61.電気椅子
「【アイアンスタンプ】……」
また上空に浮いているアイアンメイデンが、ドーラに向かって落ちてきた。
リリィはその隙に、メイデンに攻撃を仕掛けるが……
「ギロチンの刃と電気椅子が邪魔っ!」
アイアンメイデンが攻撃に使われているなら、さっきみたいに【身代わり】を使われることはないが、他の武器がメイデンを守っていた。
身代わりに出来るのはアイアンメイデンだけだが、アイアンメイデンが攻撃に移っている時はギロチンの刃と電気椅子が防御に回り、ギロチンの刃と電気椅子が攻勢に動く時は常にアイアンメイデンがメイデンの後ろに待機しているのだ。
『やはり、武器が邪魔になりますね』
「なら、先に武器を破壊する?」
武器破壊が出来れば、攻撃の数が減ってこっちが攻めやすいが、アイアンメイデンに攻撃が当たった時は傷一つも出来なかったから、他の武器も……と可能性があるのだ。
「……よし、先に電気椅子をなんとかしたいし。やってみようか」
『了解しました』
ギロチンの刃も厄介だが、先に電流攻撃を仕掛けてくる電気椅子を潰しておきたい。
電気椅子は範囲魔法みたいに全位方向に電流を流せるし、電流の動きも予測出来ないからだ。
「よし、アイアンメイデンがあの子の後ろに行った。ドーラはギロチンの刃を任せる!」
『了解しました!』
ギロチンの刃はドーラに任せて、リリィは電気椅子に向かい合う。
「新しい魔法を試してみるか……」
純闇魔法のレベルも上がって【闇の槍】と【影の守り人】以外の魔法を覚えたのだ。
まず、動きを止めたいので…………
「【影拘束】!」
電気椅子に向けて魔法を唱えたら、名前の通りに影で電気椅子を拘束して動けなくなった。そこで終わらずに、続けて二つ目の新魔法を使った。
「【闇の血雨】!!」
今度は赤い雨のような魔法。この雨は、広域魔法であり、範囲魔法より攻撃範囲が広い魔法なのだ。
広域に降る血のように赤い雨が電気椅子だけではなく、メイデンを巻き込む広さに降り注いだ。
この魔法は、広域に攻撃出来るが、威力は低い。しかし、広域に攻撃されては、発動された後に回避なんて無理だ。回避より防御する盾やスキルなどがあれば防げるが…………、拘束された電気椅子には防ぐ術や回避も出来ず、受けるしか出来ない。
バザァァァァァァァァァァン!!
まさに豪雨のような音が響く中、電気椅子は少しずつ削られていた。メイデンの方は、とっさにアイアンメイデンを前に出し、防御していた。盾にされたアイアンメイデンにはやはり、傷一つも着かなかった。
「ふむ、アイアンメイデンは壊せないか……、でも、電気椅子は別だったわねっ!!」
ギロチンの刃の方は、ドーラが近くにいるから、巻き込まないようにギロチンの刃には攻撃をしなかった。
「……【解除】」
バチッ!
メイデンが手を挙げて【解除】と言うと、拘束していた魔法が解除されて電気椅子が動けるようになった。
「チッ、【解除】を持っているとはね……」
リリィの【影拘束】は、20秒間動きを止める魔法なのだが、それが5秒で解かれてしまった。
「はぁー、この魔法はMPを沢山喰うからそうそう使いたくないよねぇ……」
【影拘束】はMP80消費し、【闇の血雨】はMP150も掛かってしまうのだ。
壊せるのはわかったんだけど、壊すには時間がかかりそうだな……
【闇の血雨】は威力が低いからボロボロになった程度しかダメージを与えられていない。もし、【闇の槍】なら、何発かで壊せるけど、電気椅子は動きはギロチンの刃と変わらないぐらいに俊敏さがある。それを何発か当てることになると、難しい。
なら、魔法は止めにして、【黒太刀】を主体に攻撃するか……?直に触ったら痺れそうだし……
少し考えて、リリィには俊敏さがあるので、それを生かして電気椅子との距離を考えて【黒太刀】で攻撃することに決めた。
と、そこでまた電気椅子が全位方向に電流攻撃をしてきた。
「くっ、相殺出来ればいいんだけどぉ!!」
迫ってくる電流攻撃に向けて【黒太刀】を放つが…………通り抜けて向こうの壁に当たった。
ダメか!相殺出来ないなら、避けるしかない!!
横に素早く動き、電流攻撃を上手く避けたが、下に影が出来ていることに気付いた。
「影……、ま、まさか!?」
影の正体が何かであるかわかり、すぐに【ステップ】で避ける。
ドガァァァン!!
