第7話 私達も、付き合っちゃおうか……?
『私達も、付き合っちゃおうか……?』
美千瑠の綺麗な桜色の唇から紡がれた予想外の言葉に、俺は目をぱちくりと瞬かせる。
「……は? 付き合う? 俺と、お前が???」
「そう」
「…………は? じょ、冗談だろ……?」
薄ら笑いを浮かべながら俺が問えば、美千瑠はその可愛らしい顔をこれ見よがしに見せつけて、俺にぐいっと距離を詰めて来る。
「冗談なんかじゃないよ?」
美千瑠は俺の耳元で囁くように言葉を紡ぐ。
「だって私、……凍華のこと、……好きだから……」
美千瑠の言葉に、全身の血がぶわっと沸き立つ。
美千瑠が、俺のことを好き……?
顔を合わせればお互いの揚げ足を取り合いからかい合っていた相手から、まさか告白されるなんてどうして思えようか。
美千瑠は可愛らしい大きな丸い瞳を艶めかせて、俺を上目遣いで見つめる。
「……凍華は、私のこと、嫌い……?」
きゅるるんっ、と効果音が聞こえてきそうな潤んだ瞳で見つめられ、俺は何も言えなくなった。
確かに美千瑠は可愛い。入学式の時だって明るくて可愛くて、こういう子いいな、と思ってしまったのも事実だ。仲良くなるにつれ、そんな恋愛感情染みた感想を美千瑠に抱くことはなくなってしまったが、初対面で感じた青春の一ページみたいな出会いを俺は思い出してしまった。それに美千瑠と話すのはなんだかんだ楽しくもあるのだ。
美千瑠は黙ってただただ俺を見つめている。俺の返答を待っている。
返答ってなんだ? なんて答えたらいいんだ?
俺も美千瑠が好きだ……?
好き? 本当に? 俺は美千瑠のことが好きなのか……?
そんな風にぐるぐる悩んでいると、美千瑠の肩がぷるぷると震え出し、そして美千瑠が吹き出した。
「ぶふーっっっ!! 凍華、本気で考えてるのっ!?」
美千瑠は身体を九の字に曲げ、お腹を抱えて笑い出した。
「は…………?」
馬鹿な俺はそこでようやく気が付く。
「……お前、俺をからかったな……?」
「だってっ! 凍華面白すぎっ! 私に告白されると本気で思ったの? 凍華、実は私のことめっちゃ好きでしょ! でもごめんなさいっ!」
美千瑠は笑いを引きずりながら、俺にぺこりと頭を下げた。
くそっ、こいつ……、昨日の仕返しだな……っ!?
目の前でけらけらと笑う美千瑠に腹が立ったが、俺は大きく深呼吸しなんとか冷静さを取り戻す。そして、伏し目がちにこう言う。
「そうか……。冗談、だったのか……」
「え?」
目元に涙を浮かべていた美千瑠は、急に声のトーンを落とし愁いを帯びた表情でグラウンドを見つめ語り出す俺に、視線を向ける。
「……俺、結構本気で美千瑠のことが好きだったから、美千瑠も俺と同じ気持ちだったのかなって、ちょっと嬉しかったんだが……。そうか……、冗談か……」
「え……? え?」
戸惑い始める美千瑠に俺は追撃の手を緩めずに言い募る。
「はは……ごめん。俺、気持ち悪いよな……。美千瑠から好き、なんて言われたからさ、期待しちゃたんだ。美千瑠が俺のことを好きになるなんて、そんなわけ、ないのにな……」
そう言って俺は空を見上げる。カラスが二羽、仲睦まじく飛び去って行った。
「え、あ、えっと……凍華……」
美千瑠は頬を赤くしながら、自分の言ったことを後悔しているかのように戸惑っていた。
その様子が可笑しくて、やっぱり我慢しきれずに俺は吹き出した。
「ぶはっっっ!!!」
「え? え?」
俺が急に笑い出したことに驚いて美千瑠は目を瞬かせていたが、事の次第を理解したのかその顔はみるみるうちにりんごのように真っ赤に染まっていった。さっきとはもちろん別の意味で。
「ちょっと凍華!?!? 私をからかったわけ!?!?」
「最初にからかってきたのはどっちだ。自業自得だろ」
「く~っっっ!! ほんっと腹立つっっ!!!」
美千瑠がいつものように右ストレートを繰り出してくるので、それを俺はこれまたいつものように華麗に避けた。
「避けるなっ!!」
顔を真っ赤にした美千瑠が可笑しくて、俺は笑いが止まらなかった。




