80.二つの石像
出口までの道を再び通っても、何故か入口まで戻されてしまう。
空を飛ぼうとしても見えない壁が邪魔になる。
「……何かあるはず」
見極める者は同じ道は使えないと言っていた。
なら、出口まで繋がっている他の道を探してはどうか? と思い、階段の一番上から見ていたらある物を見付けたのだ。
「あ? 前はあんな物あったか?」
目に付いたのは、迷路の入口から少し進んだ行き止まりのとこに石像があった。
それも一つだけではなく、別の場所にももう一つ見付けた。
「あれが迷路の謎を解く鍵か?」
すぐに迷路に入って石像まで向かった。
目の前まで着いたリリィは石像の姿に驚いたのだ。
「……なんで、私の石像があるの?」
目の前には鏡に写るようにリリィの姿がそのまま置いてあるように感じられたのだ。
これが謎を解く鍵なのか? と疑問を浮かべていると…………
『私はリリィ、リリィちゃん。座敷童で幸運を司る種族。貴方はだぁれ?』
「どういうこと……?」
いきなり石像が喋り始めたら、リリィのことを説明し、自分は誰なのか質問してきたのだった。
意味がわからなかったリリィだったが、とりあえず答えることにした。
「私は本物のリリィよ、貴方は偽物よ?」
『偽物…………』
一言を呟いたら、俯いて黙ってしまった。
リリィはそれに何かを感じてアイテムボックスから〈聖母殺しの剣〉を取り出していた。
それが正解だったようで、いきなり石像のリリィは〈血濡れの短剣〉を突き出していたのだ。
『本物を消して私が偽物から本物に変わる!!』
「いきなり戦闘かよっ!?」
石像のリリィは身体が石にしては、普通の身体のように動き回ってこっちに攻撃を加えてくるのだ。
しかも、その手には状態異常を付加する〈血濡れの短剣〉を持っている。
まさか、自分と同じのが出て来るとは思わなかったわ! だが、身体能力はこっちの方が上っ!!
さすがに、武器と姿が同じでも、身体能力はこっちの方が勝っているようだ。
剣で短剣の攻撃を防いでいく。掠っただけでも二分の一の確率で〈猛毒〉か、〈鈍重〉に掛かってしまうから気を抜けないのだ。
「うらぁっ!」
石像が短剣術のスキルを使ってきたので、まともに受けずに受け流していく。どれも弱いスキルで威力もないスキルだが、発動後の硬直がないから当てるだけでいい敵にとっての最善な攻撃だろう。
リリィも防戦に徹して慌てずに敵の隙を探していく。時間をかければ、確実に勝てるから慌てる必要はないのだと思っていた。
さっきまでは…………
ずぶっ、ずぶぶぶっ…………
何処からか変な音が聞こえて来るのだ。
まるで水に浸かって進んでいくような音に似ていた。だが、ここの迷路には水場がないのは確認済みなのだ。
なら、何故……? と考えていたら何か忘れていたことに気付いたのだ。
確か、見えた石像の数は…………
「ヤバッ!? 二体目か!?」
リリィは慌てて下に伏せる。と、頭の上に何かが通ったような感覚があった。
そう…………
「惜しい! やっぱり本物は違うねっ!」
二体目である石像のリリィだった。
しかも、手には〈聖母殺しの剣〉が握られていた。
「いったい、何処から……?」
一番気になったのは、二体目が現れたのは、さっき一体目が置いてあった行き止まり側だった。
一体目のリリィと交戦している時に、自然に居場所が入れ代わっており、リリィが行き止まりを背に戦っていたのだ。
何処にも現れるような場所はないはずなのに、二体目の敵が現れた。
待てよ、さっきの音は何だったんだ?
「気になるの〜? まっ、すぐにわかるけどね」
「なに……?」
「それはね、こういうことだよっ!」
二体目の敵が壁に向かって跳んだと思ったら、ずぶりっと壁の中に入ったのではないか。
「私も出来るよ」
一体目の敵も壁の中に入って身体の上体だけを壁から出しているような格好になっていた。
「「私は、ウォール・シャドゥ!」」
二人とも、リリィの姿のままで自己紹介してきた。
おそらく、ここの迷路の試練のようなものだろう。見極める者と名乗る者も現れたのだから…………
「成る程……、お前達を倒せば、次の道が開かれるわけかっ!! ドーラ、召喚!!」
二人相手には厳しいと感じたリリィはドーラを呼ぶ。メイデだと武器を動かすにはここの迷路では狭いだろう。
だから、小回りが利くドーラにはサポートを頼むことにしたのだ。
「ドーラ、後ろを任せる!」
『マスター、お任せを!』
試練の相手である、壁から上体を出している二体の敵に向き合うのだった…………