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デッドマン・シーカー ―不死の地獄を解体する葬送者―  作者: autofocus


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第11話 祈りと塵芥(ちりあくた)

かつて死線を潜り抜けた野良犬たちの溜まり場は、いまや奇妙な静謐せいひつに包まれていた。

 クロウ本部のトレーニングルームは「騒音と野蛮の象徴」として閉鎖され、代わりに真っ白な壁に囲まれた「瞑想室」が作られた。汗と銃器オイルの混じった、あの落ち着く臭いは消え、代わりに安っぽい香の甘ったるい匂いが鼻を突く。


「……また、これか」

 俺は支給された新しい任務表を、忌々しげに指先で弾いた。

 

 今日の任務は、第5セクターの掃討……ではない。

 『掃討完了区域における残骸回収、および聖水の散布』。

 それが、元第1班のエースだった俺に与えられた「重要任務」だ。


現場では、純白の装甲に身を包んだ【白翼アルバ】の連中が、最新式の熱線銃を片手に、獲物を仕留めた後の狩人のような顔で談笑していた。俺たち元クロウの隊員は、その後ろを這い回り、虚人ホロウの不潔な肉片を一つひとつ回収袋に詰め、教団が定めた「清めの水」を路地に撒いて歩く。

 かつて断髄杭だんずいこうを叩き込み、死を司った右腕は、いまや重いゴミ袋を運ぶためだけの道具に成り下がっていた。


「おい、そこ。肉片がひとかけら残っているぞ。聖域を汚す気か?」

 背後から、汚れ一つない白翼の若造が声をかけてくる。彼は武器すら抜かず、腰に手を当てて俺の作業を「監視」していた。

 俺が黙って指図に従い、路地を抉るようにして肉片を拾い上げると、若造はこれ見よがしに鼻を鳴らした。

「野蛮な葬儀屋には、これくらいが分相応だな。せいぜい神の慈悲に感謝することだ」


拳を握りしめるが、反論は許されない。今の俺たちの断髄杭には教団の監視チップが埋め込まれ、不穏な動き一つで「再教育」の対象になるからだ。


本部への帰還途中、廊下で偶然、マクシミリアンとすれ違った。

 彼は俺の姿を見つけると、親しい友人にでも会ったかのように目を細め、俺の肩にそっと手を置いた。

「エルム君。リターダーの副作用はどうかな? 辛いなら無理をせず、教団の施設で『洗礼』を受けるといい。心が洗われれば、肉体の苦痛も自ずと消えるものだよ」

 マクシミリアンの手は、死人のように驚くほど冷たかった。

「……お気遣い、ありがとうございます」

 俺は感情を殺し、深く頭を下げた。マクシミリアンは満足げに微笑み、「ギリアム君も、君の忠誠を喜んでいるはずだ」と言い残して去っていく。その背中を見送りながら、俺は胃の底からせり上がる酸っぱい液体を、強引に飲み込んだ。


夕食時の食堂も、以前とは様変わりしていた。

 元クロウの連中が隅のテーブルで、味のしない配給食を黙々と口に運ぶ中、シトリンだけは白翼の隊員たちと同じテーブルに座っていた。彼女は教団の若手士官の話を、憑かれたような熱心さで聞き入っている。

 ふと彼女がこちらを振り返り、俺と目が合った。

「エルム、あんたもこっちに来なよ。マクシミリアン様のお話、すごく救われるんだから。……お兄ちゃんに、もうすぐ会えるかもしれないの」

 その瞳には、かつての鋭い野性は失われ、どこか焦点の合わない、陶酔したような光が宿っていた。


ヴォルフは消え、ギリアムとテムは死んだことにされ、シトリンは「あちら側」へ行った。

 俺は一人、冷え切ったスープを啜りながら、白一色に染まっていくこの「墓場」で、いつまで正気を保てるだろうかと自問していた。

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