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第30話 俺達の関係は、これでいいのか?


 美千瑠から恋人ごっこをしよう、と言われたとき。


 美千瑠は、放課後に一緒に勉強したり、クレープを食べに行ったりしたいと言っていた。


 なんとも可愛らしいピュアな少女漫画みたいな恋人関係だなと笑ったのを、今でも覚えている。


 実際、初めはただ一緒に登校したり、放課後にコヒバに行って駄弁ったり、図書室で勉強したりと、まさにピュアな恋人そのもののごっこ遊びだった。



 しかし、今はどうだろうか?



 付き合ってもいない男女が、平気でキスをするものなのだろうか?


 俺には恋愛経験がない。きっと美千瑠だってそうなのだ。


 恋人がいたことがない、と言っていたのを話半分に聞いていたわけだが、きっとそれは本当で、美千瑠は恋人がいたことがない。今ならそう確信できる。


 だからこそ、俺なんかとしてしまったキスが忘れられずに、自分の気持ちを確かめるように俺にキスをするのだ。好きかどうかも分からない俺に、キスをするのだ。



「……美、千瑠……っ」



 俺は美千瑠の肩を掴み、距離を置かせる。


 美千瑠ははっとしたように慌てて俯く。苦しかったのかその肩は小さく上下している。

 俺は息苦しさを誤魔化すように、大きく息を吸い込んだ。


「お前、自分が何をしているのか分かっているのか?」


 呼吸が整っていないせいか、思ったよりもきつく冷たい声が出てしまった。

 俺の言葉に、びくっと肩を揺らす美千瑠。


 ああ、くそ、なんて言ったらいいんだ。酸欠のせいか上手く頭が回らなくて言葉がまとまらない。


「わ、悪い。責めてるわけじゃ、ない……」


 美千瑠はそっと顔を上げる。


 何て言ったらいい?


 俺は確かに恋人ごっこを承諾したが、ただ二人で遊ぶことだけを想定していた。

 まさかこんなことになるとは思っていなかったのだ。



 これではまるで、俺達の関係は…………。



 俺がどう言おうかと考えあぐねていると、美千瑠が小さく呟く。



「……凍華は、…………嫌……?」

「え?」

「私とキスするの、……嫌?」


 こてんと可愛らしく首を傾げて俺を上目遣いで見上げてくる美千瑠。

 こいつ狙ってやってんのか? と苛立たしく思いながらも、俺は正直な気持ちを打ち明ける。


「嫌、とかではないけど……」

「だったら何が不満?」

「不満って……」


 不満とかではない。ただ、これが正しいことなのか、してもいいことなのか、俺の中で判断が付かないのだ。


 俺と美千瑠の関係は、このままでいいのか……?


「凍華が嫌じゃないなら、私は恋人ごっこ、まだ続けたいな……」


 「いいでしょ?」と美千瑠は妖艶な笑みを浮かべている。


 いいのか? これで?


 俺と美千瑠の恋人ごっこは、きっともう一線を越えてしまった。


 この先もう、友人には戻れなくなるんじゃないか?


「凍華が飽きたっていうなら言って。そうしたら、やめるから……」


 美千瑠ってこんなやつだったか……?


 もっとピュアで明るくてちょっと抜けてて。俺の言葉にむきになって言い返してくるようなやつで……。


 目の前にいる美千瑠はそんな幼い影を残しながらも、何故だかやたらと綺麗に見えた。


「先生そろそろ帰ってくるだろうから、そうしたら当番も終わりなの。一緒に帰ろうよ」

「……あ、ああ……」


 美千瑠はにこりと微笑むと、最後にちゅっと音を立ててキスをした。




 俺は保健室を出ると、昇降口で美千瑠を待つことにする。

 相変わらず滝のように流れ落ちる雨を見つめながら、本当にこれで良かったのだろうかと、ずっと自問自答し続けていた。




 それからは変わりなく、俺達はなんてことない無駄口を叩き続けて、そうしていつもの駅で別れを告げた。


 ひらひらと手を振った美千瑠の姿を、俺はもうとっくに見慣れていたはずなのに、美千瑠が本当の彼女だったらこんな毎日を送るのだろうかと、無意識のうちに考えていた。




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