59.ジャンボスイーツケーキ
ドーラと狩りの帰り道。一人で歩いていると、声を掛けられた。
「お、リリィじゃねぇか」
声の正体は、ロードだった。
「ん、ロードさんじゃないですか。ロードさんのPTもクリアしたんですね?」
「ああ、ギリギリだったが、一人も欠けずに倒せたよ」
PT全員でクリア出来たようだ。体力が少なくなると砂の津波のような技が出るが、ロード達はβテスタだから攻略方法を知っていたかもしれない。
「これから【リーベリアの海域】に向かうんですか?」
ここは門を少し過ぎたところ。今はロードだけで行動しているようだが、あとで合流するかもしれない。
「まさか、リリィは一人で【リーベリアの海域】で狩りをしていたのか?いつもの面子はどうしたんだい?」
ロードは周りを見るが、いつもの面子であるクナイ、ギロスの姿が見えなかった。だから一人で【リーベリアの海域】に行っていたのかと思っているのだ。
「ん、ああ。二人は今日、会ってないから何処かにいるんじゃないのかな?狩りはドーラと一緒だったから一人じゃないよ」
「ああ……、リリィには召喚モンスターがいたな」
ロードは納得し、さっきの質問に答えた。
「これからあいつらと合流して、【リーベリアの海域】へ狩りに行く予定だ」
「そう、【リーベリアの海域】は素早い敵が多かったわ。ロードさんも気をつけてね」
「サンキュー。β時代と変わってないみたいだな。あ、リリィはギルドをもう作ったんだったな!少数でよく作れたな?」
「……え、その情報は何処から……?」
話を聞いてみると、ギルドを作ったらwiwnで発表されるようだ。今のギルドはリリィが作った『魔妖伝記』だけのようだ。
「少数で作ったということは、少数精鋭で行くつもりだろ?」
「うん、その予定だよ。入る条件は、私に任されているわ」
「募集はしないでスカウト方針で行くと?」
「ええ、その方がやりやすいし、数だけ沢山いてもうっとうしいしね」
「ははっ、厳しいな!こっちもいつか作ったらギルド関連の運営イベントでは負けないからな!」
「それは楽しみだね」
少し情報を交換してロードと別れた。
リリィはロードからの情報について考えていた。
やはり、あの城に何かありそうわね……
ロードからの情報は、【ウィータの街】にあるあの城のことだ。
β時代の時は何も起こらなかったようだが、まだ試してないことがあるじゃないのかと話していた。まだ何かのキーがあるかわかってないが、目立つ建造物があって、何も起こらないなんて、おかしい。
リリィは今まで調べておいたあの城についての情報を思い出して、何らかの関連があるか考えてみた。
「……駄目だ、情報が足りないか」
やはり、情報が足りないのがネックのようだ。
今はまだ急がずに情報を集めるのが吉だと決め、思考から帰ってきた。
「うーん、今は現実世界では……16時近くか……」
時間を調べたらまだ16時近くで晩御飯には早い時間だった。それまで、残った時間をどうするか、ブラブラしながら考えたら…………
「あ、リリィ!いたいた〜」
「あれ、クナイ?」
声が聞こえたと思ったら、クナイが前から走って来ていた。
「捜していたよ〜。今から時間は大丈夫ですかぁ?」
「へ、私を捜していたって……?」
「そうだよ。一緒に喫茶店に行きませんか〜?」
こ、これって、デート!?……………………なわけないか。何せ、あのクナイだしな……
と、失礼なことを考えていたリリィだったが……
「イベントで手に入れたケーキを食べたいので、一緒に行きませんか!!」
やはり、間違っていなかった。クナイはケーキを食べに行きたいからついでに私を誘ったということだった。
「ねぇ、まさかアレを二人だけで食べると言うの?」
リリィの言うアレとは、ジャンボスイーツケーキなんだが、量が桁外れに多い。目視で五人分はあると断言できるほどに多いのだ。それを二人だけで食べると言うならお断りしたいリリィだった……
「二人で?ううん、アレは私だけで食べるつもりだったけど……、リリィも食べたいの?」
「うえっ!?アレをクナイだけでって……、食べ切れるの……?」
「大丈夫だよ〜、デザートは別腹だからアレぐらい余裕だよ♪」
「ああ、そう……。なら、何故私を?」
アレを一人で食べれるなら何故、私を呼んだのかわからない。
「あー、知らないの?あの喫茶店はカップルがよく来るんだよ……わかるよね?」
「ああ…、なるほど。一人だけで入るの恥ずかしいんだね」
「そうよ、さらに人も沢山いるし、せめて知り合いがいたらいいな……と思って誘ったけど、迷惑だった?」
クナイはすまないような顔をして聞いてきた。
「いや、迷惑じゃないから大丈夫だよ。私はケーキは食べないで飲み物を頼むだけなら構わないよ」
「本当に!?良かった〜」
「えっと、それ程に安心することなの?」
大袈裟に喜んでいたので、疑問が出たのだ。
