38.【泳ぎ】の練習?
はい、どうぞ。
運営イベントが終わり、翌日のこと。
リリィとクナイはスキル屋に向かっていた。
「むっ?【泳ぎ】が必要なの?」
「はい。掲示板で見たけど、次の街に行くと、周りのフィールドはほぼ水場らしいですよ」
「なるほど、それで【泳ぎ】が必要なのか。納得したところで………、離れてくれない?」
「む、無理です……。プレイヤーが多すぎるです……」
クナイはリリィにピッタリとくっついて、歩きにくい。だから離してもらいたいから言ってみたが、無駄だった。
昨日より、プレイヤーが増えていた。大ボスを倒してこっちの街に来たPTが増えたからだろう。
「まぁ、いい。だがスキル屋に入ったら離れろよ?」
「店の中なら少しはマシになるですよね……?」
そんな話をしつつ、スキル屋に入っていく。
「あら?MVPに選ばれたリリィちゃんじゃない!」
「あ、カリンさん。ここで会うのは珍しいですね?」
「そうね。後ろのクナイは相変わらずねぇ……」
「あぅあぅ……」
クナイはまた後ろに隠れていた。リリィは溜息をしつつ、クナイの首元を掴んで前に出す。
「クナイ、あいさつしなさい」
「あ、あぅ……こんにちはぁ……」
「ふふっ、クナイもこんにちは。それに、『百鬼夜行』の優勝、おめでとうね」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうです……」
クナイもなんとかお礼を言ったところで、本題に入った。
「ここのスキル屋に来たということは……」
「はい、【泳ぎ】を買いにきたのです」
「やっぱりね、掲示板でも見たの?」
「いえ、クナイから聞いたのです。次の街の周りはほぼ水場だと」
「うん、だから私も【泳ぎ】を買って【岩盤の陸地】にある水場に行こうと思ってね」
「え、一人だけでですか?」
「いやいや、あんなとこで一人じゃ、無理だよ。だから【岩盤の陸地】に行くPTを募集して行こうかと思ってね」
「なるほど。なら、私達と一緒に行きますか?私達も【泳ぎ】のレベルを上げておきたいので」
ちょうどいいと思ったので、誘ってみた。
「本当!?じゃ、お願いしたいけどいいかな?」
「うん、私は大丈夫だけど、クナイは……」
「は、はい。カリンさんなら何とか大丈夫だと、思いますので……」
珍しくクナイからOKを出してきた。少しは人見知りをしなくなってきたなら喜ばしいことだとリリィは思っていた。
「よし、早速買いますか。あ、クナイはお金あるの?」
「ええと、8400yenしかないけど【泳ぎ】は5000yenだから大丈夫です……」
「それじゃ、【隠密】が買えないわね。仕方がない、【隠密】のお金をあげるわ」
「えっ、いいですよ!?【隠密】は15000yenで高いですし……」
「うーん、スキルは譲渡出来ないからお金を渡すしかないの。それに、運営イベントで頑張ったんだから、そのお祝いをしてあげたいの」
「え、ええと……わかりました。ありがとうございます!!」
クナイは受け取るまで諦めないと感じたのか、ありがたくお祝いを請けることにした。
「へぇ、味方には優しいのは本当だったのね」
「失礼な。私はいつだって味方には優しいのよ?」
「ふふっ、そうですね」
カリンはニヤニヤとリリィをからかってくるが、リリィは動揺せずにクナイにお金を渡して、さっさとスキルを買った。
「で、いつから行きますか?」
「そうね、今は11時だから昼飯を摂ってから13時に広場でどう?」
「了解。私は大丈夫よ」
「わ、私もです」
そう決まり、カリンと別れた。
「スキルも買ったし、時間もあるから武器、防具チケットで新しいのを探す?」
「はい。防具も新調したいですし」
クナイの服装備は【始まりの街】で買った忍者の服だ。DEFが低いので、そろそろ変えるのもいいだろう。
リリィの【菊花の和服】は、効果がいいからしばらくはそのままにするつもりだ。
うーん、服装備はそのままでいいし、なら装備してない腕をなんとかするか?
