第32話 彼女の水着
翌日待ち合わせ時刻の午前十一時。
いつものように集合場所の駅前に五分前に到着していたのは俺一人。
これも最早慣れたもので、文句を言う気力すら湧かない。
よく外国の人は待ち合わせ時間に来ないと言うが、あいつらも群を抜いてマイペースなやつらだ。俺も遅刻してくるくらいがちょうどいいのかもしれない。
三人がやって来たのは、それぞれ約束の美千瑠十分後、真宙十五分後、結菜三十分後だった。
「遅くなってごめんねぇ~」と駆け足でやって来る深窓の令嬢様は、自分が待ち合わせ時刻を設定した張本人だと分かっているのだろうか。
「おっし行くか!」
「「「おー!」」」
真宙の号令に、俺達は高校の最寄り駅前にあるショッピングモールへと足を踏み入れる。
夏真っ盛りとあって、どの店もこぞって水着や夏服を前面に押し出している。期間限定の催事場も今は水着のショップが入っているようだ。
「男子と女子で分かれて、一時間後に集合でいいか?」
俺が提案すると、美千瑠と結菜は何故か「え?」みたいな顔をした。
「あ、悪い。結菜は真宙と選びたかったか?」
思わずそう訊いてみると、何故か真宙の方が首をぶんぶんと横に振った。
「いやいやいやいや!! 女子は女子同士で選んだ方がいいって! こっちはこっちで楽しくやるし、二人もゆっくり選んでくれよ!」
真宙の言葉に、「わかった~」と二人は頷いて、早速とあるショップへと入っていく。
隣で「はぁ~……」と盛大にため息を漏らしてる真宙に、俺は声を掛ける。
「どうした?」
「あ、いや、結菜、俺と水着選びたかったりしたかな?」
「あー、どうだろうな……そりゃ彼女は彼氏が喜ぶ水着がいいに決まってると思うけど」
「そう、なのかなぁ……」
真宙の言わんとしていることは分かる。
「いちいち緊張しすぎじゃないか? たかが水着くらいで」
「たかが!? あの超絶可愛い結菜が水着着るんだぞ!? どれも似合うに決まってる。試着した水着を見せられたりなんかしたら、俺は心臓がいくつあっても足んねーよ……」
相変わらずピュアピュアな男である。
ごちゃごちゃ言ったところで、明後日にはその結菜の水着を直視しなきゃいけないということを、真宙は分かっているのだろうか。
「凍華だって、美千瑠の水着想像してドキドキしたりするだろ?」
「ドキドキって……」
以前の俺だったら「しない」と即答していたのだが、俺は思わず美千瑠のビキニ姿を想像してしまった。
ブラウスを着ていても露骨に分かる胸周りの膨らみに、ほっそりとした腕。デコルテも綺麗だったし、さぞ似合うことと思うが…………。
美千瑠とキスしてしまったせいか、俺は美千瑠をすっかり女子として見ていることにようやく気が付いた。
真宙のにやにや笑いが目に入って、俺ははっとする。
「……なんだよ……」
「いや? 凍華もちゃんと美千瑠が好きなんだなーって」
真宙の言葉に、俺は何も言い返せなかった。
俺はまだ、美千瑠のことが好きかどうかも、自分自身で分からないのだから。
俺と真宙は適当な水着を十分で選び、購入し、適当に服を見て回った。
そうこうしている間に約束の一時間後になり、美千瑠と結菜に合流する。
「いいのあったか?」
真宙の問い掛けに、「うん!」と嬉しそうに頷く結菜。
結菜はによっと可愛らしくも怪しげに笑うと、俺の元へとやって来る。
「美千瑠ちゃんの水着、超可愛いよ~!」
「ちょ、ちょっと結菜!?」
「えへへ、凍華くん楽しみにしててね~」
慌てて止めに入る美千瑠に、お構いなしに結菜は得意そうに胸を張る。ほんと仲良いな、この二人。
「そうか。楽しみにしとくよ」
「ええっ!?」
俺が答えると、美千瑠は大仰に驚いた。




