第6話 余り者の俺と彼女
あっという間に五、六限目の授業が終わって放課後。
手早く教科書ノートをスクール鞄に突っ込んだ俺は、いつものように真宙に声を掛けようとしてぴたりと動きを止めた。
四人で帰りそのまま遊ぶのが当然のようになっていたが、これからどうすればいいのだろうか……?
二人は付き合いたてである。俺と美千瑠は邪魔者なのではないだろうか。
そうこう悩んでいるうちに、真宙と結菜がいつものように俺の席へとやってきた。
「凍華、帰ろうぜ! 今日もどっか寄って帰るだろ?」
「え、ああ、えっと……」
真宙と結菜は、変わらず四人でいたいのだろうか? それともいつもそうしているから、俺達に気を遣って声を掛けてくれている?
二人がどう思っているのか、訊けなかった。
きっと今までの俺だったら気を遣うこともなく気楽に訊いていたのだろうが、今回のことに関してはそうもいかない。
付き合うってなんだ? 恋人同士になった二人に、俺はどう接したらいい?
俺達四人は仲が良い。
そう思っていたはずなのに、俺ははっきり訊くことができなかった。
どうしたもんかと教室中に視線を彷徨わせていると、美千瑠の後ろ姿が目に入った。ふらりふらりと力なく教室を出て行く。
さすがのあいつも二人に気を遣ったのかもしれない。
「ああ、忘れてた! 俺、今日委員会があるんだった! わ、悪いが今日は先に帰っていてくれ」
しょうもない嘘丸出しの演技で伝えると、二人は案外すんなりと頷いてくれた。
もしかしたら二人きりになりたかったのかもしれない。などと少し後ろ向きなことを考えてしまう。
「そっか、じゃあまた明日だな」
「また明日、凍華くん」
「おう、また明日!」
俺は笑顔を無理やり張り付けて、二人にひらりと手を振った。
二人はそっと手を繋ぎながら、並んで廊下の奥に消えた。
「ふう……」
思わず詰めていた息を吐き出す。
せっかく両想いになれたのだ。俺と美千瑠が一緒にいたら邪魔になるかもしれない。しばらくは二人きりの時間を作ってやった方がいいのかもしれないな、と廊下の奥に向けていた視線を教室内に戻す。
とはいえ。
ずっと四人でいられると思っていただけに、その関係の終わりは存外早く衝撃的だった。
男女の友情は成立しない、などと言われるが、俺はこの関係が友情で成り立っているとすっかり思い込んでしまっていた。ただ単に俺が鈍かっただけなのかもしれないが、真宙と結菜はとっくに互いを想い合っていて、もしかしたら俺達四人の関係は二人のおかげで成り立っていたのかもしれない。
そんな風に考えると当然寂しいが、親友二人のことは祝ってやりたい。二人が付き合い始めたからといって大好きな友人達であることに変わりはないのだから。きっとまたいつか、四人で遊ぶ日も来るだろう。
なんだかそのまま帰る気にもなれず、気が付けば俺の足はいつも四人で過ごしていた屋上に向いていた。
陽が落ちるにはまだまだ早く、グラウンドの運動部の声援が賑やかに響いていた。遠く吹奏楽部の合奏が聞こえ始める。
いつものように屋上の扉を開けると、少しずつ弱くなっていく光の中に彼女は立っていた。
ぼうっと下校する生徒達を見下ろしているその背中は、なんだかやたらと小さく見えた。
「よお、美千瑠」
俺が声を掛けると、こちらを振り向きもせずに「うん」と力ない返事をする美千瑠。
「どうした? 元気ないな」
美千瑠の隣に並びながら、俺も同じように眼下の生徒達を見つめる。
「別に……」
「もしかして、真宙のことが好きだったとか?」
冗談めかして言ってみれば、「違うし」と小さなツッコミが返ってくる。そのツッコミにはいつもの覇気も元気も感じられない。
こいつもきっと俺と同じで、四人でずっと一緒にいられると思っていたのだろう。
口喧嘩ばかりの俺達だが、一応友人だ。互いのことはなんとなく分かる。
少しして美千瑠はぽつりと口を開いた。
「……このままずっと、四人でいられると思ってたんだよね。なんでか分からないけど、私達は特に恋愛関係にもならず、ただただ仲良しの友達でいられるって思い込んでた……」
美千瑠の言葉に、俺も頷く。
「そうだな……。俺もそう思ってた」
「でも、そんなわけないよ。人の心は変わる。男女なら尚更……」
「ああ……」
俺だって、美千瑠、真宙、結菜といる時間が特別だった。気が合って楽しくて、きっとずっとこのまま四人で高校生活を送るものだと思っていた。いやそうだったらいいなって思い込もうとしていたんだ。
でも結局、友情は恋愛には敵わなかったのだろうか。このまま俺達は、四人で行動することが減っていくのだろうか。
美千瑠はようやくその大きな瞳に俺を映すとゆっくり言葉を紡ぐ。
「……ねえ、凍華」
「ん?」
「私達も、付き合っちゃおうか……?」
「………………は?」




