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~3~

嬉しそうに父さんにメールを打ち始める。僕は最後のハムエッグを口にして、デザートのヨーグルトに手を伸ばした。

「愛美も食べよっと」

「こら、まだ全部食べ終えてないだろ。デザートは食後にしましょうね」

「はーい」

「愛美はなんでもお兄ちゃんのマネするわね」


そんな他愛もない会話。こんな日々がずっと続くと思っていた。今の今までは。

みんなが笑顔の食事中、突然愛美の背後に 穴 が出現した。時空の割れ目というのか、ブラックホールというのか、その黒色の塊の中に、愛美は気付かず笑顔のまま吸い込まれた。


「愛美!!」


僕がそう声が出したときには、愛美はこの世界から消えていた。収縮していく穴。パニックになり悲鳴をあげている母さん。気付いたときには、零はその穴にむかって身を投げていた。

永遠に続くんじゃないかと思える、上も下もわからない、暗闇の空間。どちらかというと落ちている、または吸い込まれているように移動しているという感覚のみわかる。わずかに光があったので、そちらをみるとをみると、母さんが手をのばしていたが、すぐに閉じてしまった。どんどん落ちていく。


「愛美ぃ、どこにいる?声をだしてくれ!」

「お兄ちゃんー!!」

恐怖に襲われている、涙声の愛美の声が聞こえた。声の先へと体を向ける。しかし、移動の手段が零にはない。

「かならず助けるから、絶対諦めちゃだめだよ!」

「助けておにい……」

愛美の声が突如途絶えた。どこだ、どこに消えた。五感を研ぎ澄ませるが、愛美の気配はどこにもなかった。

「愛美ぃぃぃぃぃいいいいい!!!」





視界が開けたかと思うと、零は森の中にいた。しかし、どこか様子がおかしい。みたことのない植物や、虫と思われる生き物がいた。木も独特な形をしている。

すぐに愛美を大声で呼んだ。しかし聞こえてくるのは遠ざかる自分のこだました声だけだった。

必死に走り回り、叫び続けた。しかし、聞こえてくるのは自分の声だけ。

足をとめ、息を整える。どこかにいるはずだ。こんなよくわからないところに愛美を一人にするわけにはいかない。

すると、零の背後からガサガサと、草を踏む音が聞こえた。

「愛美?」

期待と安堵にあふれながら振り向くと、そこには自分と同じか、それ以上の背丈があるであろう、みたこともない生物が立っていた。一瞬にして戦慄する表情。あふれかえった筋肉、腕は零の腰周りと等しい太さをもっていた。大きな手に握られた巨大な斧。いわゆるオーガというやつなのだろうか。しかし、そんなものが現実にいるはずがない。現実に……。


「おい、こいつ人間じゃないか?」

「そうみたいだな、食うのは初めてだ」

零はあわてて話しかけた。

「こ、言葉がわかるんですか?あの、ここはどこでしょうか?」

「ここはお前らからすると、所謂魔界ってとこだろうかな。まあそんなことは気にするな、今すぐお前は俺らに食われる」


全速力で走りだす。今殺されるわけにはいかない。なんとしても愛美と見つけ出さなければ。魔界ならなおさらだ。にわかには信じられないが、なによりオーガの存在がこの世界の証明。木々をすりぬけ、走り続ける。しかし、すぐに回り込まれてしまった。


「さあて、そろそろ遊びも終わりにして、いただくことにするか」

振りおろされる斧。間一髪のところでかわし、斧は木に突き刺さった。謎の液体が木から流れ、木が痛みの叫びをあげた。この世界はマズい。そう直感した。

「おっと、悪いな。へへへ。ちっこいからはずしちまった」

もう一体のオーガに首をつかまれた。殺される。そう思った。零の全細胞が死のイメージをもった。そして死を覚悟した。しかし、脳裏に浮かぶは妹の姿。この世界のどこかで愛美も同じめにあっているかもしれない。そのとききっと愛美は、僕が助けにくることを信じてやまないだろう。全力でオーガの指を蹴り上げた。血が沸き、心臓が高揚し、力がわいてくる。

