67.次のボス戦
モヒカンPTとの戦いがあった翌日、リリィはボス部屋への扉の前にいた。
いつも通りに一人で挑むリリィ。もし一人では荷が重いと思ったらドーラを召喚することも考えているが…………
「よし、ボス部屋を見付けたし、挑んでみるか!」
リリィはいつも通りの心情で扉を開いてみる……
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
開いた瞬間に光がリリィを包み込んだ。目が光に慣れ、周りを見ると、滝に囲まれたフィールドだった。
滝……?今回のボスは水タイプのようだな……
周りには滝が囲んでおり、リリィが立っている場所にも浅いが、水が流れている。
その中心には深そうな水場があった。滝に囲んでいる中、さらに深そうな水場に向けて丸く足場が囲んでいるような物だった。
敵は中心からか……?
他のゲームでもたまに見る、中心に敵が固定していて、周りが足場になるようなフィールドに似ていたからそう予測したのだ。
と、予測通りにボスは深そうな水場からドバァンと音を発して出てきた。
「……ウツボ?」
そう、リリィが言ったようなイカツイ顔をした細長い魚がピンと水場から顔を出していた。
演出は終わったと思い、動こうとしたが、まだ動けなかった。
……?まだ演出が続くのか?
まだ動けないということは、まだ続きがあるということ。
しばらく待ってみたら、滝の二カ所から何かが出てきた。見るには、人型をした妖精のようなものだった。
「「クスクス、無謀な挑戦者よ。ここから逃げないと死ぬよ〜?もう逃げられないけどね!キャハハハッ!!」」
こっちを馬鹿するような笑いでこっちを挑発してきた。
リリィはその笑いを無視し、このボス戦について考えていた。
まさか、このボス戦は三体相手を倒さないとダメなのか?
そこにいるのは、ウツボのような敵と水の精霊?が二体もいる。しかも、足場がウツボを囲む程度の場所しかない。
うーん、足場は避ける分の広さには問題ないけど、この水が気になるね……
リリィが思うのは、すでに草履を濡らしている水のことだ。今のところは邪魔にならない程度だが、もしだんだん深くなっていくと、リリィは【泳ぎ】を持っているが、陸地と同じようには動けないのだ。
なら、長期戦にならないように短期に決めないとね……
戦略はある程度決めたとこに、演出は終わり、動けるようになった。すぐさまに、召喚して、ドーラを呼んだ。
「ドーラは、水の精霊を!私はあの魚をやるわ!」
『お任せを』
水の精霊の名称は【悪戯の水精】と出て、ウツボの方は【沈没の水龍】と出ていた…………
「ハァッ!?あのウツボが、水龍!?ウツボにしか見えねぇよ!!」
『……確かに』
ドーラもリリィに同意していた。名称は水龍と書いてあるが、どう見ても龍ではなくウツボにしか見えないのだ。
そんなことを叫んでいるリリィ達だったが、先に敵が攻撃してきた。
「「キャハハハッ!水の鞭よ、敵を討ち果たせ!!」」
水精が両手に太い水の鞭が握られて、動きが予測できない攻撃をしてきた。
リリィは【ベルゼブブ】を発動して【暴食】で四本の鞭の内、二本を喰った。残った二本は自力で避けた。
『アアアアアアアアッ!!』
避けた後にドーラが水精のスキルを封じ込めようと、【旋律の泣き声】を発動したが…………
「「キャハハハッ!効かない効かないよ〜〜」」
ちっ、このボスには状態異常が効かないのか?
ミノタウロスの時は状態異常にすることが出来たが、ラクダの時は状態異常にすることが出来る剣で沢山攻撃したが、状態異常にすることが出来なかったのを思い出した。
まさか、初めのボスは特別に状態異常が効くようにしてあったが、第二ボスからは状態異常無効の特性を持つと言うのか……?
