表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神使見習いは、まだ空を飛べない ー神と人のあいだで、選ぶ物語ー  作者: 月代


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/17

第八話 残された選択

 ――昔。


 まだ、ミコが生まれる前。


 神域の端に、一人の神使が立っていた。


 白い空の下、人界を見つめる横顔。


 それが、彼女の父だった。


「……今日も、届いている」


 誰にともなく呟く。


 祈りの声は、弱く、か細い。


 けれど、確かにそこにある。


 彼は知っていた。


 このままでは、いずれ裁定にかけられる。


 消される存在だと。


 それでも――

 目を逸らすことは、できなかった。


 


 ――現在。


 ミコは、神域の回廊を歩いていた。


 あの社の匂いが、まだ鼻の奥に残っている。


 胸元の勾玉が、微かに熱を帯びる。


 視界が、ふっと揺れた。




 ――回想。


 雨の降る人界。


 父は、社の前に立っている。


 崩れかけた鳥居。

 誰もいない境内。


 それでも、彼は膝をついた。


「……聞こえている」


 誰もいないはずの場所で、

 誰かに話しかけるように。


「まだ、終わっていない」


 祈りは、彼の胸に、確かに届いていた。


 その瞬間、彼は理解してしまった。


 ――自分が越えてはならない線を。


 


 ――現在。


 ミコは、思わず足を止めた。


 この記憶は、勾玉を通して流れ込んでくる。


 父の選択の瞬間。


 恐れも、迷いも、全部抱えたままの決断。


 ――それは、

 間違いではなかった。


 そう、言われている気がした。


 白峰が、向こうから歩いてくる。


「……また、見たな」


 ミコは、驚いて顔を上げる。


「分かるんですか」


「分かる」


 白峰は、静かに言った。


「お前の目は、父と同じになる」


 ミコは、胸に手を当てた。


「……私、まだ答えは出ていません」


「それでいい」


 白峰は、そう言って歩き出す。


「だが」


 一拍おいて、振り返った。


「次の裁定で、問われるのは――」


 ミコの目を見る。


「お前自身の、選択だ」


 神域の白い空に、その日、わずかな陰が差した。


 それは、夜の予兆だった。


 父が踏み出した一歩と、

 自分がこれから踏み出す一歩。


 重なる場所は、もう、すぐそこにある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