まるで自我があるかのように喋り出したことに怖れおののいた。
唐突に、スセリは何者かに裾を掴まれ、ぎょっとして後ろを振り返った。
それはサクヤだった。彼女はしゃくり上げながら、震える手でスセリの裾を引っ張り、おそるおそる囁く。
「お、お姉ちゃん、ひっく、い、今あたし、ひっく、心のなかであの声と同じこと……思った」
「え!?」
「オイラも、同じこと……思ったかも……」
目を赤く腫らせたイチキも、はっとした顔で途切れ途切れに呟いた。
懐疑と戸惑いが入り交じったような表情で、スセリはもどき達を見つめ、声を震わせる。
「ど、どういう…こと!? あの声が私達の心の声だとでも……」
「――なるほど、そういうことか」
ひとり、成り行きを見守るように佇んでいたトシがふと、静かだが確信に満ちた声で呟いた。そしてゆらっと身体を揺らすと、無造作に生霊もどきの群れに突っ込んでいった。
「あ、おいトシ! 一体何を――」
ミナカタの追いすがるような声にも構わず、トシは一気にもうひとりの自分の前に立ちはだかると、背から抜き放った大剣で、気合とともに袈裟懸けに振り下ろした。
「ふんっ」
一瞬の間をおき、トシもどきは剣の残像をなぞるように斜めに半身を滑らすと、ブンッという音とともに掻き消えた。
「き、消えた……!?」
信じられないという面持ちで、ミナカタはかすれるように、驚愕を含んだ声を上げた。
トシは満足そうに頷くと、スラッと剣を収め、飛び退るようにして、もといた場所に戻ってきた。
「お、おい、どういうこったよ、トシ! 説明してくれ」
ミナカタは這うようにしてトシに詰め寄った。
トシはしばし考えたあと、言葉を選ぶようにゆっくりと話し始めた。
「――こいつらは多分、オレ達の恐怖心だとか不安感が生んだまぼろし。だから、心を強くして斬りかかれば、倒せると思った」
「心を強くったって……。怖えぇとは思わなかったのかよ」
「怖いという気持ちも、もちろんあった。だけど、これがどういうことなのか、知りたいという気持ちのほうが強かった」
「――はっ、大したやつだよ、おめぇはよ。……しかし、な」
ミナカタは絶句しながら、身体を萎縮させている皆に目を向けた。
皆は困惑していた。
トシによって、敵を打ち倒すことが可能だと証明されても、身動ぎひとつできずにいた。
――心を強く――
そんな曖昧な言葉だけでは、一度心に刻まれた恐怖や絶望感は、そう簡単に拭い去ることはできなかった。
一歩間違えれば死。しかもそれは、イタルの言葉を借りれば、すでに多くの〈冒険者〉が経験しているような、確実な復活を約束されたものとは限らない。
そのことが皆の心を、更に固く縛りつける。
バシンッ
突然、どこからか、何かを激しく叩きつけるような音が響いた。
皆はびくっと身を震わせながらも、音のしたほうへおそるおそる顔を向けた。
そこには、すくっと立ち上がったスセリがいた。
顔を俯かせ、肩を小刻みに震わせながら、彼女は立っていた。乱れた髪の間から垣間見える両の頬、だらりと垂れ下がった両の掌が、真っ赤に腫れている。
皆が瞬きもせずに見つめる前で、スセリは大きく息を吸い込んだ。そして震える両手をぐっと握り締めると、次の瞬間、力強く、ばっと右手を広げてもどき達のほうへ突き出し、目に涙を溜めながらも、必死の形相で声を張り上げる。
「わ、私達みんな! 突然こんな世界に連れて来られて、わ、訳がわからなくて……この先どうなるのかもわからないけど! だけど……だけど、覚悟を決めるの! 今を生きる! この先もみんなで生き抜いていくんだって。これからもみんな一緒よ。だから、だから今だけは、恐怖心と不安を捨てるの! みんなで一緒にアキバの街に帰るのよ!!」
