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57.『逃走者』本選編その6



 リリィは広場から少し離れた場所で他のプレイヤーを捜している。


「見つからないな……、まさか、まだアイスステージにいるのか?」


 リリィが〈氷結のティアラ〉を持っていることはプレイヤー達には伝わってないから、他のプレイヤーはアイスステージに向かっている可能性があるのだ。他のプレイヤーが祠にないと気付くまでここで待つしかない。


「……いや、クナイがいたじゃないか!」


 思い出したのが、クナイのことだ。こっちを見付けたかはわからないが、クナイが逃げ切っているなら、また祠のとこに戻っているはず。

 クナイがダメージを受けたと言う報告はなかった。なら鬼から逃げ切って、祠に近付いて、〈氷結のティアラ〉がないとわかったら広場に向かう可能性が高い。




 まずクナイを捜すか?あの子は隠れるのが上手いから見付けられるか……?




 クナイの隠密能力、スキルは【全位歩行】しかないが、今までにダメージを受けてないプレイヤーはクナイだけだ。なら、隠れたり逃げ回るのが上手いのだ。

 そんなクナイをリリィがすぐに見付けられるのかは、ノーなのだ。




 なら、向こうから見付けてもらうしかないか……




 リリィはやることを決め、すぐ行動を移した。


「【ベルゼブブ】!」


 もう7分しか時間制限が少ないが、クナイから見付けてもらうには、上空が一番なのだ。だが、敵にも見付かるリスクも伴うが、他の方法は思い付かないし、無駄にする時間もないのだからだ。




「………む、見付からないな………」




 1分、上空に浮いていたが、クナイは見付からなかった。




 どうすれば……、【ベルゼブブ】はあと6分か。ならあと1分飛んで見付からなかったら、クナイに頼るのは諦めるか。




 あと5分の時間制限は、残りの時間で上手く使いたいから、あと1分だけと決めたのだった。




……………

…………

………




「あ、カリンさん?」

「リリィちゃん?」


 見付かったのは、クナイではなく、カリンだった。




 カリンはリリィが手に持っている物に気付いたのか、納得したような顔になっていった。


「やっぱり、誰かが〈氷結のティアラ〉を持っていると思っていたけど、リリィちゃんだったのね」

「うん、アナウンスもないんじゃ、他の参加者には誰が〈氷結のティアラ〉を持っているかわからないからね」


 おそらく、一回目の指令の鍵と同じように、わざと誰が持っているかは伝えてないようだ。

 協力すれば、簡単にクリア出来てしまう指令だからだと思う。


「リリィちゃんが、すぐに広場に行かないのは、やはり三体の鬼?」

「ええ、さすがに私でも、ダメージを受けずに渡せないわ」

「そうわよね。飛べる赤い鬼もいるから上空からは駄目だし、やっぱり数には数で行くしかないみたいね」

「私もそう思うけど、カリンさん以外の参加者に会わなかったから、まだアイスステージにいる可能性が高いわ」

「マジで……?」

「時間もそんなにないし、この指令は二人だけでやるしかないわ」


 他の参加者は見付からないし、時間もないから二人だけで決行することに決めた。








「うっ、三体はウサギから離れないわね……、というか、こんなのは『逃走者』じゃねぇよ」

「まぁまぁ、カリンさん、落ち着いて下さい。私が三体をなんとか引き付けてみます。その隙にウサギにこれを渡して、逃げちゃって下さい」

「リリィちゃん、三体もなんて、大丈夫なの……?」

「わかりません。元々、絶対にクリアしたい!というわけでもないので、もし私が退場しても気にしないで下さいね。もし、鬼がカリンさんに気付かれても見捨てるつもりですしね」




