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白い乾麺  作者: 長岡小豆
9/9

そして、春の僕と私

外に出ると、満開の桜が見えた。

腕の中の僕を抱え直して、家路を進む。


――界が安定した。本フェイズでセッションは完了となる。ついでにおめでとう。5ヶ月だ。気づくのが遅すぎる。


旦那と別れた後、意識を取り戻したとたん、職員には怒られた。

黒い作業着を着た職員は、小難しいことをいろいろ言っていたけれど、要点をまとめたら簡単な話だった。

私が助かったのは、僕がおなかにいたから。

あの人の意識があったのは、私と一緒に『輪』を超えたから。


――偶然ではなく必然。君の旦那さんの尽力により、この『戦争』は終結を向かえたといえる。


未だにあの戦争がなんだったのかはわからない。

もっと頭のいい人なら理解できるんだろうけど。


「・・・だぁ?」


僕に笑いかける。

過去だけ見ている暇はないだろう。


「これから、大変だぞ?」


財政的な心配はなくても、精神的な圧力の心配はある。

それが、英雄の妻と息子に課せられたものだ。

英雄でなくとも、旦那が・・・彼がいた方が良かったと今でも思っているけれど。


――本来なら配給に回すのだが、『英雄』たる彼の帰る先は君のところだろう。


職員から渡された、白い乾麺。

彼の、なれの果て。

他より少し丸いそれを手に、家の扉を開ける。

あれから、白い乾麺の配給は消えた。

だから、これが、最後のひとつ。


「ただいま」


いつか、僕に、この白い乾麺の話をする日がくるだろうか。

そのとき、私は、隣のおばさんのように、泣かずに話せるだろうか。

旦那と過ごしたこの家で、私と僕は新しい生活を始める。

まだ残る違和感を抱えて。

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