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第51話 勝てる気が一切しない


 翌日の朝は昨日の豪雨が嘘みたいな快晴だった。まさに台風一過というやつで、朝九時の時点で気温は三十度を超えていた。


 なんだかんだ夜更かししてしまった俺達は、昼近くになってようやく起き上がった。

 俺が伸びをして起き上がると、美千瑠も瞼を擦りながら起き上がる。


「おはよぉ~」


 とろんとした目元に乱れた髪。何故だかやたらとセクシーに感じてしまい、本当に俺じゃなかったらお前もう泣いてるからな!? と朝からツッコミたい気持ちをぐっと堪えた。


「……おはよう。悪いな、泊めてもらって」


 クールに返せば、「あ、ううん、全然~」と昨晩のことなどすっかり忘れたような返事が返ってくる。


 まだ寝惚けてんのか?


「晴れたみたいだし、俺、帰るよ」

「え! 帰っちゃうの?」


 美千瑠はぱちっと目を開けて、驚いた様な声を上げる。


「いや、普通帰るだろ」

「でも、帰ったところで凍華、どうせ暇でしょ? 今日も遊ぼうよ」

「は?」


 マジでこいつ本当に危機感がないというか、貞操観念どうなってんだ?


 付き合ってもいない俺なんかとえっちなことをしようとしたり、そんなもやもや悶々な夜を過ごさせておいて、今日も美千瑠と一緒に過ごせと言うのか? マジで襲うぞくそっ。


「はー……、いいよ、遊んでも」

「やった!」


 俺の返事に、美千瑠は無邪気に喜んで見せる。



 言ってやる、俺は今日絶対に言ってやるぞ。



 この恋人ごっこを終わらせる! と!




 朝食、と言うにはかなり遅い朝食を、美千瑠が作ってくれた。

 パンにチーズ、ハム、目玉焼きを乗せたトーストと、豆から挽いて淹れたコーヒーだ。


 俺は普段、父さんと二人暮らしなので適当に買ってきたパンを食べることが多いのだが、少し焼いたりコーヒーを添えただけで、こんなにも朝食らしく美味しくなるのだなぁ、と変に感心してしまった。


 この美味しいと感じることも、美千瑠が一緒だからだなんて思いたくはないが、きっとそうなのだろう。


「「ご馳走様でした」」


 二人揃って手を合わせて、俺達は並んで食器を片付ける。俺が皿を洗って、美千瑠が布巾で拭く係だ。


 こうしてキッチンに二人並んでいると、なんだか新婚夫婦みたいだな……、と無意識に思ってしまい、自身の重症さを思い知る。


 何言ってんだ俺。新婚夫婦って……。


 経験したことのない自分の感情に振り回されながら自嘲的な笑いを浮かべていると、美千瑠が隣でぽつりと呟く。


「なんか、夫婦みたい……」


 少し照れたように頬を赤く染めた美千瑠の呟きに、俺はまたもどかしい気持ちになる。


「お前、それどういう意味で言ってるんだ?」

「え?」


 我慢ならずに口に出してしまえば、美千瑠は大きな瞳をぱちぱちと開閉させる。


 そこまで思っておいて、俺はただの恋人ごっこをするだけの友人なのかよ。


「私達って恋人でしょ? 夫婦になる未来もあるのかなぁ、って」


 にんまりとその表情に笑みを広げていく美千瑠に、俺は叫びそうになった。



 お前それもう俺のこと好きだろーーーっ!?!?



 しかし美千瑠は以前、俺のことが好きかどうか分からないというようなことを言っていた。


 もしかしたらマジでただ単に恋人ごっこを楽しんでいるだけなのかもしれない。なんて質が悪いんだ。


 俺としても早々にフラれるのは勘弁だ。

 ていうか、あんなことやこんなことまでしておいて、フラれる未来があるのかよ。怖っ……。


「……まぁ、そうだな。そんな未来もあるかもな」


 ひとまずそう適当に返しておく。すると美千瑠はやっぱり、嬉しそうに笑うのだ。


「うん!」




 朝食の片付けを終えた俺達は、今日何して遊ぶ? 会議を始めた。


 美千瑠が遊ぼうと声を掛けてきたのだから、もしかしたら何かしたいことがあるのかもしれない。それこそ、恋人ごっこのお家デートってやつだ。

 しかし美千瑠は、うーんと首を捻っていた。


「何かしたいことがあって俺に声を掛けたんじゃないのか?」

「んー、別にしたいことがあったわけじゃないかも。ただ凍華と一緒にいたかったっていうか……」

「あ、そう……」


 だめだ……。どうにも俺の様子が可笑しい。


 美千瑠のことを好きだと自覚したせいなのか、一緒にいたかっただけ、という些細な言葉にすら可愛いと感じてしまう。


 このままではマジでまずい。


 この恋人ごっこに、俺だけが本気になってしまう。いやもうなってしまっているのかもしれないが……。


「まぁ、その、とりあえず宿題の続きでもするか?」

「そうだね」


 昨日雨で濡れてしまった問題集やノートは、すっかり乾いてはいたものの、しわしわのぱりぱりであった。


「わあ、これは先生に何か言われそう~」

「て言うか、二人揃ってこのしわしわ加減はまずくないか?」


 変な勘違いをされたらたまったものではない。悪目立ちは勘弁だ。

 しかし俺が危惧の念を抱いているのを余所に、美千瑠はあっけらかんと答える。


「別にいいんじゃない? 仲良しってことで!」

「…………」


 俺は心の中で盛大にため息をついた。



 俺の彼女様に勝てる気が一切しない。




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