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~1~

零たちは飛行船の中にいた。

「零様、見てください、雲の中に今はいってますよっ」

ルルは雲の上から見る世界に、しきりに感動しているようだ。

海で常に生活していたルルにとって、地上や山でさえ珍しいのに、空といったら、そりゃあもう大変珍しい光景。3時間ほど窓の外にかじりつき、いちいち感動しては、零に報告。今は疲れたのか、零の肩にもたれて眠っている。

「ルルちゃん、空にずいぶん感動してたわね」

「初めて見る光景だったようで。今は疲れて眠っちゃいました」

「零、眠ってるからって変なとこ触るんじゃないぞ」

「師匠じゃないんだから、そんなことしません」

「そうよ、零がそんなことするはずない――――って、私が寝てるとき触ってるってこと?!」

「燐音、大きい声だすとルルが起きるだろ」

「あ、ごめん。じゃなくて。おぼえといてよダイド」

「なんだよ、起きてるときはいいのに眠ってるときはダメだのか」

「零、ルルちゃんが起きたら教えてね、すぐダイドを殴るから」

「零、動くな、なるべくおこさないようにすべての神経を集中させるんだ」


それからまた1時間ほどたち、機内食が運ばれてきた。ルルが食べ物の匂いで起き上がる。燐音は怒っていたことはすでに忘れて、機内食に夢中になっていた。いや、もうどうでもよくなっただけかもしれない。

「おいしいですね、ここの料理」

「最近ギルドの仕事請けまくってるから金余ってんだよ。一番良い船の一番いい席にしてある」

「うわ、どうりで。一番良い席なんて一生で一度乗るか乗らないかなんで、かみ締めておきます」

「この世界にいれば零は立派な戦士だぞ?契約者だしな。もといた世界ではどういうやつだったんだ?」

「極々普通の男の子です」

「あはは、零みたいにすごいやつが普通の男の子ってことは、俺がそっちの世界にいったら普通すぎてつまらんだろうな」

「いえ、師匠は戦闘力抜きにしても普通じゃないんで、大丈夫です」

「あれ、今褒められたの?」

「もちろんです」

照れているいるダイドをみて燐音は苦笑いした。どうみてもバカにされてるのに、なぜ気付かないのかしら。

「ルルは零様とお別れしたくありませんー」

ルルが泣きながら抱きついてきた。

「僕もだよルル。帰るときについてくるかい?」

「いいんですか?私人魚ですよ?」

「ずっと人間の姿でいればいいじゃないか」

「ルル、感激でもうおかしくなりそうですっ」

「零、いまいちわかってないようだから一応いっておくけど、今のプロポーズと一緒だぞ」

「ええ! そうなんですか!?」

ダイドと燐音は、 やっぱり。 と肩を落とした。

「ルル、やっぱりもう少しかんがえさせてくれ、僕はまだ若くて色々自分だけで判断できないことも――」

零はそれ以上続けることができなかった。ルルの下唇を噛んで涙をこらえる表情を、それ以上直視することが耐えられなかったからだ。

「僕の負けだ、前向きに検討することを約束するよ」

「ルルは零様の気を少しでもひけるようにがんばります!」

「おお、健気なよい子じゃ……零にはもったいないのお」

「なんでいきなり年寄りみたいな喋り方になるんですか」

「がはは、そんな気分だったからだよ。ルル、いいかよく聞け。男を落とすためにはな、まず裸になり」

燐音の視線が痛かったので、それ以上喋ることは遠慮した。

「か、肩揉んだりうまい飯食わせたり、家庭的な面を出せばいいと思うよ」

「わかりましたダイドさん、ありがとうございます!」

「お、おう。いいってことよ」

しかし、燐音の視線が変わることはなかった。

「おい燐音、いくらなんでもいつまでも怒りすぎだろ」

「違う、わからないの?外に……何かいる」

「いや、俺にはわからないが。零、わかるか?」

「いえ、なにも」

「とてつもない霊力よ、まだ来てないけど、多分、転送魔法ワープで現れるとおもう」

「転送前に感じることができるのか、すごいな燐音」

「普通ならわからないわ、けど今回はでかすぎる……」

飛行船の上にのぼり、待機する。事情を話し、戦闘に参加できそうなものは、全員でてきてもらった。

「来るわよ!!」

魔方陣が出現する。そのときにはすでに零にも理解できるほどの、霊気を感じることができた。バチバチと音をたて、それは姿を現しはじめる。

「ペガ……サス」

「神聖獣がなぜ……そんなバカな」

戦闘に参加してくれるといった、自称腕利きの戦士たちが、ガクガクと足を震わせている。

「一斉攻撃しろ!」

ダイドの掛け声により、魔方陣に向かいそれぞれ遠距離攻撃を行う。しかし、すべての攻撃が、前方10Mほどで、かき消されてしまった。

「零、お前はここの連中と一緒に飛行船を守れ、わかったな!?」

「は、はい!」

ダイドが続いて、戦士たちに声をかける。

「お前ら、どうせあいつを倒せなきゃ俺らはここで、死ぬ! だったら死ぬ気で守って見せろ、わかったな! 指揮はこいつがとる、こう見えても契約者だ」

絶望に満ちた戦士たちが、輝きを取り戻す。契約者の存在はそれほど大きいものなのだろう。

「魔、妖、退魔、我が血を今捧げん。再びその力を具現せよ。 名は白面金毛六尾之狐ハクメンコンゴウムツビノギツネ、我が声に応えよ!!」

ダイドが今までに見たことのない程発光する。

擬態を解除した燐音の姿がみるみるうちに変化する。2Mほどだった体も猛々しく巨大化し、金毛もより長くきらびやかになった。全身に赤い紋章が浮かび上がり、より一層芸術的な姿に変化していく。

普段封印している燐音の力を、ダイドが限界値まで解放しているのだろう。いかに危険な相手なのか、すぐに零は理解した。魔方陣から完全に出現する前に、カタをつけるつもりだ。

「ルル、僕から離れないように。常に敵から目を離さないで」

「はい!」

ダイドが燐音に乗り、その背に両手を当てた。青白い光がみるみると燐音に吸収されている。

燐音の前方に禍々(まがまが)しいまでの妖狐の炎が出現し、膨れ上がっていく。紫色の濃い炎の塊は、遠く上空で作り上げられているのにかかわらず、飛行船の上にいる零たちのところまで熱気を送ってきた。

「燐音、はなてぇ!!!!」

ダイドの掛け声とともに、超高密度の熱の塊が魔方陣からすでに半身をだしているペガサスに直進する。何十にも重ねられた魔法の障壁のようなものが現れたが、それを破壊し、ペガサスの体に直撃した。

「やった…か?」

零の隣にいた戦士が呟いたが、もくもくとあがる爆粉の中から、かすり傷を負ったペガサスの姿が現れた。

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