第23話 本気で付き合ってみるのもありかも?
一人戸惑うことになった波乱のジェットコースターを終えると、真宙に支えられながらふらふらと歩いていた結菜がぐったりとベンチに腰を下ろした。
「ごめんみんな~、私、少し休憩したいかも……」
そう弱々しい声を掛けて来た結菜の顔は真っ青だった。
「結菜!? 大丈夫!?」
美千瑠が慌てて結菜へと駆け寄る。
「ちょっと気持ち悪くなっちゃって……」
「凍華、美千瑠。結菜は俺が見てるから、しばらく二人でどこか回ってきてくれよ」
真宙に言われ、俺も美千瑠も同じように眉を下げる。
「でも……」
「そうしてそうして! 私、少し休みたいから……」
確かに三人に心配されている状況では落ち着かないだろう。結菜と真宙は付き合っているわけだし、ここは彼氏に任せるのが適任だ。
結菜の言葉に、美千瑠も察したのか渋々頷く。
「分かった! ちょっと一アトラクション行ってくるよ! 真宙くん、結菜をお願いね」
「もち!」
真宙が結菜の背中を擦りながら、空いている方の手でビッと親指を立てた。
「行こっ、凍華」
「ああ」
力なく手を振る結菜を横目で見ながら、俺達は二人で適当に時間を潰すことにした。
「結菜、大丈夫かな……」
「ちょっと休めば落ち着くと思うが……。乗る前から気分悪そうだったもんな」
高低差と起伏のエグいジェットコースターだった。臓器がシャッフルされるような感覚。苦手な人はきっと気持ち悪くなってしまうだろう。
俺も絶叫系は得意なわけではないのだが、幸か不幸か、美千瑠のおかげで気が反れていたこともあって事なきを得たようだった。
「真宙くんと二人きりの方が、私達に気を遣わなくてもいいだろうし、きっと元気になったら連絡くれるよね! それまで二人で遊んでよ」
「だな」
ふらりと歩き出した俺達は、空いていそうなアトラクションがないか適当に見て回ることにした。
やってきたのは、園内の船着き場のようなスポット。そこには小さなクルーザーを模した船が並んでいるのだが、もちろん園内の移動用なので乗車できるのは十数名程度の小ささだ。
美千瑠が突然「チュロスが食べたい!」と言い出したのでチュロス屋さんの場所へ向かうのに、この船で移動した方が楽しいしゆっくりできるということで俺達はそれに乗り込むことにした。
「このあと飯食べる予定があるのに、間食なんてして昼飯入るのか?」
「大丈夫! すっごく小さい星型のチュロスだから! 食べた内に入らないって」
「……美千瑠って意外に食うよな」
小柄な結菜と比べてしまうせいか、美千瑠は健康的にもりもり食べる。かと言って全く太っているということはなく、付くところには肉が付いており、引き締めるべきところは引き締まっているように思う。
今日は肩回りがはっきりと見える服だからか、やたらと細く感じるわりに上半身の膨らみが強調されているような気がした。
美千瑠はぷくっと頬を膨らませる。
「凍華、私が太ってるって言いたいの? ほんっと一言余計!」
「言ってないだろそんなこと。被害妄想だ」
「じゃあなに? 何が言いたかったわけ?」
「えっ。いや、その……」
少し露出が多くて目のやり場に困るのと、先程のジェットコースターでの美千瑠の柔らかい感覚が腕に残っていて……なんてさすがの俺もはっきり言えるはずがない。
これじゃまるで、俺が美千瑠にドキドキしてるみたいじゃないか。
「まもなく出発いたしまーす!!」
タイミングよくクルーザーが出港し、会話はそれまでとなった。
結局この時間の船に乗ったのは、俺と美千瑠の二人だけ。運良く貸し切り状態だった。
「ていうか美千瑠、ずっと言いたかったんだが、お前のせいでこんなことになってる自覚はあるか?」
「え? なんのこと?」
風でなびく髪を抑えながら、美千瑠はきょとんと首を傾げる。それがわざとなのか分かっていてなのかは判断がつかない。
「俺と美千瑠が恋人同士だって、真宙と結菜にバレたことだよ」
四人で遊べるのはもちろん嬉しいことなのだが、俺と美千瑠が付き合っていると嘘をつかなくてはいけない状況になっているのは、何を隠そう恋人ごっこなる遊びを始めた美千瑠のせいである。
まぁ俺も悪ノリしてそれに付き合ってしまっているわけだから、正直責められたものではないが。
「ああ、そのことか」
美千瑠は何とも思っていなさそうにあっけらかんと口を開く。
「別にいいじゃん。こうしてまたみんなで遊べて楽しいんだし」
「二人に嘘ついたままなんだぞ?」
「じゃあ、私達も本気で付き合っちゃえばいいんじゃないの?」
「は?」
「二人に後ろめたいって言うなら、私達も付き合えばいいんだよ」
「あのなぁ……」
美千瑠は時々本気なのか嘘なのか分からないようなことを言ってくる。どうせ俺をからかって笑いたいだけなのだろうが、真剣に話しているこっちの身にもなってほしい。
「もうそのネタはいいっつの」
俺は肩を竦めて話を打ち切った。
美千瑠が適当なやつであることは今に始まったことでもない。こういうやつだからこそ、恋人ごっこをしようなどと提案してくるのだ。
俺が盛大なため息をついていると、小さなクルーザーは園内の反対側の港に到着した。
「足元お気を付けてお降り下さいね~」
ニコニコと見送ってくれる船長さんらしきスタッフさんにぺこりと頭を下げながら船を降りると、先に降りた美千瑠が俺を振り返ってにっと笑う。
「私、最近結構楽しいんだよね。凍華と本気で付き合ってみるのもありかも? なんて」
「………………は?」
問い質す前に「あ! チュロス屋さんあった!」と美千瑠は店の方へ駆け出してしまう。
俺はその場で呆然とするしかなかった。
本気で付き合ってみるのもありかも?
冗談、だよな……?




