40.それぞれの話
はい、どうぞ!
【泳ぎ】のスキルレベルが10に上がった所で、街に帰った。
「今日は世話になったわね。またいつか組みましょうね」
「いえ、やることがなければ、よろしくね」
「ま、また会いましょう……」
クナイも何とかあいさつをし、カリンと別れた。
「ふぅー、【泳ぎ】はようやく10になったか」
「そうですね。んー、そろそろログアウトでもしますかぁ?」
「今は……ありゃ、もう6時になっているんだ。夜ご飯も食べないとな」
「うん、これからの予定はどうするの?ボスはまだだよね?」
「あ、ああ。そのことだが、ボス戦の初戦は一人で挑んでみたいんだ。もし勝てたらソロでボスを倒した時のアイテムが貰えるしね」
「あ、そういえば、ありましたね。もし初戦で勝てそうはないとわかったら二人で挑むみたいな?」
「そういうことね。それまでは【岩盤の陸地】で中ボスを探して挑もうかなと……」
「そうですか。私も別の場所で中ボスを探してみようと思います!!」
クナイもリリィのように中ボスに挑んでみるようだ。リリィはそれを止めることはなく、二人はログアウトした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ふぅ……」
ヘッドギアを外す鷹野。これからは夜ご飯、お風呂の準備をしなければならない。鷹野は面倒だなーと思いつつ、寝ていたベッドから立ち上がる。
「今日は……外食でいいや」
いつも作るが、今日はなんか疲れているので、外食にすることにした。
鷹野が外食しようと外に出ている時、ゲームの中では…………
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ここはゲームの中で、カリンは居酒屋のような店に入っていた。
「ふぅ、今日は疲れたわ……」
久しぶりに狩りに出たので、疲れが出ていて、ビールを飲みたい気分だったのだ。
ちなみに、このゲームでの飲酒は15歳からとなっている。だから17歳であるカリンは飲めるのだ。
店主に注文をしようと思ったら、後ろから声をかけられた。
「おっ、カリンじゃないか」
「あら、βテスタ最強のロードではないですか」
「ははっ、その呼び方は止めてくれ。で、隣いいかい?」
「ん、いいよ。一人だけなの?」
「ああ、あいつらはもうログアウトして、俺だけ寂しく飲もうと思って来たら、カリンがいたから声をかけたわけさ」
そう言ってカリンの隣に座った。
「何を飲むんだ?」
「ビール」
「店主ー!ビールを二杯!!」
「はいよー!お待ちを!」
「で、今日もスキルレベル上げかい?」
「ああ、第3の街に早めに行けるようにしたいし、リリィのPTに負けたのが悔しかったのもあるな…………」
「そうか、いつまでも負けていては、プライドに関わる!!みたいな?」
「ははっ、なんだそりゃ?で、俺の話になってしまうが、聞いてくれるか……?」
「愚痴か?何でも聞くから遠慮なくぶちばらまけな」
カリンは店主からビールを受け取り、笑いながら言った。
「ありがとうな。実はな…………、βテスタの時は、周りにガッカリしていたのさ…………」
ロードはβテスタから始めたヒューマンの双剣使いである。プレイヤースキルが高く、攻略組として仲間達を引っ張ってきた。
だが、あのロードに悩みがあった。それは…………
『ライバル』の存在がいなかったことだ。
それで、ロードはβテスタ最強と呼ばれようが、嬉しくはなかったのだ。ライバルがいないゲーム、対等に戦い、楽しめる相手がいなかったことに、ガッカリしていたのだ。
βテスタは今の10分の1の千人しかいなかったのもあり、ロードのプレイヤースキルが飛び抜けていたため、中盤頃からもうβテスタ最強と言う名称を頂いたのだ。
それにゆえ、ロードは悟ってしまったのだ。
対等となる『ライバル』がいないことに。
だから、製品版が出てもやらないつもりだった。
だが、今の仲間はリアルの友達もいて、誘われたのを断りきれず、やっているのだ。
はぁっ、俺と対等になる相手なんていないんだ…………
と考えつつ、【初南の樹林】でいつもの仲間と狩りをしている時、予想外なことが起こってしまったのだ。
そう、後衛のミネアとケイのMPが切れ、HPが少なくなり、回復薬がないときた。
あの時はヤバかった。俺一人だったら問題はなかったが、敵はキラービルであり、HPが少ないプレイヤーから狙うたちの悪いモンスターだったのだ。だから仲間を見捨てることも出来ず、防衛に回ってしまったのだ。
ちっ、こっちにくればやりようはあるのに…………
舌打ちをしていると、一匹のキラービルが、後衛に向かって飛んでいることに気付き、向かおうと思ったが間に合わない。
もうダメか……………………と思ったら後衛に向かっていたモンスターが急に止まり、真っ二つになっていた。
はぁっ!?