すべての力を右の拳にやどし、オーガの顔面を殴り飛ばす。零の右手は淡く青色に発光し、その光はオーガに触れた箇所にも残り、オーガの頬を焼いた。

「ぐはっ、貴様、退魔師なのか!?」

「こいつを放っておくとやばい、今のうちに殺すぞ!」

同時に襲い掛かってくるオーガ。なんとかもう一度戦おうとするが、さっきの一撃で力を使い果たしたらしい。体が思うように動かなかった。斧を大きく振り上げる。

(愛美、ごめんな、お兄ちゃんもう動けそうにない……)

大粒の涙が頬を伝う。斧が零の首を捕らえようとしたとき、寸前で動きが止まり、かわりにオーガの叫び声が聞こえてきた。


巨大な狐がオーガの腕を噛み千切ったのである。長く美しい淡い黄色の毛並。6尾ある尻尾。2メートルはあるであろうその狐は、頭部を一度下げ、大きく振り上げた。直撃し、吹き飛ばされるオーガ。

零の目の前で止まっている斧は、青く強く発光していた。

燐音りんね、燃やせ」

一人の青年が青く発光する腕を零に向けられた斧に向けたまま、なにやら言葉を発した。

狐は、凛々しい紅色の瞳を大きく見開いた。その瞬間逃げようとしていたもう一体のオーガが炎に包まれ、焼失した。



「危ないところだったな、ガキ」

青年はそういって腕を下ろした。空中にとまっていた斧は発光をやめ、地面に落ちた。

巨大な狐は金色に輝きだし、収縮し、やがて人型にかわった。

そこには、長い黒髪をした、赤い瞳の18歳くらいの女の子がいた。黒色のミニスカートに赤色のリボンをしている。まるで制服のようないでたちだ。少女は青年に擦り寄った。

「あの、僕突然この世界に来てしまって……あ、7歳くらいの女の子をみませんでしたか?僕の妹なんです」

「いや、悪いがみてないな。燐音りんね、感じるか?」

「私もわからないわ。ごめんなさい」

「そうですか。助けてくれてありがとうございました」

「おい待てよ、一人で歩いてたらまた狙われるぞ。退魔師の素質があるお前ならなおさらだ」

「でも、一刻もはやく妹をみつけないと……こうしているうちにもどこかで殺されてしまうかもしれない」

涙を流しながら大声を上げた。取り乱している、そんなことはわかっている。

「まあまて、俺の仲間に連絡をいれてみる。お前のようにどこかで保護されてるかもしれんぞ」

青年の言葉に、あふれていた涙は勢いを弱めた。

「ほ、ほんとですか!ありがとうございます」

焦燥していた零は少し落ち着きを取り戻す。ヤレヤレといわんばかりに青年は念を送った。

「これで三日以内に連絡がくるはずだ。とりあえず、村まで降りよう」

「ありがとうございます、ありがとうございます!この恩どうやって返したらいいのか……」

「実際、人間で退魔師の素質をもってるやつは少なくてね。貴重なんだよ。どうせもとの世界への帰り方もわかんないだろ?」

「はい……。突然穴が現れて吸い込まれたんです」

「よし、決まりだ。俺は妹を探す手伝いをする。お前は俺に鍛えられながら俺の旅の援護をする。悪い条件じゃないだろ」

「はい、お願いします!」

「ねえねえ、私も話に混ぜてよ」

青年の腕にだきつきながら少女はいった。

「おっと、すまねえ。こいつは燐音りんね、俺と本契約している6尾狐の上級妖怪だ。俺の名はデイド。お前と同じ人間だ」

「僕は篠崎零しのざきれいといいます」

「よろしくね、零」

「よろしくな、零」

「宜しくお願いします、燐音さん、デイドさん」

三人は微笑みあった。絶望しかなかった零に、希望の光が見えた気がした。

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