第45話 彼女の家にお泊り
「痛ってぇ……」
俺は氷の入ったビニール袋で頬を冷やしながら、美千瑠を睨み付ける。俺の頬には見事な紅葉模様が刻まれていた。
着ていた服は雨で濡れてしまったので、洗濯機にかけている。今着ているTシャツは美千瑠のものでオーバーサイズだ。下はスウェットを借りている。
「だからごめんって」
謝る美千瑠はとても不服そうに唇を尖らせている。
そんな美千瑠の部屋着は、ウサピケというブランドのもので、ふわふわと手触りの良さそうなパーカーに、これまたふわふわのショートパンツだ。
「それが謝る態度か? 俺が助けなかったら、今頃頭かち割ってたかもしれないんだぞ?」
俺はじとっと美千瑠を睨む。
「それは、……ありがとうだけど……。でも、それとこれとは別! いくら恋人同士だからって、勝手に彼女の裸を見るなんて、サイテーっ!!」
「俺が入ってる風呂にお前が勝手に入ってきたんだろ!? お前こそ俺の身体を勝手に見るなんてサイテーだ!」
俺は自分の身を守るように、空いた手で自身の身体をかき抱く。
どうして美千瑠とはいつもこうなってしまうんだろうか……。ただでさえ疲れているというのに、もう勘弁してほしい。
「凍華、提案がある!」
「なんだよ?」
美千瑠はまだ不満そうに頬を膨らませていたが、渋々といった様子で提案を口にした。
「今回のことは、どっちもよくなかったってことで、一緒に謝って終わりにしよう!」
「はぁ?」
「だってこのままだとずっと喧嘩しっぱなしじゃん。それって恋人としてよくないでしょ?」
「まぁ、そうだけど……」
恋人に限らずだが、確かにこのままどっちが悪いと不満をだらだら零し続けていても、拉致が開かない。体力的にも厳しい。
「……分かった。そうしよう」
俺が賛同の意を表すると、美千瑠も「うん」と頷いた。
「「ごめんなさい」」
そうして二人一緒に謝った。
腑に落ちないのはお互い様だが、この話はもうなしにしよう。疲れたし。
「……で、これからどうする?」
美千瑠が少しの不満を引きずりながら尋ねてくる。
「どうするって?」
「今日、泊まっていく?」
美千瑠の謎の提案に、俺はぽかんと口を開ける。
「は? 何言ってるんだ? 帰るに決まってるだろ」
何がどうしてこのまま美千瑠の家に泊まらなきゃならんのだ。そもそもそう簡単に男を家に泊めるなどとそんなこと許すな。また説教が必要か!? などと苛立ちを募らせていると、美千瑠がスマホ画面をこちらに見せつけてくる。
「これ」
「なんだよ?」
そこには気象情報と、それにまつわる交通情報が記載されていた。
俺は目をぱちくりさせながらその情報を見、慌てて窓の外を確認した。
風呂場騒動に意識を取られていて全く気が付かなかったが、先程止んだと思っていた豪雨がまた滝のような雨を降らしており、遠くの空が光っている。窓に叩きつける雨音と、風のビュービュー言う音が耳に入る。
「嘘、だろ……」
俺が呆然と呟くと、美千瑠は気象情報を見て浅く息を吐き出す。
「強風で電車も止まってるみたい。さっきの、ゲリラ豪雨かと思ってたけど、台風の影響だったんだね……」
俺はまた先程と同じようにあんぐりと口を開ける。
「今日はさすがに、泊まっていくしかないでしょ?」
美千瑠がスマホを振りながら、俺にそう言った。




