第9話 弔鐘と虚飾の平穏
気がついたとき、俺は病院のベッドに横たわっていた。
意識を失って倒れていたところを発見され、搬送されたらしい。還流による肉体的な損傷は、リターダーの過剰投与によって無理やり抑え込まれ、細胞の再構築は終わっていた。だが、短時間に大量の薬剤を流し込んだ代償として、激しい眩暈と吐き気が後遺症となって俺を苛んでいた。
目を閉じると、最後に見た景色が鮮明に蘇る。
教団のトラックに乗せられたテム、そしてギリアム。あの時、彼らは確かに生きていたはずだ。そして、アイリスの研究ロゴが入ったあのコンテナ。
今すぐにでもここを抜け出し、アイリスや仲間の無事を確認したい。その衝動に駆られるが、鉛のように重く、思うように動かない身体が歯痒かった。俺はただ、白く無機質な天井を見上げることしかできなかった。
翌日、シトリンが見舞いに来た。
彼女の表情はひどく暗い。沈黙のままベッドの横に座ると、無理に作ったような、力ない笑みを俺に向けた。
「……無事でよかったよ、エルム」
「ギリアムはどうした? テムは無事なのか?」
俺は、縋るような思いで畳みかけた。
シトリンは一瞬だけ視線を泳がせ、それから耐えかねたように目を逸らした。掠れるような声が、俺の耳に届く。
「二人とも……死んだよ」
目の前が真っ暗になった。
「クソッ……!」
声にならない呪詛が口から漏れ出る。そのまま天井を仰ぎ、奥歯を噛み締めた。
シトリンは、俺が眠っていた数日間に起きた出来事を淡々と語った。
ギリアムとテムを失い、象徴的な代表を失った【クロウ】には、評議会から即座に解体案が出されたこと。だが、そこへ救いの手を差し伸べるように教団から「新代表」の派遣が決まり、組織の存続が決定したこと。
俺の頭の中は、整理のつかない混沌に飲み込まれていった。
――あの日、俺がこの目で見たテムの姿は何だったのか。
――ギリアムの遺体が見つかっていないにも関わらず、なぜ早々に死が確定したのか。
――そして、代表を失ってわずか数日で解散案を出し、即座に新代表を送り込んできた教団。
偶然にしては出来すぎている。
足元から、とてつもない闇に飲み込まれていくような戦慄を覚えた。




