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「おはよう、ルル、眠れたか?」
「はい! すっきり快眠ですっ」
「そいつぁよかった、零はどうだ?」
「ははは……」
零は緊張のあまり一睡も出来なかった。目の下に大きな隈をつくり、尚且つ、見事に理性を保ってみせたのである。男の中の男、いや、逆だろうか。そんな二人の様子を見て、瞬時に事態を察知したダイドは、がはは、とわざとらしく笑ってくる。
燐音は零の顔をチラっとみて、ぼうやなんだから。と呟いた。
その後、ギルドに向かい、お互い別の仕事を引き受けた。
なんでも、目的の町へ行ってくれる飛行船が、明日出るらしい。金は十分あるので、それまでの時間つぶしと、社会貢献だ。零は疲れていたものの、ついに念願の妹との再会が果たせるという実感が沸いたおかげで、仕事に熱をいれることができた。遠距離の敵はルルの水撃にまかせ、近距離の敵は零が退魔力で練った剣で切り裂く。コンビネーションにも磨きがかかってきた。ドドノヅギという土の巨人との戦いにもなんとか勝利し、ギルドに戻る。すでにダイドと燐音は戻っていた。
「おお、思ってたより早くかえってきたな」
「成長した証よ。もうすっかり一人前ね」
「ありがとうございます。ルルとの連携も、うまくいくようになってきました」
「昨日の夜の連携プレーのおかげだな!!」
ルルが耳まで顔を赤くし、ダイドのことをペチペチと叩く。
零は焦って弁解した。
「いや、昨日の夜は本当に何にもしてませんよ!」
「あれ、じゃあなんで一睡もできなかったのかな?」
「いや、それはその……」
「やっぱ言えないようなことしてんじゃねーか! 隠すなよ、このこのっ!って痛。どうなさいましたか燐音さん?」
「わかってるんだからそれ以上二人をいじめるのはやめなさい大人気ない」
「うーす」
燐音が気を使ってとめてくれた。それが気に入らないのか、ルルのスカートをめくりはじめる。
「や、やめてくださいダイドさんっ」
「ほーらめくれちゃうぞーほーら」
「ダイド!!!」
「うす」
「燐音お姉さま、ダイドさんがいぢめますぅ」
「ほーらよしよし。かわいそうに、あのエロ親父。あれは本当にめくりたいんじゃなくて、ルルが嫌がってるのを楽しんでるのよ、変態だわ」
「もっと罵ってくれ」
「ダイドさんのエッチ!」
「最高だ、もっと頼む」
「ダイドさんのすけべ! エロ親父!」
「いい、今夜は眠れない」
「ダイドさんの変態! 女の敵!」
「ご褒美以外の何者でもないなこいつぁ。最高だ」
「死ね、地獄に落ちろ」
「燐音、そういう心に刺さるのはやめてくれ」
くだらない談笑。ルルもはじめのころと違い、かなりみんなに慣れて来た。とくに燐音には遠慮しているように見えたが、今はよき姉妹のようになっている。零にはそれが、何よりも嬉しかった。
こんな安らかな時間が過ぎ、妹と再会し、ダイドさんの目的を果たし、もとの世界に帰れる。そんな確信が、どこかに生まれ始めた。しかし、これがただの嵐の前の静けさだなんて、誰も知る由がないのであった。