第3話 仲良し男女4人と楽しい放課後
「凍華っ! 凍華っ!」
「え?」
名前を連呼され、俺は入学式から現在へと意識を戻す。
「まぁたぼーっとしてる……」
美千瑠は呆れたように肩を竦めオーバーにため息をついてみせる。
「話、聞いてた?」
「いやまったく」
俺の素直な返事に美千瑠はまた大袈裟にため息を零した。それに代わって結菜が丁寧に説明してくれる。
「今日の放課後、どこに遊びに行こうかって話してたの。凍華くんはどこか行きたいところとかあるかな?」
にこっと微笑みかけられ、美千瑠との攻防によってとげとげしていた俺の心が優しく包み込まれる。
結菜はいつも穏やかでお淑やかで優しい。どこかの万年カルシウム不足でカリカリしている女子とはまるで違う。
結菜に視線を向けると、「どこかある?」とこてんと可愛らしく首を傾げられた。
可愛い。とても可愛い。どこぞの清楚をコンセプトにしたアイドルグループにでも所属していそうな可憐さ。そしてその見た目に違わず、女神のように広く優しい心を持つ彼女は、クラス、いや学年でも一位、二位を争う程に男子からの絶大な人気を誇っていた。
だというのに。
俺はちらりと美千瑠を見やる。
「なによ?」と俺が視線を向けただけで睨み付けてくるこのいつも喧嘩腰の女が、何故女神と親友になれたのか不思議でしょうがない。
「……なぁ、結菜って、なにか美千瑠に弱みを握られていたりする?」
「え? え……?」
俺の質問にきょとんと目を丸くして戸惑う結菜。戸惑っている姿も実に可憐である。
背後に美千瑠の気配を感じ、無言でチョップをくらわせようとしてくる彼女の手刀をさっと避けた。
「避けるな!」
「いや避けるだろ!」
目の前でびゅんっと風を切ったような音をさせた美千瑠の手刀を無事回避した俺。いや普通に当たったら痛そう。なんて暴力的なんだ……。
「やっぱりどう考えても可笑しいだろ! こんな野蛮な美千瑠と可憐な結菜が親友同士だなんて!」
俺の言葉に目をぱちくりさせていた結菜は、すぐにその整った顔に笑みを浮かべる。
「凍華くんは美千瑠ちゃんと仲が良いのに、全然美千瑠ちゃんのこと知らないんだなぁ」
「はぁ?」
結菜はくすくす笑うと、俺の耳元に顔を寄せてぼそりと呟いた。
「美千瑠ちゃんは凍華くんが思っているより、ずっと可愛い子なんだよ?」
結菜の吐息が耳にかかり、普段死んだようにのろのろと動いている俺の心臓が急速に動き出した。
にこっと笑顔を向けてくる結菜。
あかんて……こんなん誰だって好きになっちゃうだろ……。
心臓を傷める俺に隣から、「きもっ」、という実に嫌悪感たっぷりの言葉が投げつけられた。
もう少しピュアで優しい世界にいたかったのに、美千瑠という悪魔のような女がそれを許してくれなかった。
「で、凍華、どっか遊びに行きたいところあるか?」
今度は真宙に尋ねられて、そういえばその話をしていたのだったと思い出す。話を脱線させてしまってすまない。
「そうだなぁ……。カラオケはこの前行ったばかりだし、ボーリングも行き飽きたよな。うーん……普通にゲーセンとか?」
俺の適当な提案に、三人がいいね! と大きく頷く。
「ゲーセン! いいんじゃね? 最近全然行ってなかったし!」
真宙が賛成の意を唱えると、結菜もそれに続く。
「ゲームセンターいいね。可愛いぬいぐるみあるかなぁ」
「私もちょうど新しいプリ機で結菜と撮りたいって思ってたから、ゲーセンでいいんじゃない? 凍華にしてはナイスアイデア」
とりあえず俺の意見に反対するのが使命のような美千瑠も、一言余計だが、すんなりと同意し、今日の放課後はゲーセンで遊ぶこととなった。