もどき達を睨みつけ、感極まるように叫んだスセリ。その頬を、つうっと二筋の涙が伝った。
水を打ったように、あたりは静まり返った。言葉も発せないまま、皆はスセリの言葉を心の中で繰り返しているようだった。
不意に、ミナカタが立ち上がった。そして叫ぶ。
「そうだ! 生きる覚悟だ! 元の世界に帰りたいって気持ちは嘘じゃねぇ。だが、今はどうにもなりゃしねぇ。だったらオレは、この世界でとことん生き抜いてやるぜ!!」
「……だよな。オレ達、まだどっかで現実を受け入れてなかったのかもしれない。現実逃避して、逃げたがってたんだ。だけど今は、この世界でしっかりと生きていくしかないよな」
イタルはそう言いながらミトシの肩を借りて立ち上がった。その身体には、再び、精神の高揚を示す獣の耳と、豊かな尾を発現させていた。そしてミトシに軽く微笑みかけると、目の前にいたミナカタもどきに向かって走り込んでいった。
イタルは振りかぶった拳で、思い切りミナカタもどきを打ち抜いた。だが、拳は虚しく素通りし、イタルの身体は反対側へと投げ出された。
「くそっ、まだ足りないってのか」
忌々しくもどき達を見上げるイタルに、トシの言葉が届く。
「違う、そうじゃない。これは自分の心が生み出した不安や恐怖。だから――」
「そ、そうか。自分の恐怖は自分でしか消せないってことだな! ようし、それなら――」
イタルは再び立ち上がると、今度は自らの写し身に渾身の一撃を叩き込んだ。
ブンッ
羽音のような音を残して、イタルもどきの姿は掻き消えた。
「やるじゃねぇか、イタ! 今度はオレの番だな!」
ミナカタは剣を振りかぶり、雄叫びを上げながら、自らの恐怖と不安が生み出したという写し身に斬りかかっていった。そして、この期に及んでもなお薄笑いを浮かべるミナカタもどきに対峙すると、有無をいわさず青竹を割るような一撃を叩き込んだ。
ブンッという音ともに、ミナカタもどきは真っ二つに割れ、地面に倒れる間もなく消え去った。
「オラッ! おめぇらも顔を上げて、さっさと覚悟を決めやがれ! 気合ならオレが入れてやるぞ〈ウォークライ〉!」
喚くように叫びながらミナカタが鼓舞スキルを発動すると、技の主を中心に、密度の濃い空気が波のように広がっていった。
「あぁ、もう、ミッちゃん、そうでかい声出すなよ。それとイタちゃん、さっきのオレっちの言葉、撤回するぜ。簡単に諦めちゃダメだよな。生きるってなぁ、そういうことだよな」
イワサカはのっそりと立ち上がると、ニヤリと笑って、イワサカもどきに向かって走り込んでいった。
イチキは、まだ興奮が冷めやらぬように顔を紅潮させているスセリの肩をぽんっと叩くと、杖を差し出し呪文を唱える。
「お化けなんて怖くにゃい。怖くにゃーい〈オーブ・オブ・ラーヴァ〉!」
はっと我に返ったようにイチキを見つめたスセリも、つられて魔法を繰り出す。
「〈勾玉の神呪〉!」
「わ、私も負けてらんない! 〈エレメンタルブラスト〉!」
ミトシもサラマンダーを召喚し、炎の一撃を放った。
ブンッ、ブンッ、ブンッ、ブンッと、もどき達は次々とその姿を掻き消していった。
「あとは……サッちゃん!」
ただ一体残されたサクヤもどきに気づき、イタルがサクヤを振り返った。
「えぐっ、えぐっ。あ、あたし、無理――」
サクヤはひとり、泣きじゃくって座り込んだまま、まだ立ち上がれないでいた。
「サクヤ! あれはあなたにしか倒せないの! もうひと踏ん張りよ!」
「サッちゃん、不死との戦いを思い出して!」
「サク!」
「サクちゃん!」
「サクちん!」