予想通りにアイアンメイデンが落ちてきた。すぐに気付いたから直撃は避けられたが、落ちた衝撃で、アイアンメイデンの回りに石つぶてが散らばれた。
こんなのもあるのかよ!?
リリィは舌打ちをしたい気持ちだったが、石つぶては避けられなくて、右足、左腕に当たってしまった。
「ぐぅっ!?」
痛みを我慢するリリィには休む暇を与えずに電気椅子からリリィに向けて電流攻撃が放たれた。
リリィは危険察知で攻撃されているのはわかっていたので、【空中ステップ】で上に逃げて避けることが出来た。
い、痛いな!?こっちに二つの武器が来るとはな……
ドーラに一つの武器しか向かわないのは、リリィを倒せばドーラも消えることを敵は知っているからなのだ。
減った体力を回復薬で回復し…………
「くっ、【ベルゼブブ】!」
【空中ステップ】で上に上がったまま、【ベルゼブブ】を使った。リリィはここまで追い詰められるとは思ってなかったので、本気でやることに決めた。
はぁ、新しい魔法を試すとか考えていた私が馬鹿だったな。だが、ここからは簡単にやられない!!
リリィは〈聖母殺しの剣〉を握り、【飛行】でメイデンと電気椅子が重なる場所まで移動して【黒太刀】を放った。
「………!?」
メイデンは電気椅子を避けさせると、こっちに当たると気付き、電気椅子を動かさなかった。電気椅子に当たり、電気椅子の足を一つ壊せた。
「やはり、武器を操っている時は【身代わり】を使えないわね!」
そう、【身代わり】を使うには、ギロチンの刃と電気椅子を数秒は止めていないと使えないのだ。始めに使っていた時もギロチンの刃と電気椅子の動きを止めていた。
だが、今は電気椅子を避けさせないで盾にしていた。
もし、【身代わり】を使っていたら、ギロチンの刃を相手しているドーラは止まっている隙を見逃ず、ギロチンの刃に大ダメージを与えていたはずだから、最小限に抑えるために電気椅子を盾にしたのだ。
なら、このまま本体に攻撃して【身代わり】を使わせ続ければ、ドーラがギロチンの刃を破壊してくれるだろうな……
すぐさまにリリィは攻撃目標を変えた。電気椅子を無視して、本体に【黒太刀】を放った。
「……【アイアンスタンプ】!」
メイデンはアイアンメイデンを盾にするだけでなく、斜め気味に【黒太刀】ごとリリィに反撃してきた。
「甘い!」
リリィのAGIは【ベルゼブブ】によって20%はアップしているので、先程みたいに余波も受けず、避けて本体に刃を届かせることが出来た。
「……イッ!?」
メイデンにダメージを与えられて、体力バーを見たら……
「えっ、体力バーが一本だけ!?」
今回の稀少イベントの敵は体力バーは一本だけのようだ。ドーラの時は三本もあったのに、メイデンは一本だけだった。
ん?五分の一しか減ってない?
体力バーを見たら五分の一しか減ってなかった。攻撃力が高いリリィが攻撃して、あれしか減ってないということは、防御に優れているか、単に攻撃を五回当てるだけで倒せるのかのどちらかになる。
「試さなくても、あと四回当てれば倒せるんだ」
リリィは今の状況なら、こっちが押しているが、余裕はないのだ。現に、続けて攻撃しようと思ったら危険を察知して、追撃を諦めて上に飛んだ。
やはり、危険を察知したのは間違いではなかった。電流攻撃が来ていたのだから。
「……【電磁砲】!」
近くに電気椅子を寄せたメイデンは、さらなる攻撃をしてきた。だが、狙いはリリィではなく…………
「っ、ドーラ!」
そう、ギロチンの刃と戦っていたドーラに向けて【電磁砲】を撃っていた。
『こっちに撃ってきますか!』
【電磁砲】のスピードはそれ程に速くはなかったので、不意を付かれたが、ギリギリ避けて、ドーラの足元に着弾した。だが、そこで終わらなかった。
着弾した丸い形をした【電磁砲】が膨らんでドーラを飲み込んだ。
『な!?』
「ドーラ!?」
膨らんだ【電磁砲】は縦、横、高さ三メートルほどの大きさで動きが止まり、ドームの形になり、中にいるドーラを閉じ込めた。
「まさか、ドーラを閉じ込めた……?」
『くっ、固い!』
ドーラはドームを壊そうと剣、小斧をたたき付けるが、ヒビも入らない。このドームは敵を封じる技で、効果は3分になっている。
メイデンは、リリィを相手に電気椅子とアイアンメイデンだけではキツイと考え、ドーラを先に無効化することにしたのだ。
これで、リリィは3分間は全ての武器を相手しなければならなくなったのだ…………