62.ギロチンの刃
くっ、まさかドーラを閉じ込めてしまうとは……
電気椅子が見せた技、【電磁砲】は、相手を捕縛して3分間、閉じ込める効果があるようだ。
「いえ、それより三つの武器を同時に相手をすることになるとキツイわね……」
そう、ドーラは動けない状態にある。つまり、ドーラが相手していたギロチンの刃もこっちを攻撃してくることだ。
ギロチンの刃を見ると、三枚の内、二枚はドーラの奮闘で刃零れが見えた。ギロチンの刃の方が先に壊せそうと思ったが、電気椅子を無視出来ない。
さっきみたいにリリィも閉じ込められたら、何も出来なくなり、負けてしまう可能性があるのだから、先に電気椅子を壊さなければならないだろう。さらに、電気椅子を壊せばドーラを解放出来るかもしれないのだ。
「……【電磁砲】」
また電気椅子から【電磁砲】が放たれた。だが、距離は離れているし、リリィは【ベルゼブブ】で自分自身のスピードは上がっているのだから、簡単に【電磁砲】から逃がれた。
だが、攻撃は終わらずに、次が襲い掛かってきた。
「……【蛇降下】」
今度はギロチンの刃が三枚共、上から蛇のようにウネウネと動きながら落ちてきた。
攻撃に移れないっ!!
リリィはメイデンの猛攻に対して防御や回避が限界で、なかなか攻撃に移れない。リリィにはスタミナが減る心配はないが、精神には限界がある。集中し続けないと攻撃が当たってしまうので、集中を切らないように回避しているのだ。
このままじゃ、こっちがやられる。なら……、一か八か賭けに出るか?
もし、失敗したら必ず負けてしまう。成功したら相手に隙が出来る程度の成果だろう。
…………仕方がない。他に方法がないし。
賭けに出ることにした。リリィはその時が来るまで、攻撃を避けつづけた。と、チャンスはすぐにやってきた…………
「……【電磁砲】」
来たっ!コイツを待っていた!!
リリィは【電磁砲】を待っていたようだ。賭けとは…………
「【暴食】っ!!」
右手を挙げて、【電磁砲】を受ける形になった。そして、【電磁砲】は右手に吸収されるように、弾が小さくなって…………
よし、成功した!
リリィは【電磁砲】を吸収することが出来た。魔法かわからないので、賭けになってしまったが、【電磁砲】は魔法の分類に入るようだ。
「続けて……、【電磁砲】解放!!」
【電磁砲】はギロチンの刃に向けて、撃ちだした。
「……!?」
結果、ギロチンの刃は【電磁砲】によって閉じ込められて、自由に行動出来なくなった。
そのままだと、すぐにメイデンが【解除】で解放されてしまうが、ギロチンの刃は動けないし、メイデンも【解除】のために電気椅子の方に意識がいかなくなるだろう。
そこで、リリィは電気椅子に今の最大攻撃でダメージを与える。
「【闇拘束】に……【真桜乱舞】!!」
【真桜乱舞】はこの前、ゴーレム相手に使った【乱舞】の次の新技だ。【武器解放】のレベルが50を越えた時に覚えた技だが、五連続斬りの【乱舞】より隙が大きすぎて、普通ならPTの仲間が敵を押さえ込むか動きを止めるスキルがないと反対に反撃されてしまう。
しかし、相手の動きを止めることが出来たら、【乱舞】の二倍、十連続斬りを反撃なしに与えることが出来るのだ。
メイデンはギロチンの刃を【解除】するために意識を逸らしてしまったため、電気椅子は動けないまま、【真桜乱舞】を喰らって光の粒になって消え去った。
「よし、あと二つ!」
「……っ、【アイアンスタンプ】!」
メイデンはギロチンの刃を【解除】し終わっており、アイアンメイデンで攻撃してきた。
喰らうかっ!
