第26話 とりあえずのキス
結菜が最後に乗りたいと言ったアトラクションは、観覧車だった。
まさに遊園地の定番である。
パーク内一の高さを誇り、パーク内全体を見渡せる観覧車。夕暮れ時も相まって、観覧車の待機列は他のアトラクションよりも長かったが、四人で話しているとあっという間だった。俺達の番がやって来ると、先程と同じように俺と美千瑠、真宙・結菜カップルで分かれることになる。
先に二人を行かせて、次のゴンドラに俺と美千瑠も乗り込んだ。
「おー、おー、どんどん人が小さくなっていく!」
美千瑠がはしゃいだような声を出し、ゴンドラの窓に張り付いている。
ゴンドラが上に昇って行くにつれ、ガタンガタンと身体が揺れる。
楽しそうな美千瑠の笑顔がなんだか眩しかった。
もうすぐ今日が終わる。
楽しかった一日が終わるのは、何故だか物悲しさがある。
「子供みたいな感想だな」
俺が笑うと、「だってまだ子供だし」と、美千瑠は少し不貞腐れたように頬を膨らませる。
確かに俺達はまだ高校生で、大人から見たら当然まだまだ子供だ。どんなに背伸びをして大人ぶってみても俺達は子供で、きっとそんな思春期で子供な俺達だからこそ、少し道を間違えてしまうこともある。
窓に張り付いていた美千瑠は、座り直すと俺を正面から見つめる。
「凍華、ありがとね」
「なんだよ急に」
「私のわがままで、恋人ごっこに付き合ってくれてさ」
「ほんと今更だな」
「でもやっぱり凍華のおかげで楽しかったことも結構あって。恋人がいたらこんな感じなのかなぁって、今日もすっごく楽しかった!」
普段冗談ばかりを言い合っている美千瑠が、突然やけに素直な気持ちを言葉にするので俺はこういうときいつも戸惑ってしまう。
「まぁ、それは俺も……。わりと楽しかったし……」
「そっか! よかった!」
にこっと笑う美千瑠に、入学式の日の笑顔が重なった。
美千瑠は窓の外に視線を向ける。
「そろそろ頂上だね」
「そうだな」
ガタガタと音を立てながら、俺達を乗せた観覧車は間もなくこのパークの頂上へと達する。
「ねえ、凍華、知ってる……?」
「何をだ?」
「観覧車の頂上でキスをしたカップルは別れない、ってやつ」
「ああ、よく聞くな。そういうジンクス、女子は好きだよな」
「うん、だから……。……私達も、キス、……してみる……?」
「は?」
一瞬何を言われているのか分からず、俺は目を瞬かせた。
「私達も……頂上でキスしようって、言ってるんだけど……」
正面に座る美千瑠は顔を真っ赤に染めていて、それが夕焼けのせいなのか自身の発言のせいなのかはよく分からなかった。
さすがの俺も動揺を隠せない。
「き、キスって……じょ、冗談ならいい加減にしてくれ。そもそも俺達は付き合っていないし、別れるも何も、」
美千瑠が立ち上がりこちらにやってくる。少し切なそうな表情を見てしまった俺は、さすがに何も言えなくなってしまった。
狭いゴンドラ内は、美千瑠が立ち上がり動いたせいでぐらりと派手に傾ぐ。
「みち……」
「……冗談じゃ、ないよ……?」
美千瑠は俺の膝の上に乗ると、自身の腕を俺の首へと回す。
「凍華……、してみてもいい……?」
「ほ、本気、か……?」
「……うん、本気。私達、今は恋人でしょ?」
「それはごっこであって……」
「キス……、してみたいの……」
「だ、だからって……っ」
俺がごちゃごちゃ言っている間に観覧車は頂上へと到着した。
その瞬間、柔らかいものが俺の唇に押し当てられる。
ふわっと甘い香りが鼻腔をくすぐった。
ゆっくりと唇を離した美千瑠は、「えへへ」と照れくさそうに笑う。
「キス……、しちゃったね……」
上気した頬に何故だか嬉しそうな笑みを浮かべている美千瑠があまりに可愛らしくて、俺は思わず美千瑠を抱き寄せた。
「えっ、凍華……?」
「……ごめん、もう一回だけ……」
「うん……、いいよ……」
観覧車はとっくに頂上を過ぎていて、夕陽が眩しく室内を照らしていた。
俺と美千瑠は、それから何度もキスをした。
俺と美千瑠はその日。
恋人ごっこの一線を越えてしまった。
いつもお読みいただきありがとうございます!
楽しんでいただけておりますでしょうか……
この辺りから、遊びだった恋人ごっこが少しずつ形を変えていきます。
引き続きお読みいただけますと嬉しいです!
今日はクリスマスイブですね
よき日となっておりましたら幸いです
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Merry Christmas ☆
2025.12.24 四条 葵