「リリィちゃんは案外と、外道だね!?」




「しー!静かにしてよ……。それに助けに行こうと思っても道連れになるオチが見えそうですし」

「……まぁ、そうね」


 カリンが少し叫んでしまったが、離れていたから鬼達には気付かれてなかったようだ。作戦も決まって、まず、リリィはカリンがいる所から離れた場所に向かった。

 もちろん、〈氷結のティアラ〉はカリンに渡し済み。






「オラッ!こっちだぁぁぁぁぁ!!クソ鬼野郎が、ウサギを囲んでいんじゃねぇよ!!!」






 リリィはこのゲームでは言わないような汚い言葉で挑発していた。そんなリリィを初めて見たウサギ……もといミサとカリンは目を丸くしていた。

 鬼達は挑発に乗る様子もなく、無表情でたんたんと魔法を唱えていた。


「くっ、やっぱりAIは入ってないか」


 挑発しても鬼達は怒りせずに、魔法を唱えてきたからリリィはAIは入ってない、プログラムだけで動いているものだと推測した。




 もしAIが入っていたなら、表情ぐらいは動くはずだ。なら、プログラムで動いているで間違いないな!しかし、あの着ぐるみは表情を変えられるんだ…………




 現に着ぐるみだが、ミサは驚いているような顔をしていた。AIだったら表情ぐらいは変えているが、鬼達は無表情だった。

 リリィと鬼達との距離は離れているから魔法の攻撃は余裕で避けていた。


「こっちに来ないな……。まさか、この場に留まるように設定しているのか?」


 もしそうなら、作戦は失敗ということになる。こっちに来ないなら、カリンはウサギに近付けない。


「おい!ウサギ、無理ゲーだろ!?」

『え、ええと、設定したのは私じゃないので、言われても困ります……』


 ミサもこの設定は知らなかったようだ。


「まさか、ウサギもこの場から動けないとか言わないよな……?」

『あ、いえ。動けますが、動いては駄目と言われているんです』


 ウサギはそう説明してくれた。もし、ウサギも動けないように設定されたなら、無理ゲーだったが……


「そうか……、ウサギ……」

『な、なんですか……?』


 ウサギは背に寒気を感じたが、それは何に対しての寒気なのかはわからなかった。

 リリィは謝るような仕草でウサギに向けて言った。




「恨まないでね?」

『えっ?』




 リリィは【ベルゼブブ】を唱えて、さらにそれぞれの三体の鬼から火、水、雷系の魔法を【暴食】で吸収した。


「よし、まず【ウォーターストーム】、【ファイアーストーム】!」


 リリィは右手で先に【ウォーターストーム】で水を撒き散らし、少し遅れて左手で【ファイアーストーム】を放った。

 鬼達は魔法無効なので、魔法を放っても無駄だが、リリィの狙いは違った。

 リリィは水を火で蒸発させて、鬼達とウサギの周りに水蒸気を作った。




『ま、まさか!?』




 ウサギはリリィの狙いに気付いて、慌てていた。




「だから恨まないでねと言ったわよ。最後に……」

『あわわわ!!やめ…………』

「【サンダーストーム】ぅぅぅぅっ!!」




 最後の魔法が水蒸気に向かって放たれた。






 ドバァァァァァァァァァァン!!!






 爆発した。みんなも知っている通りの水蒸気爆発が起こったのだ。




「よし、成功だ!カリンさん、早くウサギのとこへ!!」




 爆発に巻き込まれたウサギは立っていた場所にはいなくて、鬼達から離れた場所に黒焦げとなって倒れていた。ピクピクとまだ生きているようだが、動けそうはなかった。


 ウサギは動けないではなく、動いては駄目と言っていた。なら、無理矢理動かすことは可能なのだ。だが、ウサギも魔法無効できる可能性があるから、単に魔法をぶつけるより、水蒸気爆発を起こして爆発の衝撃で三体の鬼から無理矢理、離したのだ。




「……はぇ、あ!わ、わかったわ!」




 カリンは爆発に驚いていたが、すぐに気付いてウサギの所に向かって〈氷結のティアラ〉を黒焦げになって倒れているウサギの頭に乗せた…………






『カリン選手が〈氷結のティアラ〉をウサギに渡すことに成功致しました。よって、賞品ランクが上がり、『幽鬼』の解放を阻止致しました……』






 アナウンスはミサの声ではなく、機械のような声だった。だが、そんなことは気にせず、クリア出来たことは好ましいことだった。



「よし、ここから離れ……………」



 リリィはすぐにこの場から逃げようと思ったら、胸から剣が生えていた。


「なぁ!?」

「リリィちゃん!?」


 リリィはすぐに後ろを見たら、ここにいた三体の鬼とは別の鬼が立っていた。色は剣と同じ銀色だった。




ピーピーピー!!




 リリィの身体はだんだん薄くなっていく。




『リリィ選手、二回目のダメージを受けたため、退場となります』




 そして……………、リリィは退場したのであった。









◇ ◆ ◇ ◆ ◇






「くそっ!納得いかない……」

「まぁまぁ……、仕方がないさ」


 リリィの隣には、ギロスがいた。ギロスもクリア出来ずにカリンの次に退場してしまったのだ。さらに知らない人もギリギリ逃げ切れるとこだと思ったら、リリィを退場させた銀色の鬼がダメージを与えて退場させていたのだ。

 あの銀色の鬼は、遠距離攻撃は出来ないが、透明になる魔法を使えるのだ。だからリリィもカリンも近付かれたことに気付かず、退場された。リリィは退場したことに怒ったわけでもなく、刺されるまで近付かれたことに気付かなかった自分に怒っているのだ。


「あ、あんな鬼、【危険察知】があれば敵じゃないのに……」

「いつまでも嘆いても仕方がないだろ?それより、祝ってやれよ?」




 そう、最後まで残ったのは、今までダメージを受けずに逃げ切ったクナイだけだったのだ。

 当のクナイは…………




「やりましたよぉぉぉぉぉ!!」




 クナイは表彰台で、賞品より、〈ジャンボスイーツケーキのチケット〉を貰えて、チケットを両手で持って上げて喜んでいた。




「まさか、賞品よりチケットで喜ぶとはな……」

「はぁ、クナイらしいわね……」




 第二回運営イベントが終わる中、リリィとギロスはチケットで喜ぶクナイを見て溜息を吐くのであった…………





これで第二回運営イベントは終わりです。

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