皆がサクヤに駆け寄り、口々に叱咤激励するが、サクヤは腰を抜かしたように座り込み、動けなかった。
その時、サクヤもどきに動く気配があった。
もどきはあざ笑うような薄笑いを浮かべたまま、右手をゆっくりと持ち上げ始めた。
「ま、まさか、攻撃してくるのか!?」
目を見開いたイタルが言い終わらぬうちに、持ち上げたもどきの右手から、光弾が打ち出された。
その弾は、恐怖で思わず目を閉じたサクヤめがけ、真っ直ぐに飛んでくる。
「サクヤ! 危ない!」
唸りを上げた光弾が、まさにサクヤに命中しようとした刹那、白い影がその前を横切った。
バシュンッという衝撃音が響いた。
「はぐぁっ」
呆然とするサクヤの目の前に、光弾をまともに背中に受け、狩衣を黒く焦がしたスセリが横たわっていた。ところどころ服は破け、痛々しい火傷の跡が顔を覗かせている。
その惨状に、我に返ったサクヤが悲鳴のような叫びを上げる。
「お、お姉ちゃーんっ!」
「スー姉! しっかりして!」
「だ、大丈夫。なんとか……生きてる…わ」
ミトシに抱き起こされたスセリが、苦痛に顔を歪ませながら、呻くような声を出した。
「ミトシ!」
「わかってる! 〈従者召喚・カーバンクル〉!」
イタルが指示するまでもなく、ミトシは即座にカーバンクルを召喚した。
「クルちゃん、お願い! 〈ファンタズマルヒール〉!」
カーバンクルは、小回りしながらきゅぅーとひと声鳴くと、治癒の光でスセリを包み込んだ。
「ごめんなさい。お姉ちゃん、ごめんなさい……」
俯いて肩を震わせ、同じ言葉を何度も繰り返しながら、サクヤは必死に涙を拭った。
「お、お姉ちゃん、あたしを庇って……あ、あたしが……あたしがもっと……」
涙を拭い去り、真っ直ぐ前を向いたサクヤの顔は、不甲斐ない自分への怒りの顔へと変わっていた。
「――よ、よくも、よくもお姉ちゃんを!!」
やがてそれは、あざ笑う敵への激しい怒りの顔へと変化した。
そしてサクヤはすくっと立ち上がると、姉の仇に向かって一直線に走っていった。
「あ、サッちゃん!」
ミトシの声がサクヤを追い掛ける。だがサクヤは、その声に構わず、無我夢中で走り続けた。
「〈ディバインマイト〉!」
走りながらサクヤは強化魔法を唱えた。オレンジ色の柔らかな光が、構えた杖に収束する。
そして最後の敵の前に身を躍らせると、鬼気迫る憤怒の形相で思い切り杖を振り下ろした。
「やぁーっ!!」
サクヤもどきはジジッ、ジジッと短いノイズを発生させたかと思うと、直後、ブンッと小さい音を響かせて、虚空に消えた。
同時に、壁に灯された青い炎も、息を吹きかけられたように一斉に揺らいで消えた。
広間には漆黒の空間だけが残された。
「終わった……のか?」
「……ああ、今度こそな」
ミナカタとイタルのごく短いやり取りを切っ掛けに、皆がどっと歓声を上げた。
スセリは、また半泣きになって駆け戻ってきた妹を受け止め、愛しそうに腕に抱いた。
真っ暗闇のなか、皆は肩を叩きながら喜び合った。
「へっ」
嬉しそうに抱き合う仲間達を眺めて、ミナカタが笑いながら鼻を鳴らした。
「おい、おめぇら、なんか忘れてねぇか? 早く明かりをつけろよ。お宝が待ってるぜ」
イチキがいそいそと杖に明かりを灯すと、ほかの皆もこぞって〈灯火の巻物〉を取り出し、次々に投げ放つ。あっという間に、目も眩むほどの光が広間に満ち溢れた。
目的のものは広間の最奥に鎮座していた。そこには大小様々な宝箱がうず高く積まれ、光を反射して眩く輝いていた。
皆は夢中で宝箱に駆け寄り、片っ端から蓋を開けていった。そこには全職業分を補って余りあるほどの武器や防具が詰まっていた。そのひとつひとつが、手にしただけで特別な力が秘められているのがわかるものだった。