「……と」
「と?」
「友達が少ないの……」
「あー」
そう、クナイは友達が少ないのだ。ゲーム内で友達と言える人はリリィ、ギロス、カリンだけらしい。他にロードさんのPTとフレンド登録しているが、会ったり話したりしてないから、登録しているだけで友達とは思えてないようだ。
「聞いて、すまん」
「ううん、今回はリリィと一緒に来てくれるんでしょ。だったら大丈夫だよ〜」
「そうか、時間も勿体ないし、そろそろ行こうか?」
「うん!」
話は纏まったようで、リリィとクナイはカップルが多いと聞く喫茶店に向かった…………
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
喫茶店に着いた二人だったが……
「うげっ……」
「甘酸っぱい……」
二人は喫茶店の前に止まっていた。喫茶店の中と周りはカップルだらけだったからだ。
カップルが多く使う喫茶店だと前から知っていたが……、これほどだと思ってなかったのだ。
「……なぁ、帰っていい?」
「だ、駄目ですよ!?」
喫茶店を見た瞬間に行く気が完全に失せたリリィだったが……、クナイが帰らせてくれないようだ。
「他の喫茶店にはジャンボスイーツケーキは無かったのか?」
「そうなんです……、他の喫茶店も調べたけど、ここしかないんです……」
「そうなのか……」
次の街ならあるかもしれないが、クナイは早くジャンボスイーツケーキが食べたいようで、ここの喫茶店に行くことに決めたらしい。
「だから、帰らないで一緒に入ってくださいよー!!」
「こ、こら!服を引っ張るな!わかったから、離れろ!」
「むー、本当に?」
「はいはい、わかったよ」
リリィはそう言って、喫茶店に向かう。クナイも慌てて一緒に入った。
店内はカップルが多いが、席は空いていたのですぐに座ることが出来た。
「なんか、場違いみたいだね……」
「ううっ、見られてる……」
二人は目立っていた。それは、当然だと思う。リリィは元から有名人だし、クナイも昨日の運営イベントで生き残ったプレイヤーなのだ。
さらに、店内では周りを見るとカップルしかいなかったのに、カップルでもない有名人が二人が来たからのもある。
「目線は気にしなくてもいいからさっさと注文しなよ。私はカフェラテね」
「ううっ、そうするです……て、店員さん!!」
クナイは店員を呼び、運営イベントで手に入れたチケットを渡し、リリィのカフェラテを注文した。
「はい、注文を受けました。しばらくお待ち下さい」
店員は一礼をして戻った。クナイはふぅっと吐いて、話をしてきた。
「やっぱり、注文する時も緊張しますぅ……」
「まぁ、前よりはマシになったじゃない?」
前のクナイはリリィの後ろに隠れてしまって、リリィが言わないと何も話さなかったのに、今はマシになったように見える。
……あ、前から喫茶店に行ってなかったっけ?
「そういえば、前から喫茶店に行ってケーキを食べてなかった?」
「は、はい。そうですが?」
「なら、前はどうやって注文していたの?」
注文しないとケーキが食べられなかったはずだ。なら、どうやって注文していた?
「え、ええと、前もって紙に書いて渡していたんです……」
「マジかよ…、重度の人見知りでも注文ぐらいは話せるかと思っていたわよ……」
それを考えると、今の人見知りは、前より凄く進歩しているのでは?と思わせたのであった。
「……まぁ、いいか。あ、来たぞ」
店員が来たので話を打ち切って、注文した品を受けとった…………
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
喫茶店を出て歩いた後…………
「うぇっぷ、見ただけなのに、胸やけしそう……」
「えー、凄く美味しいのにー。見ただけで胸やけするなんて、【ケーキマスター】までは、まだまだだねっ!」
「安心しろ……、そんな称号はいらん!!」
そう、クナイが言う【ケーキマスター】は、クナイがジャンボスイーツケーキを全て食べ切ったら、【ケーキマスター】と言う称号を手に入れていたのだ。称号の効果は……
【ケーキマスター】
ジャンボスイーツケーキを一人で食べ切った強者である称号。
効果……ケーキの味がさらに甘く感じるようになる。
と言う効果だった……。全く役に立たない称号だと思った。さらに甘く感じるだけなんて、何の意味があるんだ?と運営に聞きたい気分のリリィだった。
「また行きましょうね〜」
「…………断る」
「そ、そんな!?」
クナイは泣き面になるが、リリィはあんな喫茶店にまた行きたいとは思わなかったのだ。
うぇっ、しばらくケーキは見たくないな……
リリィは自分のギルドに帰ってログアウトしようと帰る。クナイも早歩きをするリリィに慌てて着いていく…………
リリィにとっては使えない称号ですが、クナイには嬉しい称号でした。