82.迷路脱出
偽リリィの二人と戦いが始まってから、10分経っていた…………
「……よし、これで二人にあと一撃ずつ与えれば……」
『こちらの勝ちですね』
リリィとドーラは回復薬を飲んで周りを警戒していた。
敵の二人は既にHPは1だけになっている。〈菊花の和服〉の効果は発動済みで、あと一撃ずつで倒せる。
敵は回復薬を持っていないから、リリィとドーラは敵が壁から出て来た瞬間を狙って、少しずつ削って行ったのだ。もちろん、偽リリィ達もただでやられるわけでもなく、リリィとドーラもダメージを受けていた。
だが、回復薬を持っているリリィの方が有利で、時間をかけて、ようやくここまで来たのだ。
ずぶっっ、ずぶぅぅぅ……
この音は、偽リリィが壁の中を進んでいる音であり、壁の中にいる敵に攻撃しても、壁は破壊不可能のオブジェクトで出来ているので、ダメージを与えられない。
なら、息づきをする瞬間か攻撃の瞬間を狙うしかないのだ。
そろそろだと思うんだが……
リリィは時間を計っていたのだ。壁の中に潜ってから出て来るまでの時間が大体20〜30秒なのだ。
20秒が過ぎた今、そろそろ出て来ると予測した時に…………
来た!!
壁から波紋が浮かんできているから、出て来るのがわかった。
すかさず、そこに【闇の槍】を叩き込んだ。
ドバァァァァァァァァン!!
大きな音を響かせ、砂煙が漂う。
「やったか……?」
『!? 伏せて!!』
ドーラの声で反射的に伏せると、頭の上から振り切るような風を感じられた。
残った一人だろうと、離れながら後ろを向いたら…………
一人はドーラの剣でただの石像になった偽リリィの姿と、こっちに短剣を突き立てる偽リリィの姿が見えた。
「なっ……!」
「アタシはただでやられねぇ!!」
避けられなかった。短剣は左肩に突き刺さって、体力は残り一割で〈鈍重〉の異常を受けてしまった。
「ちっ! あの波紋はなんだった……?」
【闇の槍】をぶち込んだ場所を見ると、石になった短剣が壁の中から中途半端に出た形になっていた。
つまり、短剣を囮にして、リリィの背後を取ったのだ。一人目はドーラのおかげで、倒せたが、まだ偽リリィ2が残っている。
リリィに攻撃した後はすぐに壁の中に戻ったのだ。
「くっ、〈鈍重〉を受けたから攻撃は任せる!」
『はい!』
リリィは体力を回復したが、〈鈍重〉の異常を回復させる薬は持っていないから、自然回復を待つしかない。
〈鈍重〉の異常とは、動きが遅くなるほかに、剣を振るスピードも落ちてしまう。全ての攻撃のスピードが下がってしまうのだ。
攻撃しても当たらないと思い、攻撃役はドーラに任せる。
「ち、〈鈍重〉だけかよ」
偽リリィ2は二人から離れた場所から顔だけ出していた。
偽リリィ2にとっては、もう一つの〈猛毒〉も受けてほしかったのだ。リリィも〈菊花の和服〉を着ていることを知っているから、〈猛毒〉を受けていれば、簡単に倒せると考えていたのだ。
リリィは〈猛毒〉を解除する薬を持っているから、〈猛毒〉にしても意味がないのだが……
「消えちゃえ! 【闇のや……】」
『させないです!』
ドーラは魔法を発動させないように、手にある剣を投げつけた。
偽リリィ2は避けることを優先したので、魔法は発動出来ないまま、壁の中に潜った。
「くっ、敏捷と剣速が半分になっているな」
『マスターは自然回復するまで防御に専念してください』
「そうだな……いや、こっちに来い」
一つの作戦を思い付いたからだ。ドーラを呼び寄せ、耳元に作戦を伝える。
偽リリィ2はまだ壁の中で潜っていた。リリィとドーラが声を小さくして話をしているが、リリィは〈鈍重〉を受けているから、防御を優先に動くはずだ。
なら、あの秘密の会話のそのものがブラフと予測する。
偽リリィ2には〈鈍重〉を受けているが、手はあると言っているように見えたのだ。
ならば、偽リリィ2が動くべくの行動は…………
まず、ドーラを消す!
〈鈍重〉の効果は10分間。上手く動けないリリィを狙うと、偽リリィ1みたいに、ドーラに攻撃されてしまう可能性がある。
ならば、攻撃してくるのがドーラだけなら、やりようはあると偽リリィ2は判断して、先に動けるドーラを片付けることにした。
ドーラの後ろに位置する壁まで移動した。その前に、さっきみたいに囮を置くのを忘れないように…………
ピチュン……
ドーラの正面で、壁に波紋が出た。さっきと同じやり方だが、ドーラはすぐに判断出来なかった。本物か? 囮か? と…………
「アタイの勝ちだぁ!!」
ドーラの背後から偽リリィ2が出てきて、短剣を突き立てるが…………
「なぁ、動けない!?」
偽リリィ2は影に縛られて、動けなくなっていた。この技は…………
「よし、作戦成功か」
「まさか、こんな魔法を持っていたの!?」
リリィが使ったのは【影拘束】。攻撃をしても、スピードが遅くなるから普通なら当たらないのだが、【影拘束】は攻撃魔法ではなく、補助魔法だから、スピードは落ちなかったのだ。
『トドメです』
「クソォォォ!」
HPが0になり、偽リリィ2も石像に戻り、砕けた。
戦いが終わったら、声が聞こえたのだった。
『〈ウォール・シャドゥ〉を倒しました。これで壁を歩けるようになりました』
壁を……? どういうことだ?
壁を歩けるようになったとしても、迷路をぬけられるのか? と思ったが、すぐに気付いた。
確か、『見極める者』は通った道は使えないと、言っていた。
なら、道ではなく、壁を使って迷路を抜けろということか?
リリィは早速、試すことにした。もし、間違っても元に戻されるだけなのだから。
ドーラを戻してから、記憶通りに、壁を走って出口に向かって行く…………
「よし! 抜けられた!」
リリィはようやく迷路を抜けることが出来たのだった…………