「おお、これだ、これ。こういうもんが欲しかったんだよ」
ミナカタは、箱のなかからひと揃いの甲冑を手に取った。アイテム表示には〈英気の金属鎧〉とある。その鎧は、濃紺の地に金の装飾が施された、高級感漂うものだった。
そしてミナカタは、慌ただしく装備を外し、真新しい甲冑を着込み始めた。
「はは、ミッちゃん早速身に着けんのかよ」
「ったりめぇだろ。何のためにここまで来たと思ってんだよ」
ミナカタの大きな身体と赤い髪に、濃紺の甲冑はよく映えた。そして最後に、兜をその頭に被った途端、足の先から頭へと、淡い紫色の光がゆっくりと立ち昇っていった。
「おおお! こりゃすげぇぜ。身体んなかから力が湧き出してくるみてぇだ」
ミナカタは、想像以上の甲冑の効果に目を丸くした。
ほかのメンバー達も、ある物は身に着け、ある物はバッグにしまい込み、達成感に満たされた表情で広間の入口へと向かっていった。
「ところでよ、あの扉、ちゃんと開くんだろうな」
思い出したようにイワサカが、閉じたままの扉を指差し、不安げな声を上げた。
「おう、ちょっと待ってろ」
ミナカタはずんずんと扉に近づくと、隙間に指を差し入れ力を込めた。扉は潤滑油でも差されたかのように抵抗なく動き出すと、最初に開けた時とは比べものにならないほどの勢いで、豪快に開け放たれた。
どうだ、とばかりにミナカタは皆を振り返り、ガッツポーズを決めてみせた。皆からおおーっと歓声が上がる。
一行は足取りも軽く、もと来た道を戻っていった。
長い階段を昇り、激戦を繰り広げた広間に至ると、戦いの記憶が蘇るのか、それぞれが感慨深げな表情を見せた。
もはや洞窟内には、彼ら以外に動くものの気配は感じられない。
「これで、ここのモンスターが湧き出すのも、またひと月後ってこったな」
「けどよぉ、それもちょっと複雑だよなぁ」
「ん? 何がだ?」
「ほら、ひと月後にまたモンスターが出るってこたぁ、そんときゃまた周りの村が襲われるってことだろ。オレっち〈冒険者〉にとっちゃ、この洞窟が復活してもらわねぇと困るけどよ、〈大地人〉にとっちゃただの迷惑でしかねぇじゃねぇか」
ミナカタとイワサカが話している脇から、イチキがひょっこりと顔を出す。
「確かにそうだにゃぁ」
「そんときゃぁ……そうだな、オレ達がボランティアで、村の警備にでも来りゃいいんじゃねぇのか」
「あぁ、それいいにゃぁ。ミナカっちんにしてはいいこと言うにゃぁ」
ミナカタの腕に取りつきながら、イチキは猫耳をピクピクさせて、ニヤニヤと笑っている。
「してはってなんだよ、してはってよ」
「にゃははっ」
広間をあとにし、緩い坂道を登り、更に最初の戦いがあった広間も通過した。戦いのあった場所を通る度、皆はその時の記憶を温め合った。
最後の、洞窟の入口へとつながる通路の途中で、イチキがぼそりと口を開く。
「しっかし、あのオイラ達の幽霊みたいなの、あれは結局なんだったにゃ」
その記憶だけは思い出したくもない、というのが本音であろうが、それでもやはり、口にせずにはいられなかったのだろう。
「〈シャドークラックス〉かい? まぁ、順当に考えりゃ〈ノウアスフィアの開墾〉で追加されたクエストとかだろうけどよぉ、それにしちゃぁなぁ、趣味わりぃっつうか、悪質っつうか――。スー姉、なんか聞いてるかい?」
首をひょいと前に出して、イワサカはイチキの向こう側にいるスセリを見やった。
「いいえ。〈大災害〉からもうひと月も経つけど、それらしい噂も聞いたことないわ。もしかしたら、このダンジョン固有のクエストということも考えられるけども……どうなのかしら」
