53.『逃走者』本選編その2
仲間と別れて、リリィはお化け屋敷の近くでゲームの始まりを待っていた。あと20秒で『幽鬼』が動き出す。近くで『幽鬼』の性能を確認しておきたいが、予選で出てきた手より察知範囲が広かったら危険なので、その案は諦めた。
ここは……、お化け屋敷かぁ、俺はある意味、お化けだから隠れることが出来たらいいんだけどな……
それは無理だろうな。とリリィは思っていた。おそらくは魔力察知も機能されてる可能性があると考えたからだ。
「もし建物の中に隠れたとしても、逃げ道が少ないと簡単にやられそうだな……」
まだ攻撃方法もわかってない内に、建物内に隠れると逃げ道が少なくて逃げ切れず、ダメージを受けてしまうのだ。今は、見つかりやすくなってしまうが、逃げ道が沢山ある場所で待機するのが吉だろう。
「道が沢山別れていそうな場所は…………」
方針を決め、道が沢山別れている場所を探すことに。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
リリィが沢山別れている道を探している時、クナイの方では…………
「う〜ん、ここは広いねぇ〜」
観覧車の一番上に立っていた。クナイには【全位歩行】があるので、壁だろうが、天井でも悠々と歩けるのだ。まず、遊園地の中で一番高いと思える観覧車に昇って遊園地の地形を上から調べていたのだ。
クナイにとっては建物や障害物が多い方が逃げやすいのだ。だから建物が多くて攻撃されても盾に出来るように障害物がある場所を探している。
「あそこが一番いいのかな……?」
クナイが目を付けたのはレンガで出来た建物が沢山建っているところだ。
レンガが建っている場所は【西部ステージ】と言われて西部時代に模写したような場所である。建物が沢山あるし、建物に吊り下がって付いている看板も攻撃の盾になってくれそうだ。
「他にいいとこもありそうだけど、まずあそこかな?」
そのまま観覧車の上に隠れつづけるのも考えたけどもし、『幽鬼』が空を飛べるとなると、観覧車の上だと逃げ道がないのだ。
ここから『幽鬼』の様子が見れたら良かったけど、高すぎて人がいても誰かはわかんないし……
遠くから見るためのスキル、【遠視】があれば、観覧車の上からでも見えるだろうが、今は【全位歩行】しかないのでクナイは観覧車の上から『幽鬼』を捜すのは諦めている。
「よぉし、行っちゃうか〜」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
クナイも逃げるステージを決めたとこで、ギロスの方では…………
「うむ、ここなら簡単に見つからないだろう……」
ギロスが逃げ隠れるとこに決めた場所は、ジャングルステージだ。
周りには攻撃しても簡単に折れそうには見えないような太い木が沢山生えている。遊園地全体は破壊不可のオブジェクトで出来ているので、必ず折れないんだが、ギロスはそれを知らない。
「よしよし、この木だったら簡単に折れないだろうな」
ギロスは軽く叩いて木の堅さに満足していた。攻撃されてもこの木なら防げるだろうと。
ギロスはリリィからのお仕置きを回避するために、必ず生き残らなければならないのだ。
もし、指令が出ても無視して逃げきってやる……
ギロスにとっては賞品より、自分の身が大切なのだからだ。だから危ない冒険はしない!!と心に決めていたのだった…………
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
1分経って、三体の『幽鬼』が動きはじめた。
「「「……………」」」
『幽鬼』は何も喋らずにそれぞれは別の道を走っていく。スピードはジョギングと変わらない。だが、その足音は無く、まさに幽霊のように音もなく襲ってくるだろう。
『さーて、始めの指令までに生き残れるかなー?』
この場に残っていたミサであるウサギは指令が出るまで生き残れるか楽しみにしつつ、姿を消していった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「始まったわね……」
リリィは上空にある制限時間が表示されているテレビを見上げて呟いでいた。02:00:00だった数字が減っていく。
いつ指令が出るかはわからないが、いつでも指令が見えるように周りを警戒していく。
大体10〜20分ぐらいで出るかな?
リリィの推測では2時間に4、5回は指令が発されると考えている。
そんなことを考えつつ、目的である道が別れている所を捜す。
「あー、広すぎでしょ……。敵はこんな広いフィールドで見付けられるの?」
リリィが思っていたよりフィールドは広かった。参加者に有利じゃないのか……?と思っていたら…………
ピーピーピー!!
「えっ?」
上空から音がしたと思ったらテレビに文字が書いてあった。
『カザミ選手、『幽鬼』からダメージを受けました。あと一回で退場になります』
…………はぁっ!?もうダメージを受けたプレイヤーが出ただと!?もしかして、『幽鬼』の能力を調べようとして近くに隠れていたが、見つかってダメージを受けてしまったとか……?
