第35話 俺の彼女がえっちな展開にしたがる
美千瑠はぷくっと頬を膨らませると、やっと少し離れてくれた。
「凍華が気に入ってくれるかと思って選んだのに、ちょっと反応薄くない? 好みじゃなかった?」
「え……? 俺のために選んだのか?」
「当然でしょ? 彼女の水着姿、彼氏は嬉しくないの?」
「え、あ、いや、嬉しいと思うけど……」
「じゃあ、凍華も嬉しい?」
「え……。ああ、うん、嬉しいな……?」
俺の言葉に美千瑠はようやく少し笑った。何をそんなにむきになっていたのだろうか。
「良かった! 凍華、清楚系の色合いとか好きそうだもんね? そうだと思って選んだんだ~」
清楚系…………? どこが清楚系???
確かに色は純白で、可愛らしい花もところどころにあしらわれているわけだが、どう考えても露出度が高すぎる。
清楚とは真逆の、濃艶って感じですけど?
胸のその布はなんだ? 何を守るためにあるんだ? 隠せずに見えそうですけど? あとそのパレオは何のためにある? もうなくても一緒では?
などと言いたいことはたくさんあったが、また美千瑠を不機嫌にしてこちらに詰め寄られても厄介だ。大人しく頷いておくことにする。
「お、俺のためにわざわざありがとな……」
「うん!」
やっと満面の笑顔を浮かべた美千瑠に、俺はようやくほっと胸を撫で下ろす。
そうしてやっと、俺を家に呼んだ理由も分かった。
「水着、俺に自慢したかったのか?」
「そう! 超可愛いから、早く見てもらいたくなっちゃった! 存分に見ていいよ?」
「わー、ありがと~」と返答しながらも視線は明後日の方向である。
「でもどうせ明後日見るのに」
「そうだけどさっ、待ちきれなかったの」
「そ、そうか」
プールを楽しみにしているのは何よりだが、俺の寿命は縮まったのでその辺は反省してほしい。
「ん? 待てよ」
美千瑠の水着姿をちらっと見やる。
この水着でプールに行くつもりなんだよな?
スタイル抜群の容姿に露出度の多い水着。美千瑠は美少女だし、こんな恰好でプールに行けばナンパの嵐だろう。
美千瑠は案外抜けているところがある。男のことなど全く知らずに恋人ごっこを始めたり、自分一人しかいない家に平気で男を上げたりする。あまつさえ自分はシャワーを浴びるのだ。
男に声を掛けられたら、ほいほいついて行ってしまうのではないかと思う。
そもそも恋人ごっこは俺とじゃなくてもいいのか?
他の男でも、ノリが良くて美千瑠の恋人ごっこに付き合ってくれるようなやつなら、誰でもいいのだろうか。
一緒にいるのが気が楽、というそれだけの理由で選ばれた俺は、美千瑠にとってただのお遊びの友人の一人なのだろうか。
俺のことが好きかどうかも分からないとか言ってたしな……。
なんだか腹の底がムカムカとしてくる。
こういう気分になる時、俺は冷静さを欠き大抵余計なことを言ってしまうから嫌だ。
「美千瑠、もう少し良く見せてくれ」
「え?」
「水着。俺に見せるために選んでくれたんだろ?」
「う、うん……。どうぞ……」
美千瑠は俺に一歩歩み寄ると、手を広げて自身の水着姿を見せつける。
俺は顎に手を当てながらそれをじーっと見つめる。
自信満々だったはずの美千瑠は、もじもじと身体をくねらせ始める。胸元を抱え込み、恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「きゅ、急になに……? ちょっと恥ずかしいんだけど……」
美千瑠の言葉に、俺は即座に反応する。
「今恥ずかしいって言ったか?」
「う、うん……言ったけど……」
「俺もそう思う! この水着は露出度が高すぎて恥ずかしいと思う!」
「え、え? ……恥ずかしい……?」
「ああ」
俺は力強く頷く。
「上着を羽織るとか、長めのパレオにするとか、もう少し品を出した方が可愛いと思う!」
「凍華は、そういうのが好きなの?」
「あー、うん。まあな」
当然露出が多い方が好きだ。しかし今の美千瑠の姿を、世間の男に見せるのはなんだか気に喰わなかった。
「そっか……可愛いと思ったけど」と少し落ち込み気味の美千瑠。
よしよしこれで当日はもう少し露出度を抑えられそうだ。
思い通りに事が進み、俺が満足げに口元を緩ませていると、「えいっ」と言って美千瑠がソファにダイブしてきた。
「うおっ!?」
水着姿のまま俺の横に座った美千瑠は、俺に寄り掛かる。
「せっかく可愛い水着だから、凍華にだけ見せることにするね!」
美千瑠はにっと笑うと、その豊満な膨らみを俺の腕に押し当ててくる。
「こんなに可愛い美千瑠ちゃんを独占できるのは、凍華だけなんだからね?」
にんまりと口角を上げた美千瑠は、俺をからかうように見上げる。
こいつ、どうして平気でこんなことが出来るんだ……!? 俺は本当の彼氏でもなんでもないのに!?
美千瑠にとっては軽いスキンシップで、恋人同士ならこれくらい当然だと思っているのかもしれない。
当然なわけないだろ……!!
こういう展開にはならないように気を付けていたのに、俺の彼女がそうさせてはくれないようだった。




