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屋台、新たなる焼き鳥

「あー、それを気になさってたんですねぇ」


 老人は密かに胸をなで下ろしつつ、マリーを安心させる為、口元に明らかな笑みを浮かべた。


「いやぁ、すいやせん。こいつぁ、きちんと説明してなかったこちらの失敗でさぁ。申し訳ありやせん」

 老人は頭を下げながら、謝罪した。


 今日の飲み食いはお金をいただきやせん、と付け加えると、マリーは呆気にとられたのか、へっ!? とこぼすと、目を丸くして、動きを止めた。


「いやね、あっしはこの辺りで店を出すのは初めてなもんでして、今回はあんまり商売っ気をだすつもりはなかったんで」


 それにケンカぁ止めるのが、まず第一のつもりでしたしねぇ。と、老人は苦笑する。


「え!? と、ということは、今回はタダでいいと? あんなに食べまくってるのに!?」


 その言葉にマリーはようやく我に帰ったのか、たどたどしく老人に確認してきた。


「まあ、本当ならお一人様焼き鳥一本、てなぐらいで考えておりましたがねぇ。店の前でケンカぁされて面倒事になるのに比べたら、てぇした事じゃございやせん」


(って、私たちとパープル・E・ジャイアントの戦いはこの店主様からすれば、ケンカ程度ってこと ?)


 老人の言葉に、マリーは顔をひきつらせた。


 やっぱりすごく強い人なのかも。と、小さくこぼすと、マリーは出来る限り失礼の無いようにしようと心に決めた。


「お客さんはなにかか注文されやすか? 生憎モモ肉はきれそうなんなもんで、他の串になっちまいますが」


 妙に体を強ばらせるお客さんの緊張をほぐす為、老人はにこやかな笑みを浮かべ聞いてみた。


「え、私もよろしいんですか? やったー」


 マリーも焼き鳥に興味があったし、上の身分の方のお誘いを受けた方がいい。と、考え、少しわざとらしいながらもはしゃいで見せた。


「ええ、どうぞ。そうですねぇ。今回はモモ肉を主に用意してきてたんでが、ちと足りなくなりそうでして、よろしければ変わり種を幾つかご用意致しましょうか」


 それにマリーはおまかせします、と答えると、お気に召したもんが有りましたら、追加いたしやす。と、老人は手早く用意を始めた。


(そういえば、こうして料理してるのを間近で見るのはいつ以来だろ)


 マリーはそう思いながら、手際よく串打ちをする老人の手元を見ていた。


 マリー自身は料理といえば、幼いころにした母親の手伝いか、でなければ、依頼での野営くらいしか経験がなかったので、気がつけば夢中で 老人の手捌きを覗いていた。


 白っぽい細長い肉はその身の真ん中に縦に浅く包丁を入れ、開くと緑鮮やかな葉とピンク色のペーストを挟み、それがこぼれないよう、縫うように串に垂直に刺し、それより細く小さな肉はコの字型と逆コの字型に互い違いに串に刺していた。


 更にマリーの目を引いたのは、皮だけを幾重にも重ねた串と練り上げられた挽いた肉を器用に串にまとめた物だ。


皮は、マリー自身、皮だけを調理する、そういった料理は初めて見たので驚いて見ていた。


 マリーは皮を見て、串焼きに使われている肉が鶏肉だと気付いたが、彼女の知る鶏肉は卵を生まなくなった老鶏であり、身は堅く焼いて食べるにはあまり適していなかった。


 だから、マリーの家で調理するときは、大抵は固い肉を叩いて団子にして野菜と一緒に長時間煮るなどして食べるのが普通だったが、それも焼いたものに比べたら叩いてあるから軟らかいが、長時間煮なければならないため、旨みはスープに逃げ、肉自体はスカスカで食感もボソボソとして、今思えばあまり美味しいものではなかった。


(でも、昔はお肉が食べられるのは、鶏を潰した時か、年一回の豊穣祭くらいだったから、嬉しかったんだよね)


 そう懐かしく故郷の事を思い出していたが、その記憶にある鶏肉と、この老人が調理している鶏肉はあからさまにモノが違って見えた。


 マリーの記憶にある鶏肉は全体的に身が白っぽくゴツゴツした、目の前にある鶏肉はピンクがかって色艶もよい。


 或いは、特別な鳥の肉なのか、マリーがそう考えている内、老人は用意したそれらを焼き始めていた。


 待つことしばし、辺りに脂が焼ける甘い匂いが広がってきた。


 老人はその間も手を休ませることなく、串をひっくり返したり、ある串には何か透明な液体を塗ったりと、作業をしていた。


 そうしながら、老人の意識は異なる部位の焼き具合を見極める為に串に注がれていたが、他の二人のお客さんの様子も窺い、その注文にも応えて新たに串を用意していた。


 マリーは老人の仕事の様子に舌を巻いたが、それより否応なく自分の食欲中枢を刺激する匂いに生唾を飲んだ。


 そして…


「はい、おまちどうさまでした」


 老人はマリーの前に四本の串の乗った皿を差し出した。

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