ミネアやケイもその姿をみて驚いていた。
「ピンチでしょ?助けるね」
「あ、ああ!助かる!」
いや、驚いている暇はないんだ!しかし、あの少女は誰なんだ?
ロードは気を引きしめて、敵に向かおうとしたが、リリィに止められた。
「3人共も下がって」
「えっ?」
何を………はぁっ!?
言葉を発しようと思ったら、もうリリィは敵に向かっていて、ステップだけで他のスキルは使わずに一撃ずつで終わらせていたのだ。
つ、強い!!あいつは何者なんだ……?しかもステップを連続で使っていたのに、息切れもしてないだと?
他に、種族やその強さもわからないとこだらけだった。目の前の少女は金髪で菊の模様をした和服を着ており、武器はやや赤めに見える短剣。始めは身長が小さかったからドワーフかと思ったが、スタミナが高いのもあり、ドワーフではない。
ロードにはあんな少女が短剣でキラービル5匹を瞬殺出来るとは信じられなかったのだ。
だが、胸の奥に湧き出る炎が出てくるような感覚を感じた。
あの子なら、ライバルになりえる……!!
ロードはリリィに出会えたことにより、わくわくした。
キラービル5匹を瞬殺しただけでも凄いのに、【激昂のミノタウロス】をソロで倒した時も、広場で「はぁっ!?」と珍しく発してしまったのだ。
さらにイベントが始まるとお知らせのことを聞いた日。
リリィが出ると聞き、ロードは遠足を楽しみにする子供のようになっていた。
お、面白くなってきた!!リリィはどれだけの力を持っているんだ?
と、湧き出る感情を抑えつつ、スキルレベルを上げていく。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
決勝トーナメント、ドーラと対するロード。
リリィじゃなくて、ドーラが来たか……、いや、ドーラを倒せないならリリィも倒せないはずだ。なら、前座を片付け、リリィと戦ってやる!!
ロードは油断などはしなかった。全力でドーラを排除しにかかったが…………
な、なんだと……。これが召喚モンスターだと言うのか……、つ、強すぎる……
ロードはβテスタの時に召喚モンスターと何回か戦ったことがあるが、目の前の召喚モンスターであるドーラは桁外れだった。
これではリリィにとっては俺なんて眼中にはないとは等しいじゃないかよ…………
リリィもロードのように強き者を欲しているのは知っていた。だが、ロードの実力では、ドーラにさえも、勝てない。
ロードは井の中の蛙の気分を味わった瞬間だったのだ。
千人だけしかいないβテスタで一番強かっただけでライバルがいない、強き者がいないとかほざいた自分は井の中の蛙でしかなかったのだ。
だから、ロードはもっと鍛え直そうと思ったのだ。
リリィをライバルとしてではなく、自分が挑戦者として努力して挑むと決めたロードなのだ……………
「まぁ、長い話を聞いてくれてありがとうよ」
「確かに、リリィちゃんのライバルと言うには、貴方じゃ、もの足りないかもね」
「うっ、グサッとくるな……」
「まぁ、頑張れよ。リリィちゃんは待ってくれると思うからよ」
「そ、そうか……」
「まぁ、無理かもしれないけどね!!」
「上げて、落とすなよ!?」
「ははっ!!今日、リリィちゃんのPTと【岩盤の陸地】の水場に行ったんだ」
「ん、ああ……、次の街のためか……」
「魚みたいなモンスターと戦ったんだが……」
「魚?【水砲魚】のことか?」
「そうゆう名称だったかな?まぁ、いいや!!リリィちゃんとクナイは一人で切り裂いていたわよ?」
「はぁっ!?待て、【泳ぎ】のスキルレベルは?」
「今日、買ってすぐよ?」
「……………」
ロードはリリィに驚かせてばかりだった。切り裂いたということは剣で斬ったということだろう。しかも、【泳ぎ】を買って間もないなのにだ…………
「はっきり、言うけどリリィちゃんは化け物と言われても仕方がないと思うよ?あ、クナイもデタラメに近いわね」
「………俺はリリィに挑戦したいと思っている自分がいる。だからリリィが化け物だろうが、挑むだけだ」
「ふーん、まっ、頑張れ」
「ああ………」
カリンとロードはそのまま話もせずに飲みつづけた…………
思ったより、ロードの話が長くなりました。
次回はドーラの話になります。
感想と評価を待っています。