他に推測が浮かぶが、他人のことを気にしている場合ではない。予選の敵より察知範囲が広い可能性が高くなったと考えて行動するしかないとリリィは思った。なら、リリィが逃げ道を沢山準備するやり方は正解かもしれない。
察知範囲が広いなら、逃げ道が沢山あった方が敵を撒きやすいのだ。
もし、隠れる場所があっても察知方法が目視だけではなく、聴覚、熱、魔力察知などがあったら隠れても無駄だ。
「急いで見付けないと………あ?」
上空を注意していたら、ここから離れているが、赤い物体が飛んでいることに気付いた。
「赤……まさか、あの鬼か?」
そう、リリィの想像通りの肌が赤い幽鬼だ。陽炎のようにゆらゆらと熱を持った翼で飛んで上空から捜す赤い幽鬼がいた。
「やはり、飛べる鬼もいたのね……」
リリィは見付けたが、慌てずに向こうから目視出来ないように建物の影に隠れた。
幸運に、距離が離れていたからなのか、こっちに気付かず、別の方向に向かって飛んでいった。
ふぅっ、これくらいは離れていれば感知には引っ掛からないみたいね……。向こうは確か、森が沢山ある場所だったわよね……
赤い鬼と言う『幽鬼』は森となっているステージ、ジャングルステージに向かっていた。
リリィは少し考えて、目的を変えてあの赤い鬼の後を追うことにした。もしかしたら、あの『幽鬼』が、他のプレイヤーを見付けた時にどうふうに行動するのかが見れるかもしれないからだ。もちろん、察知されない距離を保って行くつもりだ。
よし、そう決めたなら早速、行動をするか……
リリィは赤い鬼を追ってジャングルステージに向かう…………
「ここは……、まさにアマゾンのようだわ……」
ジャングルステージの風景は、アマゾンのようなもので、森の中に入ると視界が利かなそうだ。だが、赤い鬼は今だにも上空を飛んでいたため、見失うことはなかった。
しかし、そのままプレイヤーが見付からなかったらこの行動は無駄になってしまうな……
リリィは追ったのはいいが、もし赤い鬼が他のプレイヤーを見つからないままだったら行動したのが無駄になることに気付いたのだ。
だが、リリィが不利になるということではないが、せめて追っている途中で前の目的であった逃げやすい場所だけは見付けたかったな、と思うリリィであった。
「指令が出るまでこのままでいいか…………っ!?」
急に赤い鬼がファイアーボールをいくつか作り出し、ジャングルに向けて打ち出していた。おそらく、他のプレイヤーを見付けて、攻撃しただろう。
リリィは誰なんだろうか?と敵との距離を考えつつ、高い木に登っていく。
そこで、見えたプレイヤーは…………
「ギロス!?」
そう、同じギルドの仲間であるギロスだったのだ。当のギロスは…………
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
叫び声を上げながら逃げ回っていた。これでは他の『幽鬼』がその声を聞き取り、ジ・エンドになってしまうんじゃ……?と思ったリリィだった。だが、助けることはせずに、自分で切り抜けて欲しいとも思っている。
ここで助けるのは君のためにならないと思うから頑張ってよね……
ギロスのことは心の中で応援するだけにして、赤い鬼の様子を見ることにしたのだ。赤い鬼はファイアーボールをずっと使い続けて、地上に降りることはなかった。
「ふむ?攻撃方法はファイアーボールだけ?」
他に攻撃方法もあるかと思ったが、見てもファイアーボールしか使っていなかった。もし範囲魔法を使っていたら、木の間をギザギザと逃げているギロスでは避けきれないだろう。
まさか、『幽鬼』ってこの程度なの……?
これだけなら簡単に逃げれるな……と考えていたら、ギロスがいた方向で爆発が起こった。
ドバァァァァァァァァン
と。リリィもその爆発に気づき、赤い鬼から目を外し、爆発した方を見ると…………
ピーピーピー!!
『ギロス選手、『幽鬼』からダメージを受けました。あと一回で退場になります』
上空のテレビにそう表示されたのであった…………
「は?」
さっき赤い鬼を見ていたが、そんな爆発の魔法を使ってなかったような……?まさか、始めから地雷のようなものを準備してそこに誘導したと言うことか?
それは推測でしかないが、リリィが考えていることは当たっていた。
まず、ギロスを見付けたらすぐに爆発する設置魔法を仕掛けておいてあったのだ。ファイアーボールを撃ちまくって設置した場所に誘導してギロスに罠をかけたのだった。
「まさに狩人のようだわ……」
赤い鬼の攻撃方法は、狩人のように罠をかけて誘導するやり方のようだ。他の方法で攻撃されることもあるかもしれないが、範囲魔法は多分だが、使って来ないと予測できる。
罠をかけてハメるより、直接に範囲魔法を使ってダメージを与えた方が楽だからだ。だが、使わなかったのは範囲魔法を使えない可能性が高いのだ。
「ん、赤い鬼が離れていく?」
赤い鬼はギロスから離れて別のステージに向かっていた。追撃をしないということは、一回ダメージを与えたらしばらくは近付かないかもしれない。
「ふむ、他の鬼はどうだろう?」
と考えていたら…………
『バァーンッ!!指令を出します!!』
と、音も付けて上空のテレビに書かれたのであった…………