「うーん」と三人は、頭を悩ますように首を傾げた。
そのすぐ後ろで、もうひとり、頭を悩ませている者がいた。
「うーん」
「イタくん、どうかした?」
胸に抱くカーバンクルの頭を撫でながら、ミトシが覗きこんできた。
「いや…な、あのリーダーだったのやつの名前、〈REAF〉っていうの、RとFを入れ替えたらFEARってなるだろ?」
「えっと、恐怖とか不安?」
「そうそう。あれってそういう意味だったのかなーってさ」
「――さぁ、どうなんだろねぇ」
そう言ったまま、しばし押し黙ったミトシが、やや俯いて、再び話しだす。
「私もね、イタくんにひとつ言いたいことがあるの」
「え?」
「えっとね、私なら大丈夫。この世界も結構楽しいって、今なら素直に思えるから。イタくんと、それにみんなと一緒でホントによかったって思ってるから。ほら、こんなにかわいい子達もいるし……。ね、だからもう、自分のことを責めたりしないで」
カーバンクルを高く抱き上げながら、ミトシは屈託のない笑顔を見せた。
「――ああ」と、イタルは短く答え、指で鼻の下をこすりながら一度鼻をスンと鳴らすと、そのまま横を向いて、いつの間にか目に溜まった涙をさっと拭い去った。
そしてまたミトシに顔を向けると、嬉しそうに微笑み返した。
「お、みろ! 出口が見えてきたぜ!」
洞窟の先に、かすかに見える光を見つけ、ミナカタは駆け出していった。
「おぉー!」
喜び勇んで、皆もあとに続いて走りだした。
一気に洞窟を抜け出ると、そこは一面、赤く染まっていた。
もうすっかり陽も傾き、見渡す限り夕焼け色に照らされていた。
あたりに屹立する岩山も、その周りに生い茂る木々も、そのすべてが眩しいほどの赤に彩られていた。
遠くに流れる川も、光を反射してキラキラと輝いている。
「わぁ、きれいー」
ミトシが眩しそうに目を細めた。
「だな。こうしてみると、この世界も悪くねぇって思えてくるよな」
「ああ、そうだな」
感慨に浸るミナカタに、イタルは大きく頷いた。
「予想外なこともあったけれど、こうしてみんな無事に戻ってこられてホントによかった。お疲れさま」
そう言ってスセリは、夕陽に赤く染まった皆の顔を見渡した。
それから、抱きつくようにぴったりと寄り添っているサクヤの顔に目を落とす。
「サクヤも、ホントによく頑張ったわね」
「――ううん、あたし、もっと強くなる。もっともっとみんなの役に立てるように頑張るから」
「うん」
頷きながらスセリは優しく微笑みかけ、その小さな頭にそっと手を置いた。
そして、もう一度皆に顔を向けると、いっぱいに声を張り上げた。
「さあ、帰りましょう! 私達が生きる街へ!!」
「おおーっ!!」
皆は強く握った拳を、力いっぱい茜の空へと突き上げた。
――完――
最後まで拙い作品にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
元々このキャラクター達は、ログ・ホライズンTRPG用にとなんとなく作成したものなのですが、いつしか、このメンバーでギルドを結成して、冒険させたらどうなるだろうかと妄想を膨らませていった結果、こういった形になりました。
それぞれのキャラクターを喋らせたり、戦わせたり、喜怒哀楽を表現したりといった作業過程は、とても楽しいものでした。
短いながらも、執筆を通じて、小説を書く難しさ、楽しさを存分に味わうこともできたと思っています。
そのうち、また何か書きたくなったら、なんかしら投稿するかもしれません。
その時はまた、お付き合いいただけたら嬉しく思います。