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私と彼


また会いたいなんて 怒られちゃうかな?

突然の別れだったから まだ飲み込めないよ

忘れていいよなんて 言われちゃうかな?

一度だけでいいから また ここに来てよ


あの日抱きしめてくれた、身体は静かにふるえていた

のぞまない別れなんて なくなればいいのに……

_______________



「来たのか、君も……。」

「はい。私にも責任があるので。」

 手に持った花束を、私はそっと置いて遠くを見た。

 果てしないはずの地平線の先に沈む、大きく小さく輝く太陽が、時刻を告げる心の鐘をならす。

 まわりにいる人たちは、誰が誰なのか分かる人とそうでない人とで、おおよそ半分ずつくらいなのかな?

 皆同じ目をしていても心のうちにある声は様々で、肯定をしようとする人、否定的な感情を持っている人、どうしたらいいのか分からない人……本当に様々だ。

 だから正直、私もどんな感情を持てばいいのか分からなくなってきた。

 彼はいつだって真っ直ぐな人だった。

 ただ、真っ直ぐすぎたんだと思う。

 社会という枠組みに真正面からぶつかって、それが自分のためになるかもわからなかったと思うけど、彼の中にある何かがずっと心を奮い立たせ続けていたんだ。

「もうやめて……お願いだから。」

 あの時この場所でボロボロになっていた彼を見た私は、切実な思いで声をかけていた。

 それでも「いや、大丈夫。大丈夫だから……」と言って私の目を真っ直ぐに見つめてきたその姿は、ああ、これが覚悟を持っている人の目なんだと、何の迷いもなくそう思った。

「この状況を、君はどう感じている?」

 隣りにいる人から声をかけられた時、私は困惑して思わず苦い顔をしてしまう。

 それがどんなに場違いで失礼なことだとしても、できることがたくさんあったにちがいない私には、この場でどんなことを話したらいいのか全くわからなかったんだ。

 どうしたらいいんだろう……

 こんなの私たちがどんなに考え頑張っても、今の彼に届くことはないのに。

「あの……」

「ん、なんだ?」

「期間だけで、本当に解決するものなのでしょうか。」

「ああそれは……」

 その人は少しだけ考える仕草をした。

 それが意味するもの、つまり……


 あの時の言葉に、根拠なんて無かったんだ。


 彼は決して独りよがりなことを言っていたわけじゃない。

 世の中の矛盾を見つけ出す彼の直感の鋭さは、いつだって私に寄り添ってくれていた……

 だからここにいる誰一人として、肯定的に考えていない人の心は残酷に思えてくる。

「あなたはどう思うの?当事者として。」

 いつの間にか私の隣りに立っていたその人に、私は切実な声と感情で問いかけてみた。

「……よく分からないや。」

 そう言ってバツが悪そうな表情になったその人は、どこにも居場所がないと言った感情で私の隣りに座った。

 そうだ、この人だって被っている人なんだ。

 こんなに酷なことを責任転嫁しているのは、誰でもない私たちで……

「あのさ、もし辛いなって感じたら私に言って?こんなおかしなこと早く終わらせないとだめなんだ。」

「僕は辛いって感じることはないんだよ。そういう存在だから。」

「……!」

 ニコって笑ったその表情に、私は狂気じみた恐怖を感じて思わず固まってしまった。

 そうだ。

 この人は“そういう役割”でここにいるんだ。

 自分の感情はなくて、私たちの意識の集合体としてここにいるんだ……

「僕が願うことなんてないよ。ただ楽しく過ごせればいいなって思ってるだけだから。」

「……その時が来たら悲しくならないの?」

「分かんない。みんながそうなりたくないって思ったから、僕を呼んだんじゃないの?」

「ごめん……」

 なんてことを聞いてしまったんだ。

 神様、罰を受けるべきなのはこの私なんです。

 彼は何も悪くないのに……

「こういうのってさ、皆どこかで加害者になったり被害者になってるんだと思うよ。だから誰が悪いとかだれが正解だとか、そういうことじゃないんだと思う。ただ……」

「ただ?」

 答えは私だって分かっているのに。

 こういう時に限って、自分で正解を口に出そうとしない私は、弱い人間なんだろうな。

「僕は自分の意志で動くことができない。ここに来たのだって、みんながそう願ったからでしょ。」

「うん、そうだと思う。ごめんね。」

「そろそろ帰るよ。ここにいる人たちの感情、よく分かったから。」

 そう言って足早にこの場を後にする後ろ姿を、私はじっと見つめていた。

 確かにそこにいるはずのあの人と、本来もういないはずの彼。

 世の中というのは、なんでこうも無情なんだろう……

「まだ、難しいよな。」

「先生もいらしてたんですね。」

「当然だ……いや、本当だったらこういうことはない方がいいんだがな。」

 伏し目がちに話す担任の先生の心は、無力と諦めのような感情が渦巻いていた。

「あいつが言いたいことは俺たちだってよく分かってる。分かっているんだが……どうしようもできないんだ。」

 それには私も首を縦に振ることしかできない。

 彼が成し遂げたかったもの、それは……

 誰でもない。

 委員長である私のことを守り抜こうとした結果、起きてしまった悲劇によって幕を閉じたようなもの。


「はあ……」

 ごめんねとありがとうが飽和した私の心が、静かに夜空に昇っていった。


愛を守るために自分を捨てないで

今だから言えることだけど、昔の私だったら……


(次回投稿予定:3月27日))

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