「えっと……、腕装備は……むぅ、金属系って無理だよね……?」
今まで忘れていたかもしれないが、座敷童子の種族は、服装備しか出来ない。つまり、金属系の装備はアウトなのだ。(ただし、アクセサリーの装備は除く)
だから布系のを探さないと駄目と考え、探してみた。
「あ……、呪いの装備もあんのかよ?」
呪いの装備もズラッと名前が並んでいた。
〈魂喰いの剣〉、〈剛の杖〉、〈デスターの盾〉など……
「使えねぇ……」
始めにこの3つを見たが、効果やステータスダウンが酷くて使えそうはなかった。
〈魂喰いの剣〉は、STR+100と高いが、敵のHPを減らした分だけ、自分のMPが減るとふざけた効果だった。さらにMPがなくなったらSTRが半減するときた。
〈剛の杖〉は、魔法使いが使う杖なのに、STR+90もあり、INTが-50%になっていて魔法使いには嫌な杖だろう。
〈デスターの盾〉はDEFが120もあるが、効果が酷い。攻撃を受けると、20%の確率で即死を受ける。誰が使おうと思うのか、この盾は。
というような物ばかりだった。
「やっぱり、呪いの装備は難しいかな……?」
リリィは武器も防具もほぼ呪いの装備なので、腕装備もそうしようかなと考えていたが、なかなか良さそうのが見つからない。
「諦めて普通の装備にすべきか…………おっ」
適当にスクロールしていくと、布系で腕装備のを見つけた。その名称と効果は…………
化身のミサンガ DEF-20 MDF-20 LUK-50% (譲渡、売却不可能)
効果1……武器に〈封印〉を付加することができ、80%確率で〈封印〉を与える。
ほぉ、これはステータスが少し下がるが、〈封印〉を付加させることが出来るみたいだな。スキルを〈封印〉出来れば、戦うのも楽になるしな…………
「よし、これに決めた!」
「私も決めたです!!」
クナイの方も決めたようだ。前のと似ているが、効果は違っていて、DEFも高くなっている。
二人は防具を装備して昼ご飯を食べるためにログアウトした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
13時になり、三人は集まってすぐに【岩盤の陸地】に向かった。
「あら、他のPTがいるわね」
「むぅ、ここは簡単に進めるとは思えないが……?」
「あぅあぅ……」
【岩盤の陸地】の水場に着いたが、3PTほど集まっていた。
「もしかしたら、3PTが組んで来たかしら?」
「なるほど。それなら、進められたのもわかるわ」
カリンが言った通りに、3つのPTが協力しあえば、PTごとでのモンスターと戦う回数も減らすことも出来て、HP、MPの節約しやすい。
「あ、カリンさん!?」
「リリィちゃんとクナイもいるぞ!?」
「うわぁ、有名人が来ているなんて!?」
リリィ達が水場にいるPTに近付くと、騒がれた。やはり、有名になってきたからこういう反応が増えているのだ。
「ねぇ、水場に入りたいけど先に入っていい?」
リリィは相手のリーダーっぽい人に聞いてみる。
「あ、はい!私達は休憩をしているので、どうぞ」
「ありがとうね」
リリィはお礼を言って、水場に近付いた。前は入る所か、近付くことも出来なかったが、【泳ぎ】を持っている今は、簡単に水中に入れた。
「息は問題ないのね」
「あ、はい。掲示板では息は出来ると書いてありましたからね」
「でも、【泳ぎ】のレベルが低いと動きにくいわよ?」
「そうですね。水圧が邪魔をしている感じですね」
上手く動こうとしても、陸地のようには動けなかった。陸地にいる時の半分は動けてないようだった。
「さらに、火魔法の威力が半減してしまうわ。水魔法だったら1.5倍だけど、敵のほとんどが水耐性を持っているから意味はないけどね」
「特定の魔法までも制限がかかるんですか!?」
「でも、私達には関係ないから大丈夫でしょ」
リリィはそう言って〈聖母殺しの剣〉を振っていた。振ってわかったが、剣速も大分落ちていたから、【泳ぎ】のレベルが上がるまでキツイようだ。
「なんか、やりにくいね……」
「そうですね〜。敵はスイスイと動くのに、こっちはハンデありですもんね」
「リリィちゃんでも水場では上手く動けないみたいね」
と、話をしてくると、敵が出てきた。魚のようで、唇が尖っていた。名前は【水砲魚】と出ていた。
「いきなりあの魚か〜」
「カリンさん、あの魚は強いのですか?」
「いや、強いというか、戦いにくいタイプに近いわ。素早いし、水鉄砲のように遠距離から攻撃してくるの」
「確かに、近付いても離れてしまいそうですね……」
リリィちゃんとクナイは初めての水場での戦いになる。どうやって勝つのだろうか…………
次回に続きます。