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マリー・カルタスの場合

今回も一人称です。

(どうして、こうなった)


 露店には珍しい長椅子に腰掛けながら、私―マリー・カルタスは、心の中で呟いた。


(というか、どう考えたって怪しさ満点じゃない!!露店に長椅子がある以前に、こんな所に露店があるわけないでしょっ!!)


 そう私が今、日除けの布をくぐって座ったこの露店は、


………迷宮内にあるのだから。



 訳の分からない終わり方をしたパープル・E・ジャイアントとの戦いの後、頼りになるハーフ・エルフ・ヒューマンのレミアさんが空腹の限界だったことは、そこそこ長い付き合いの私にはすぐに理解出来た。


 少なくとも私には、運がささやかながら残っていたのだろう。


 本当なら日帰りの予定だった冒険なので、最低限の食糧しか持ち込んでいなかった、その私のローブのポケットに干したパヤの実が残っていたのだから。


(かなり前に依頼人のお婆さんにもらったけど、乾燥した果物が苦手だったので食べた振りをしてポケットにナイナイしたものだったんだけど)


 空腹状態のレミアさんには気付かれてないハズ。


 入れたの忘れてて、洗濯したりしたので味とか想像したくないけど。


 限界になったレミアさんは食欲を満たす事以外考えられなくなるから、味はあんまり関係ないしね。


 そう、そのはずなのに。


(どうなってるんだろう?)


 私の横で串焼きをほおばっているレミアさんは、もうかなり空腹状態から脱しているみたい。


 いつもならこんな短時間で回復するはずないんだけど。


 大抵、レミアさんが空腹状態になると、大切なのは質より量で、まるで底無し沼を埋めるように無遠慮に食べ物を口に放り込む。


 あれはあんまり気持ちのいいものじゃない。


 それに、今度はいつもと食べ方が全然違う。


 二口で一串、と普通の人からすれば、かなりのハイペースなのだけど、きちんと味わって食べてるのが分かる。



 同じ黒っぽいソースのかかった串焼きを食べ続けているのに、まるで一口毎に新しい発見があったみたいに、口元を綻ばせてる。


(訳が分からない)


 それに、更にその隣にはパープル・E・ジャイアントが腰掛けて、レミアさんに負けず劣らずのペースで串焼きを平らげている。


 なんでモンスターがごく普通に露店でヒューマンと一緒に串焼きを食べてるんだろう。


 なんか色々ツッコミたい所があるけど、そろそろ別の意味でお腹いっぱいです。


 いや、本当に。


 カタン


 溜息ついてたら、目の前にガラスのコップが置かれました。


 って、ガラス!?


 歪んでなくて、こんなキレイな形をしたガラスなんて初めて見た。しかも、すごく透き通ってる。


 中の水も、キレイ。何も混じってなくて、無色透明。こんなお水、依頼で森の源泉にいった時以来見たことない。


 「いらっしゃい。お客さん、ちょぃと、お疲れのご様子で。よかったら、水でも飲んで一息いれてくだせぇ」


 私がビックリしていると、店主さんがそう言ってくれた。


 初めて店主さんをまともに見たけど、初老のお爺さんだった。


 ここからだと上半身しか見えないけど、清潔そうな白い上着。短く切りそろえられた白髪と、白くて四角い上着と似た素材で作られた帽子。


 顔には深いシワが刻まれて、シワに紛れるようにして細い目が弓なりに歪んで笑っているように見えて、柔和な印象を受けた。


「は、はいっ。ありがとうございます」


 私は両手で覆うようにして、コップを持った。


(ちょっと待った。おかしいよ。なんで、顔や服が汚れてないの?)


 私たちが今いるのは迷宮の出口に近い低い階層だけど、それでも外に比べたら結構強いモンスターがいる。


 もしかしたら、店主さんは元冒険者だったりするのかもしれないけど、怪我をしてないのはいいとして、なんで汚れてないの? もしかしたら、この店主さんはモンスターかもしれない。


 低階層で餌を使い、新人冒険者を襲ったりしてたりとか。


(このコップに毒が仕込んであるのかも)

 そう考えたところで、横で勢いを衰えさせないままに串焼きを食べる仲間が目に入って、私一人ではどうにもならないことに気付いた。


 私は溜息をつきそうになっちゃった。


(も、いいや)


 隣の大食いエルフを抜きで、いくら低階層でも魔力が殆ど使い切った魔術師が帰還するのは無理だよね。


 「ありがとうございます。喉が渇いてたので、いただきますね」


 店主さんにお礼を言って、私は持ち上げたコップの中身に口をつけた。


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