その可能性が合っているなら、リリィの武器が半減されたということだ。リリィの持つ武器は攻撃力も高いが、一番の武器は効果にあるのだ。高い確率で状態異常にすることが出来るのがアドバンテージだったが、無効出来るボス相手には半減すると言う意味になる。
「仕方がない、力押しになるが……」
先程、喰った水の鞭を水精にぶつけて、隙を作ろうとしたが、水精は受けてもケロッとしていた。体力バーも減ってない。
「なんだと、水も無効かよ!?」
ここのボスは水が効かないようで、体力バーを確認したら、水精はそれぞれが三本で水龍は五本もあった。
ソロだったら全てを削るには二時間も掛かるかもしれない。普通なら意気消沈してしまうが、リリィは別だった。
「多いな……、でも!」
リリィはニヤッ笑う。戦いを楽しめると言うような笑いだった。
今までの戦いで、苦戦をしたのは数回程度しかなかったのだ。
最近になって苦戦する敵に会うようになったことがリリィにとっては嬉しいことだった。バトルが好きなリリィは弱い敵と戦うより、苦戦してようやく勝てるか?という強者と戦うのが好きなのだ。
「面白い!【ベルゼブブ】解除、さらに【闇の槍】!!」
時間制限がある【ベルゼブブ】は足場が水に飲み込まれた時に使えるように、今は解除して攻撃する。
【闇の槍】は水龍に向けて撃った。水精が防御の水壁を作り出そうとしたが……
『そうさせません!』
二体の内の一体にドーラが攻撃して、魔法の邪魔をした。そのおかげで、一体分の水壁しか出来なかった。【闇の槍】は水壁を突き破り、水龍に当たった。
「ギィッ!?」
体力バーは一本の内、二割は削られた。水の壁で威力を弱められたが、一本の内の二割を削れた。
あの水龍は防御が低いと考えられるか……。水精は水龍のサポート役として行動するみたいだな。
水龍はまだ何もしてないから断定できないが、水精はサポートのモンスターだと予測できた。
「ドーラ、水龍を倒せば水精も消えるかもしれないわ」
『なるほど、その可能性は高そうですが……』
「問題は、あの水精が回復させるかもしれないということね?」
ドーラは肯定するように頷く。サポート役になっているモンスターはほとんど、回復魔法を持つことが多い。他のゲームではそうだったのだから、今回も可能性が高い。
「なら、先にあの水精を潰す?」
『マスターにお任せしますが……、水龍が何もしないことに気になります』
そう、水龍は攻撃されても声を出しただけで何もしてこないのだ。今も何もせずに水精だけが動いているのだ。
「……、もしかして、先にあの水精を倒さないと動かないとか?」
そう推測するが、合っているかはわからない。だが、水龍が動かないなら、水龍は無視して先に水精を倒すのもいいだろう。
「……よし、先に水精を倒すわよ!」
『了解しました』
少し考えてみたが、先に水精を倒すことにした。
だが、それが失敗だったことに気付くのはその後だった…………
「はぁ、こっちは水龍と違って堅いわね……」
『私達の攻撃を受けて、一撃で一割も削られないなんてね……』
水龍は無視して水精に当たっていたが、与えられるダメージ量が水龍と比べて、少ないのだ。
いや、ボス戦ならこれが普通だよね?こっちの物差しがおかしいだけか……
リリィの攻撃力が他のプレイヤーより高いため、そう感じられるが、これでもボス戦で与えるダメージ量は普通よりは多いのだ。
まぁ、少しずつ削って行けばいいか…………っ!?
急に危険察知が反応して、今まで無視していた水龍に目を向けて見たら……
「ドーラぁぁぁ!!」
『……っ!イタッ!?』
ドーラもリリィの声に気付いて、動こうとしたが、もう遅かった。
今ので、ドーラの右手と右足が切り飛ばされたのだからだ……
「ドーラ!!」
『ぐっ、ヤバいです……』
リリィは水龍に目を向けていたので、何をしていたのかわかった。
見た時はもう溜め終わって放つ瞬間だったのだ。つまり、今まで動かなかったのは先程の【ウォーターレーザー】を放つまでの溜めのようなものだったのだ。
続いて、水精から攻撃が来た。右足を切り飛ばされたドーラは機動力を奪われて避けられない状態だった。
『すいません、マスター……』
ドーラは水精の攻撃を二発受け、退場してしまった。
「ドーラ!クソォッ!!」
リリィはなんとか避けきって、水精に攻撃しようとしたら、水龍が動いた。
何だと!?もう溜めが終わったと言うの!?
水龍は何かを放つところだった。その時に目についたのは、ドーラを退場させ、私が攻撃しようとした水精と別のもう一匹が動かずに祈っている仕草をしていた。
まさか、あの一匹が水龍の代わりに溜めていたと言うの!?
原因がわかったリリィだったが、水龍はもう動いていた。【ウォーターレーザー】と違って上に放っていた。
「「クスクス、避けられない避けられないよ〜〜」」
馬鹿にするような笑いで話し掛けてくる水精。その意味はすぐにわかった。
「なぁっ!?」
リリィは上を見た瞬間にわかったが、何も出来なかった。
ドバァァァァァァァァァァァァァン!!!
【重圧の雨】。水龍が放ったのはただの雨ではなく、重さがある雨で全位範囲に降られる技だった。
逃げ場もなく、剣を盾にする瞬間もなく、雨を受けるしかないリリィだった。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
リリィは初めから設定されている痛みのフィードバックは50%のままにしてある。減らすことも出来たが、リリィは減らさずにやっていた。
それで今は全身に針が刺すような痛みが広がっている。
雨降り終わった時、体力バーは既に一割近くになっていた。いつもならすぐに回復薬を使うが、痛みでそれどころではなかったのだ。
「ぎぃぃぃ……」
なんとか我慢して立ったリリィだったが、回復薬を使う暇もなく、水精からの攻撃が来た。
回復を諦めて避けようと思ったが、足が重かった。
「まさか……」
痛みで気付かなかったが、今の足場は膝より下の辺りまで水に浸かっていた。それで足を捕られてしまい、向かってくる四本の鞭が目の前にあった。
まさか、初めての死帰りになるとはね…………
リリィは初めて、このゲームで完全敗退したのであった…………