第5話 仲良し男女4人のうちの2人が付き合い始めました。
翌日、昼休み。
世間では梅雨入りした地域もあるらしいが、六月の二週目になった今も俺達の住む地域は心地よく晴れ渡っていた。
目の前にはいつものように美千瑠、真宙、結菜の三人。楽しくお喋りしながら、それぞれがそれぞれの昼食を口に運ぶ。
美千瑠はサンドイッチ、真宙は購買のパン、結菜は手作りの弁当。例に漏れず俺もコンビニで買った弁当の焼鮭をつついているところだ。
いつもの見慣れた光景。穏やかな時間。
ああ、今日も平和だ……。
中学時代とは勝手の違うであろう高校生活に少しの不安を覚えていたことがもうすでに懐かしく思えるほど、俺達はすっかり高校生活に馴染んでいた。
四月の俺よ。高校生活はとても自由で楽しいぞ。
天を仰ぎ見ながら独り言ちていると、その平穏が音も立てずに崩れ落ちた。
「凍華、美千瑠。ちょっといいか? 二人に報告したいことがあるんだ」
唐突に口を開いたのは、真宙だった。
「報告?」
「どしたの真宙くん?」
いつもよりもやけに真剣な表情を浮かべた真宙の言葉に、俺、美千瑠、結菜の三人の視線が一気に真宙に向く。
真宙はいつもの穏やかな笑顔を消して、ゆっくりと口を開いた。
「俺と結菜、付き合うことになった」
真宙の言葉にたっぷり十秒くらいの間を置いて、俺と美千瑠は声をハモらせた。
「「…………え???」」
俺も美千瑠も、真宙の言葉がすぐには理解できなかったのだ。
付き合う。
俺達の間では聞き馴れないその単語に、俺と美千瑠は思わず顔を見合わせて、それから真宙の爽やかフェイスに視線を戻す。
「ま、真宙? もう一度言ってくれ。付き合うって言ったか? 誰と、誰が……?」
俺の言葉に、真宙は淡々と同じ言葉を繰り返した。
「だから、俺と結菜、付き合うことになったんだ。凍華と美千瑠にはちゃんと言っておこうと思って」
「え……」
未だに信じられない報告にしかし、真宙の隣で顔を真っ赤にしている結菜を見れば一目瞭然だった。これは真宙の冗談などではない。本当のことだ。
真宙と結菜は、恋人同士になったのだ。
「ま、マジか……」
「おう、マジだ」
美千瑠はまだ現実を受け入れられていないのか、ぽかんと口を開けたまま固まっている。
真宙は照れたようにふにゃりと笑いながら話し出す。
「俺、ずっと結菜のことが好きでさ。それこそ入学式のときからずっと。一目惚れってやつだな」
勝手に馴れ初めを語り出す真宙に、結菜が慌てて止めに入る。
「ちょ、ちょっとやめてよ、真宙くんっ……。は、恥ずかしいよ……」
「いや、二人にはちゃんと話しておかねーと! 俺の大事な親友だからさ」
「そ、それは私にとってもそうだけど……」
「俺が話すから、結菜は見守ってて」「うん……」などと、目の前で恥ずかしそうにお互いの手を握り合いながら話されてはもう疑いようもないだろう。
そうか、だから……。
ゲーセンに行った帰り道。結菜は真宙が取ったうさぎのぬいぐるみを愛おしそうに抱いていた。真宙も結菜のためだから張り切ってクレーンゲームに挑戦していたのだ。
どうして今まで気が付かなかったのだろう。こんなにも時間を共にしていたというのに。きっと他にも二人が想い合っているだろうことが分かる行動はあったはずだ。しかし俺はそれを友人間の仲の良さと思い込んでいたのだ。何故だか勝手に、俺達はそういう仲にはならないだろうと高を括っていたのだ。
俺達の仲に、恋愛は介入しないだろう、と。
真宙はまた少し照れたように頬を掻きながら続ける。
「入学式に結菜に一目惚れして、どうしたら結菜みたいな可愛い子に釣り合うだろうって、俺なりに色々考えた。とりあえず、派手だった金髪は黒に染めてピアスもやめたんだけど……」
「金髪も似合ってたよ」と結菜が真宙に笑いかける。「ありがと」と照れくさそうに真宙も笑った。
…………え? ちょっと待て。俺達は今、何を見せられているんだ……?
「そんで昨日の帰り道。いつもみたいに結菜を家まで送ってたんだけど、やっぱどうしても気持ちを伝えたくなって告白したんだ。そうしたら結菜も同じ気持ちだったみたいで」
真宙は結菜を愛おしそうに見つめる。
「私もずっと、真宙くんのこと気になってたから……。告白されてすごく嬉しかったし、私の気持ちもしっかり伝えようって私からも想いを伝えたの……」
結菜は顔を真っ赤にして真宙を見上げる。
視線の合った二人は驚いたように目をぱちくりさせて、それから同じように顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
ああ、うん……。もういいよ、ごちそうさま……。相思相愛ね、うん。良かったじゃん……。
見てるこっちが甘ったるくて胸やけしそうだった。ブラックコーヒーでも飲みたい気分だ。
ぎこちなく照れ合っている二人に、俺は笑顔を張り付けて言った。
「とにかく、まぁ……おめでと。今後とも仲良くやれよ? すぐ別れるとかやめろよな」
俺の言葉に、真宙と結菜は幸せそうに笑った。
「分かってるって。結菜のこと、ぜってー大事にする。凍華、ありがとな!」
「ゆ、結菜、真宙くん、お、おおおめでとう~~!」
美千瑠も慌てたように祝いの言葉を口にしたが、その笑顔はかなりぎこちないものだった。
「「ありがとう!」」
二人の幸せそうな笑顔とお礼の言葉に、タイミングよく昼休み終了のチャイムが鳴って、俺達四人は揃って1Aの教室に戻った。
その間、美千瑠はなんだか落ち着きなく視線を動かしていた。




