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第49話 触るって……どこを??


 俺はため息をつきながら美千瑠の背中に手をまわす。美千瑠はくすぐったそうに小さく笑い声を漏らした。


「恋人同士の夜って、きっとこんな感じだよね?」

「……知らないけど……」


 そんなことよりも、美千瑠のたわわに実り過ぎた胸が俺の胸板に押し付けられていて少し苦しい。


「……ちょっと、ドキドキするかも……」


 言葉の通り、美千瑠の心拍数は早いような気がした。どちらのものか分からないが、ドキドキと大きな音が鼓膜を揺らす。


 このままだと変な気を起こしかねないと思い、俺は体勢を変えようと身を捩る。

 すると美千瑠から「んぁ……っ」と驚いた様な声が漏れる。


 もうとっくに気が付いているし、今更言うつもりもないが、こいつは何故俺がいるというのに下着を付けていないのだろうか。家だからいいとでも思っているのかもしれないが、もしかして俺って男だと思われてない? なんて恋人ごっこをしているのに思ってしまう。


「……凍華って、実はちょっとえっちでしょ……?」

「は?」

「私の身体、えっちな目で見てるでしょ……?」


 普段抜けている美千瑠は、時々大胆なことを口にする。今のこの暗い雰囲気がそうさせているのか、本来の姿がそうなのかは分からないが、俺は言葉に詰まる。

 ここのところ、俺は美千瑠に言いくるめられてばかりだ。


「……美千瑠」

「ん?」

「多分、美千瑠が思っているよりも、男は美千瑠のことえっちな目で見てるよ」

「えっ……え?」

「だから自分が可愛いことを少し自覚した方がいい」

「え、……ええ? か、可愛い?」


 俺の口から飛び出した言葉が意外だったのか、美千瑠は戸惑ったように瞳を揺らす。


「えっと……それは、凍華も思ってる、ってこと……?」

「…………そうだよ」


 俺の返答に、暗がりでも美千瑠の頬に熱が籠るのが分かった。


「そう、なんだ……」


 美千瑠は嬉しそうに頬を緩める。


 俺なんかに可愛いと言われて、そんなに嬉しかったのだろうか? 相変わらず男に免疫がなさすぎる。誰に可愛いと言われても、そんな表情を見せるのだろうか。


「……凍華、私ね」

「うん……」



「もっと、凍華と恋人っぽいことしたい……」



 美千瑠は瞳を潤ませながら、俺を見つめる。


「……こ、恋人っぽいことって?」


 俺の惚けた返答に、美千瑠は不満そうに頬を膨らませた。


「そういうの、男の子の方が詳しいんじゃないの……?」

「さ、さて? なんのことか分からないけど……」


 俺はいつもの調子で白を切る。美千瑠はますます不服そうだ。

 これくらい言っておけば、美千瑠は引くだろう。そう思っていたのだが。



「凍華、……触って……?」



「え……」

「どこでもいいから、凍華に触れてほしい……」



 美千瑠の切なそうな呟きが、静寂の中に落ちる。


 外はまだ雨が降っているようで、微かな雨音と窓が揺れるガタガタとした音が時折耳に入った。けれど、一番良く聞こえたのは、きっと俺の心臓の音だ。どくどくと煩わしい程に大きく聞こえる。


 触るって……どこを……?


 それは俺がしていいことじゃ決してないはずだ。


 美千瑠は焦れたように俺の手を取ると、自身の胸に当てる。ふわっとした柔らかさの中にどくどくと美千瑠の心臓の音が大きく聞こえる。


「凍華の手……、相変わらず冷たいね」


 美千瑠はそれを温めるようにぎゅっと挟む。ごくりと、自然と喉が鳴った。


「手が冷たい人は、心が温かいって言うね」

「そ、……れは外国の人のジョークみたいな話が元ネタじゃなかったか……?」

「え? そうなの? 医学的に証明されてなかったっけ?」


 「まあ、いいや」と美千瑠は俺の手を大事そうに握る。


「凍華はきっと、心が温かい人だよ」

「……どうしてそう思うんだ? 俺は凍りの華だぞ?」


 いつだったか、同じようなからかいを美千瑠にされたことがある。


 凍りの華で、凍華。きっと大事にしたい人を大事にも出来ない、大事にする自信もない、冷たい人間の名前だ。


「分かるよ。……だって凍華は、私の寂しいを埋めてくれた優しい人だもん」

「………………っ」


 美千瑠は真剣な表情で、俺を見つめる。



「私も凍華に触ってもいい……?」

「え、」


 戸惑っている間にも美千瑠の手が俺の胸や腕に伸びて来て、美千瑠は恐る恐る俺に触れて来る。


「えへへ……触れ合いっこだ」


 美千瑠は顔を真っ赤にして照れたように呟く。


 触れ合いっこ、なんだその可愛い言い方は。


 気が付けば俺も美千瑠に手を伸ばしていて、頭を優しく撫でていた。それから頬に触れ、肩に触れると美千瑠は少し驚いたようにびくっと身体を揺らした。


「あ、悪い……」


 つい調子に乗ってしまったと、俺は慌てて手を引っ込めようとして、その手を美千瑠に捕まれる。


「だ、大丈夫……! す、好きなように触っていいから……」


「好きなようにって……」


 横向きになってこちらを見つめる美千瑠の身体を、まじまじと見てしまう。


 美千瑠は、何を望んでいるんだ?



 触るって……どこを……?




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