【武器解放】、【剣術】、【槍術】など、武器に関するスキルを使った後はほんの僅かだが、身体が硬直してしまうのだ。
現にも、【真桜乱舞】を使った後、少しの間だけ硬直したが、今は【ベルゼブブ】のままなのだから直撃は受けずに余波の石つぶてを掠るだけで済んだ。だが……
「……【三羽刃】!」
「なっ!?」
【三羽刃】はギロチンの刃が融合し、槍の穂先に似た形に変わって、パリスタのように打ち出してきた。スピードは前より速くて、【アイアンスタンプ】の余波を喰らったリリィの姿勢では避けられない。
まさか、こんな技があったのか!?くっ、ここで終わってしまうのか……
威力はわからないが、三枚の刃が融合してパリスタに似た物が回転しながら突っ込んできているのだから威力が高いと予測できる。
もし、身体に貫通されてしまうとリリィの着ている〈菊花の和服〉の効果でHP1残ろうが、刺さったままでは〈失血〉という状態異常で残った体力なんて消し飛ぶだろう…………
〈失血〉は矢と槍によって深く貫通されたらなる状態異常のことだ。効果は〈猛毒〉に似ている。
リリィは何も出来ないまま、刺さると思ったら…………
『マスターっ!!』
動けるようになったドーラに突き飛ばされた。
「ドーラ!?」
『ぐぅっ!?』
突き飛ばしたドーラがリリィの変わりに【三羽刃】を貫通して壁まで飛ばされていた。
「おい!大丈夫か!?」
『ぐっ、少しだけ残りました……。だが、〈失血〉によって消えるかと……。だ、だがっ!』
ドーラは飛ばされても、武器だけは離してなかった。刺さったままのギロチンの刃に向けて、剣と小斧を振り下ろした。
『せめて、この武器だけは道連れにします!あとは任せます……!!』
振り下ろした剣と小斧はギロチンの刃に食い込み、ドーラと共にギロチンの刃も光の粒になって消えた。
くっ、ドーラが退場してしまったか……。だが、後は任せろ……
リリィはすぐにメイデンがいる場所を睨みつけた。
「残りは一つになったな」
「…………」
リリィが声を掛けるが、メイデンは何も言わずにこっちを見るだけ。
やはり、何も言わないんだな……
返事がないのはわかっていたことだったので、気にすることでもない。リリィはアイアンメイデンしかないメイデンを倒すべく、突っ込んだ。
「……【アイアンスタンプ】」
メイデンはアイアンメイデンで攻撃してきた。だが、リリィは何回も見た攻撃を喰らうことはなく、メイデンに二撃喰らわした。
「……っ!!」
体力バーは最初の攻撃も合わせて五分の三は減っていた。
つまり、あと二撃を与えたら消える。続けて攻撃しようと思ったら……
「……【身代わり】!」
「ちっ!」
攻撃は当たったが、もうアイアンメイデンに変わっていてダメージを与えられなかった。
リリィはすぐにアイアンメイデンから離れた。
あと二撃で終わるが、このまま終わるわけないよな……?
今までのボス戦では体力が減ると攻撃のパターンが増えていた。なら、このメイデンも何かがあると予測出来るからリリィは警戒している。
「……【兵装強化】!」
メイデンがそう言うとアイアンメイデンが分解して、メイデンの身体に装備した。
頭にはアイアンメイデンの被り物みたいなのがあり、肘、膝を守るサポーターみたいになっており、手には尖ったグローブがあった。鎧は無くて白い服のままだったので防御より攻撃を中心にした格闘家のようだった。
操作系から格闘家にチェンジかよ……?
そんな変身?みたいなことにリリィは呆れていた。だが、瞬間にそんな考えは消えていた。
……何故なら、目の前には被り物みたいな物が見えていたからだ。
「なっ!?」
リリィはとっさに剣を盾にしていた。と、剣を持っている手に振動を感じていた。痺れるような威力だった。
早い!?さっさと離れないとっ!?
メイデンは武器を操っていた時の武器スピードより速く動いていた。
一瞬といえ、呆れている時に懐まで突っ込んできたスピードには驚嘆の思いだった。
「早いが……、こっちも負けてない!」
直線に相手まで向かうなら先程みたいなスピードをリリィも出せるのだ。今までは様々な武器の動きに気をつけていなければならなかったので、本気で動いてなかった。
だが、今はメイデンは格闘家のように近接攻撃を仕掛けてくるので、本気で動ける。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
「……!」
リリィは剣、メイデンは鉄の尖ったグローブが打ち合う。
もう隠していることはないみたいね……
リリィは他に何かあるか警戒しながら打ち合っていたが、もう何もないとわかった。
まぁ、このスピードだけでも他の人だったらダメージを与えられず、負けていたはずね……
リリィには【ベルゼブブ】の効果のおかげでメイデンのスピードについていけたが、他の人ではスピードについていけず、負ける可能性が高いのだ。
「もう終わりよ!【黒太刀】!」
「……っ!?」
グローブと剣が打ち合う瞬間に【黒太刀】が放たれた。【黒太刀】はグローブに弾かれたが、目隠しになっていた。
「はぁっ!」
【黒太刀】の後に無装備である腹に突き刺した。
「……ぐぅ!」
今ので残り五分の一になったが、リリィの攻撃はまだ終わらなかった。
「まだよ!【黒太刀】ぃぃぃぃぃ!!」
「……っ、ぎぁぁぁぁぁっ!!」
剣を腹を突き刺したまま、【黒太刀】を発動して、体力のバーが真っ白になった。
「ぎ、ぃぃぃた、ぃたぃ……、痛い……、わ、私は……かい…う………され…のね…………あ………と……」
何か言っていたが、もう光の粒になって消えていっていた…………
……?何か言いかけていたが……?
メイデンが最後に残していた言葉を気にしていたら、アナウンスが聞こえてきた。
『稀少イベントクリアしました』
『稀少イベントをクリアしましたので、報酬を渡します。報酬はこちらになります。』
〈イベント報酬〉
拷問セット
と、変な物を手に入れたリリィだった…………