秋の私
最初の違和感は、挙動。
いつもオーバーリアクションな旦那が、休みの日に二人で出かけても、スキップもタックルもしなかったこと。
そのときの私は、やっと落ち着いたとしか思わなかったけれど。
二つ目の違和感は、言動。
旦那の売りは何を言い出すかわからないけど、何を考えているかはよくわかること。
なのに、最近変なことを言わないなと、感じたこと。
そのときの私は、今の職場はしつけにも厳しいのねとしか思わなかったけれど。
三つ目の違和感は、表情。
15分に1回は目が丸くなり、次にはにやりとほほえみ、口をとがらし、得意げにウインクをする。
そんな、くるくる変わる百面相が、消えたこと。
そのときの私は、少し疲れているのかなとしか思わなかったけれど。
最後の違和感は、行動。
やっと配給から抜け出せるはずの給料日に、よりにもよって旦那は、白い乾麺をかかえて帰ってきたこと。
「おかえりなさい・・・って、何よ、その段ボール!」
旦那は、ちらっとこちらを見ると、部屋の中に段ボールを置く。
そのまま、私を無視して、外に出る。
家の中には、私と配給車の中にあったのと同じ段ボールが四つ。
開けてみても、配給品と同じ白い乾麺が16個並んでいるだけ。
「四つで64個・・・1ヶ月分じゃないの」
段ボールが四つ増えた。一つは封が開いている。
覗き込んでも、白い乾麺。
全部同じ段ボール。全部白い乾麺。よりにもよって、あの白い乾麺!
「正確には、124個だ。二人分ある」
見上げると、表情の消えた旦那がいた。
仕事が決まれば、こんなものとはおさらばだと笑っていたはずの、旦那がいた。
「・・・給料は?」
ジャケットを脱いだ旦那の肩から、赤く染まった桜の葉が舞い落ちる。
答えは、聞くまでもなかった。
まさか、旦那の就職先は、あの工場とでも言うのだろうか。
それとも、私が思っていたより戦争はひどくなっていて、これしか買えなかったのだろうか。
記憶の中にある旦那なら、なくなったら大変だと思って! とか言いつつ、明後日の方を見ながら買ってきそうだ。
うん、それなら、いつもの旦那だ。
本当に、そうならば。
「ねぇ、あなた、大丈夫なの?」
返して欲しい言葉は、あの日から、一度も聞いていない。