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デッドマン・シーカー ―不死の地獄を解体する葬送者―  作者: autofocus


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第2話 灰の廃村と死の予感

今回の任務は、新入隊員であるテムの訓練を兼ねた遺骸回収リトリーバルだ。

 目的地はシェルター近郊の廃村。すでに何度となく探索した場所であり、脅威度も低い。簡単な任務になるはずだった。


森の木々を避け、絡みつく根を軽く飛び越えながら廃村を目指す。時折、背後を振り返ると、テムが重たい装備にその身を削られながらも、必死に食らいついてきていた。

 生きていれば、弟もこれくらいの年齢だっただろうか。俺は彼に、とうに失ったはずの面影を重ねていた。


先頭を走っていたヴォルフが、突如として足を止めた。俺に鋭い視線を向け、顎で合図を送る。

 俺は即座に気配を殺し、周囲を見渡した。


遅れて追いついてきたテムが、荒い息を整えながら囁く。

「エルムさん、何かあったんですか?」

 俺は口元に手をやり、静止の合図を送る。風が木々を揺らす音、何かが枝や草木を踏みしめる乾いた音が、やけに鮮明に聞こえた。


ヴォルフが腰の断髄杭だんずいこうを抜く。

「来るぞ!」


ヴォルフの警告と同時に、周囲の草むらが爆ぜた。

 飛び出してきたのは虚人ホロウたちだ。……数えて三体。想定よりも多い。


ヴォルフが放った杭が、先頭の虚人ホロウの頸椎を正確に打ち抜く。絶叫と共に肉塊が泥に沈んだ。

 俺もまた、即座に断髄杭を構え、狙いを定める。引き金を引くと、硬質な衝撃と共に杭が放たれ、虚人ホロウの頭部を粉砕した。


即座に予備の杭を装填する。

「もう一体は?」

 俺が視線を巡らせた直後、草の影から悲鳴が上がった。


「うわぁああ!」

 テムだ。


悲鳴の方向へ駆けつける。そこには、虚人ホロウに組み伏せられ、断髄杭を盾にしてなんとか噛みつきを耐えているテムの姿があった。

 俺は迷わず飛びかかり、虚人ホロウをテムから引き剥がす。奴が俺に狙いを変えた瞬間、背後からヴォルフが放った杭が、奴の脳幹を貫いた。


静寂の中で、虚人ホロウの最後の断末魔が響き渡る。


「……テム、大丈夫か」

 俺が手を差し出すと、テムはそれをつかんで震える足で立ち上がった。

「いい練習になったな」

 ヴォルフがテムの肩を軽く叩き、倒れた虚人ホロウから遺伝子サンプルを採取し始める。テムはまだ息を荒くしていたが、顔を引き締め「大丈夫です」と答えた。


予定通り、俺たちは廃村へと入る。

 想定以上に虚人ホロウの数は多い。奴らもまた、死を求めて集まっているのか。

「油断するなよ」

 そう呟き、俺はヴォルフの背中に続いて廃村の冷たい灰の中へと足を踏み入れた。

俺たちは声を殺し、廃村の奥へと足を進める。かつては美しい水田が広がっていたであろう場所は、今や朽ち果てた家屋と水車が並ぶ、むくろの墓場と化していた。


今回の標的は、この村の最深部にあたる『エリアD』だ。これまでAからCまでの探索は終えている。残るはこの村で最も大きな、中央の家屋のみ。

 東西に並ぶ家屋はすでに崩壊し、探索の価値はない。俺たちは中央の建物に向け、断髄杭だんずいこうを構えて慎重に距離を詰めた。


入口の前でヴォルフが立ち止まり、中の気配を窺う。彼の合図を受け、俺とテムは静かに建物内へと滑り込んだ。

 視界クリア。一階の探索を終えるが、虚人ホロウの反応はない。


「……収穫はなしか」


俺が小さく溜息をついたその時だ。奥の部屋からテムの呼ぶ声が響いた。

「エルムさん、こっちに隠し扉があります!」


俺は即座にテムのもとへ駆け寄った。

「エルムさん、ここです」

 テムが手招きする先を見ると、床板にわずかな歪みがあった。周囲を指で叩いていくと、一か所だけ鈍く沈み込む場所を見つける。

 そこを強く押し込むと、重苦しい音を立てて床の一部が開き、地下へと続く階段がその姿を現した。


カビ臭い風が、暗闇の中から吹き上がってくる。

「テム、ヴォルフを呼んでこい。すぐにだ」


俺は指示を飛ばすと、彼らの到着を待たずに階段へと足を踏み入れた。

 この廃村の地下に、何が眠っているのか。

 俺の心臓が、不死の体では感じることのないはずの期待で、かすかに高鳴った。

俺はカバンから携帯松明を取り出し、階段を下りる。

 地下室は、長い年月をかけて降り積もった埃と、鼻をつくようなカビの臭気に満ちていた。防毒マスク越しでも、その淀んだ空気が肌にまとわりつくのを感じる。


松明の明かりで奥を照らす。倒れた机や棚が散乱し、足場は最悪だ。

 だが、部屋の奥の壁に掲げられた一つの紋章を目にした瞬間、俺の足が止まった。


「……これは、教団の紋章」


壁に刻まれていたのは、間違いなく【エターナル・グレイス】の紋章だった。

 頭が痺れるような違和感が走る。この村は【白夜の審判】によって滅びたはずだ。そして教団の創立は、審判のあとの混迷期に始まったと教えられてきた。

 だが、もしこの紋章が本物ならば――。

 白夜の審判の前から、教団は既に存在していたことになる。


背後に気配を感じて振り返ると、ヴォルフとテムが立っていた。二人もまた、壁の紋章を見つめ、硬直している。おそらく、俺と同じ戦慄を覚えているのだろう。


教団について、改めて洗い直す必要がある。

「……帰ったら、隊長に報告だ」


俺たちは沈黙を共有したまま、急ぎ足で村を離れ、カタコンベへと帰還した。

 その後、隊長の判断により、当該の村は即座に立ち入り禁止区域に指定された。今回の発見は、隊長を含めた俺たち四人だけの秘密となった。無用な混乱を避けるためだ。


シェルターに戻り、俺は自室のベッドに深く身を預けた。

 心身ともに、重く濁った疲れが溜まっている。


これが、やがて世界を飲み込む大きなうねりの幕開けになろうとは、その時の俺には思いもしなかった。

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