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第52話 恋人ごっこを終わらせたい


 俺はこの恋人ごっこをどうしても終わらせたい。


 終わらせない限り、本当の恋人にはなれないからだ。



「美千瑠、どこか分からないところはあるか? 教えてやるぞ」


 それとなく恋人ごっこを終わりにしたい旨を告げたいのだが、いまいちタイミングが分からない。

 俺の言葉に、美千瑠は訝し気な視線を俺に向ける。


「凍華、なんか優しくない? おかしいな」

「おかしいってなんだ、俺はいつも優しいだろうが」


 ローテーブルを挟んで向かいに座る美千瑠の頭に、こつんと軽くグーを当ててやると、何故だか美千瑠は嬉しそうに笑った。


「えへへ、なんかこういうのも恋人っぽいかも」


 最早恋人の基準が分からなくなりつつある俺だが、そう言って笑う美千瑠の笑顔をここのところよく見るようになったし、まぁ美千瑠が笑顔になるのなら悪い気はしない。悪い気はしないのだが、どうにも腹が立つので、俺の情緒は昨日ぶっ壊れたのかもしれない。


「じゃあせっかくだから教えてもらおうかな」


 美千瑠は何故か立ち上がると、俺の真横に座る。その距離があまりに近くて、俺の腕と美千瑠の腕がぶつかる。


「近っ……」

「はい、じゃあここ教えて?」


 美千瑠は俺の腕に体重を預けるようにして、ぴったりとくっついてくる。


「いや、だから近い……。教えづらいんだが……」

「いいじゃん。恋人なんだから。これくらいの距離が普通でしょ?」


 こてんと首を俺の肩に乗せた美千瑠は、上目遣いで俺を見上げる。可愛いと思ってやっているのか、無自覚なのかは分からないが、耐えられてる俺すげー偉いな。


 俺が問題集に集中出来ずにいると、美千瑠がにやにや笑いを浮かべて話し掛けて来る。


「もしかして凍華、私にドキドキしてる?」


 「は? 誰が美千瑠なんかに!」といつもの俺なら慌てて言ってしまうところだが、恋人ごっこを終わらせたい俺は、美千瑠に俺のことを意識させなくてはならない。


「……ド、ドキドキしてるよ……。俺の彼女が、可愛すぎるから……」


 うわー! 恥ずい! 恥ずかしぬ! と内心暴れつつも、こっそり美千瑠の様子を窺うと。


「美千瑠……?」


 美千瑠は顔を真っ赤にして俺の腕にしがみ付いていた。


 そんな顔しておいて、俺のこと好きじゃないのかよ……。と半ば心を痛めていると、美千瑠がぱっと俺の方を見た。



「凍華、キスしよ!」



「は!?」



 美千瑠はぐいっと俺の身体を押してくる。


「ちょ、ちょ、ちょい待て! なんだ急に!?」


 美千瑠に襲われそうになる俺。いや普通逆じゃないか? 俺が押し倒されてばかりのような気がするんだが!?


 美千瑠を突き離そうとすると、潤んだ瞳で見つめてくる。この顔をされると、俺はどうにも強く出られなくなるのだ。


「凍華は、私とキスするの、嫌なの?」

「え、い、いやでは、ないけど……」

「ならいいよね?」

「んぐっ!?」


 美千瑠はそう言って俺の唇を奪っていく。もはや情緒もへったくれもない。


 どうしてこうも訳の分からん方向に積極的なんだ!?


 このままでは恋人ごっこを終わらせられない。美千瑠にはっきり言わなくては。


「みち、……っ」



 しかし美千瑠のとろんとした甘い表情を見てしまった俺は、結局流されるまま美千瑠としばらくの間キスをすることになってしまった。




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